長く仕事をするなかで「自分の意見は浅い」「資料のポイントがうまくまとめられない」と、悩んだことはありませんか? そんなとき、自分のアウトプット能力の低さを責める必要はありません。思考を深めていく具体的な方法が身についていないいだけなのです。
では「自分の頭で考え、深く思考できる人」は、いったいどんなことをしているのでしょうか。コンサルタントとしてさまざまな国籍の部下を率い、多くのプロジェクトリーダーとして活躍している、Shinさんにお話を伺いました。
以前はコピー1枚取れず、落ちこぼれだったと話すShinさんが、そこから脱するためにできる人を観察し、見つけたのが、「思考力を深める5つの言葉」です。これらの言葉で考えるクセを身につけ、思考力を深めていけば、周囲からの評価も上がってくるはずです。
■1:思考を前に進める「具体的には?」
営業成績を上げよう、コストを削減しよう、といった会社のスローガンは提示されたものの、一体何をしていいのか、悩んだ経験はありませんか。
「ふわっとした抽象的なことを、あいまいなまま考えていると思考は深まらないんです」と、Shinさんは指摘します。「どうすればいいんだろう……」と悩んでいる状態から抜け出し、一歩前進させるには「具体的にどうしたらいいんだろうか?」と、問いかけていくことが大事です。
例えば、営業成績を上げると一言に言っても、単価を変えずに売り上げ数を増やすのか、値上げをして数をキープするのか、いろいろありますよね。このご時世、値上げ増は難しいとなれば、どこで数を増やすのか、考えなければいけません。オンラインに力を入れるのか、営業が手薄だったエリアを重点的に攻めるのかなど、具体的に考えていくことで、やるべき行動が見えてきます。
このように、「具体的には?」と考える癖をつけることで、深く考えられるようになります。自分が悩みから抜け出すときはもちろん、会議で行き詰ったときにも有効な言葉です。
さらには、部下から「うまくできませんでした」という報告を受けたり、アドバイスを求められたりしたときにも役立ちます。ただし、いきなり「具体的には?」と切り返されると、相手は怒られているように感じて委縮してしまうかもしれません。
「具体的に、どこが悪かったと思う?」とか、「ひとつだけでいいから、具体的にどこがうまくいかなかったか教えてもらっていいかな?」など、言い方には工夫が必要です。
■2:目指すべきゴールを明確にする「理想は?」
「うちの会社って、●●だからダメなんだよね」。仕事の合間に、同僚や部下たちとそんな会話を繰り広げたこと、ありますよね。
「人間って、どうしてもマイナスの側面が見えてしまうことがあります。ただし、マイナスの部分をあげつらうだけでは何も変わりません」と、Shinさん。
では、どうすればいいのでしょうか。マイナスの側面が見えている状態だと、何から手をつけていけばいいのか、わからないもの。だからこそ、「理想としては、どういう会社になったらいい?」と考え、ゴールを具体的に思い描くようにすると、思考がクリアになり、深まっていきます。
売り上げを伸ばす、会社の雰囲気を改善する、どんなブランドが会社にあるといいなど、理想を挙げていくことで、現状とのギャップが明らかになります。足りない部分が明確になれば、「具体的にどうすればいいのか」考えて、行動に移すことができるのです。
もし、部下が仕事のことで悩んでいたら、「自分にはできないかもとか、そういうのは外して、理想はどういう風になっていたらいいと思う?」と、話を聞いてみるといいそうです。
部下から「3年後の28歳で△△さんみたいになりたいです」と返ってきたら、「△△さんが持っている素晴らしいところはどこだろう」と、さらに聞いていきます。目指すべき理想がわかれば、悩みから抜け出し、具体的に動くことができるのです。そうなれば、その後の展開は大きく変わっていくようです。
自分自身に対しても、「例えば3年後にどうなりたいのか、理想を書き留めることは大事です」と、Shinさん。理想をイメージしておくと、自分に何が足りないのか、やるべきことが明確になり、成長することができます。
■3:物事の本質をつかむ「そもそも」
日々、目の前のやるべき仕事に忙殺されてしまうと、「なんで、この作業をしているんだろう?」と、仕事の全体像が見えなくなってしまうことがあります。例えばあなたが勤務先企業のウエブサイトのリニューアル担当者だとして、社内各所のさまざまな要請からサイトのデザイン修正を何度も繰り返すうちに、「色を目立たせればいいの?」「写真を大きくすればいいの?」などと頭が混乱し、目的を見失ってしまう…などは、その一例。
そんなときに有効なのが、「そもそも」と考えることなのです。「そもそも、オンラインからの売り上げを増やすために、もっとクリックしやすいデザインにしようとしていたんだった」と気づけば、軌道修正ができます。本質から問い直すことで、モチベーションも仕事のクオリティも上がってくるはずです。
新しい経営戦略を立てる会議などでも、議論が白熱してくると、本質からズレていくことがあります。頭のなかで、「あれっ、なんか変だな?」と感じたら、「そもそも」と、スタートに戻って問い直せば、適切な方向に議論を戻すことができます。
とくに、管理職やプロジェクトリーダーなど、上に立つ人ほど「そもそも」と考えることが必要だとか。迷走して物事の本質が見えていなければ、部下に的確な指示を出すことができないからです。
もし、悩んでしまって部下に指示が出せないときは、「自分でも整理ができていないので、5分待ってください」と、正直に伝えましょう。そして、「そもそもの目的はなんだったのか」と自問自答し、思考を深めてから伝えるほうが、部下からの信頼も得られるでしょう。
それでもわからなければ、上司に「そもそもの目的は●●でいいでしょうか」と、相談してみましょう。そうすることで、問題がシンプルになり、解決への近道となるはずです。
■4:思考を整理する「一言で言うと?」
会議用の資料を作成したり、クライアントと打合せをしたりするときなど、私たちはさまざまな情報を得ることから始めます。そして、集めた情報を自分の中で整理して、思考を深めていきます。
もし、いろんなデータをそのままつなぎ合わせて会議用の資料を作成したとしたら、聞いているほうは何が言いたいのか、わかりませんよね。膨大な情報から「一言で言うと、何が言いたいのか」と整理し、考えることで、主要なメッセージをつかむことができるのです。裏を返せば、内容を的確に理解しなければ、一言で言うことはできないということです。
「提案書で伝えたいことを、一言で言うとなんだろう」「クライアントの要件を一言でまとめるとなんになるだろう」というように、「一言で言うと?」を習慣づけることで、部下への指示や説明も的確になり、上司への報告にも無駄がありません。
また、「一言で言うと?」は、会議や打ち合わせの席でも重宝します。参加者の意見を整理したり、情報が錯綜して論点があちこちに飛んだりしても「一言で言うと、××でいいでしょうか」と確認し、参加者全員で方向性を共有することもできるのです。
さらには、部下との打ち合わせ中に、「このプロジェクトの目的って▲▲ですよね」と、よどみなく一言で言い表すことができるような部下であれば、仕事を任せても大丈夫だと、Shinさんは話します。
■5:思考の質を高める「なぜそう言えるのか?」
「上司との関係がうまくいかないから、コンサルティング的な思考を身につけたいと考えているんだけど、どう思う?」。同僚からそんな相談を受けたら、どう感じますか。「違和感をもつけど、何が変なのか、わかりにくいですね、きっと」と、Shinさん。
悩みや問題を解決するためには、3つのステップがあります。最初にするのは「問題が何かを明確にする」こと。2番目が「原因を究明する」こと。そして最後が「行動する」ことです。
冒頭の相談を、この順序で考えると、問題は「上司との関係がうまくいかない」ことだとわかりますね。そして、原因を究明することなく、「コンサルティング的な思考を身につける」という行動に出ようとしているのです。違和感の正体は、まさにそこにあります。
「上司との関係がよくない」のは、なぜか。原因を明らかにして、それに対応した行動をしない限り、関係は改善されないでしょう。闇雲に行動しても疲弊するだけで、問題はなくならないのです。
このように、2番目の原因をすっ飛ばして、いきなり行動を選択する(仮説を立てる)ことは、ありがちです。そんなとき、「なぜ、そう言えるのか?」と、問うことが大切になってきます。
経営会議などで、「●●の売り上げを伸ばすのが、効率的だ」と、誰かが発言したとします。そのとき、「なぜ、そう言えるのか?」と問い、明確に答えられれば、思考を深めたうえでの発言だとわかります。「少し考えが浅いな」と感じたら、「そもそも、なぜ●●なのか」と、本質から問い直してみましょう。
以上、「5つの思考を深める言葉」を意識し、毎日使い続けることで、自然と自分の考えを深めていくことができます。仕事をしていれば、うまくいくこともあれば、失敗することもありますよね。そんなとき、なぜうまくいったのか、なぜ失敗したのか、5つの言葉で自分に突っ込みを入れながら、都度書き出し、ときに読み返すことで、確実に思考力は高まっていきます。日々の積み重ねこそが大事なので、もっと思考力を高めたいと考えている女性はぜひ、やりやすいものから取り入れていただきたいです。
公式ブログ
『コピー1枚とれなかったぼくの評価を1年で激変させた 7つの仕事術』Shin・著 ダイヤモンド社刊
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 山本裕美