■1:「日本民藝館」のアイヌコレクションで民族の多様性に触れることができる『アイヌの美しき手仕事』

「民藝」という言葉の生みの親であり、日本民藝館の創設者でもある柳宗悦(1889-1961)。彼は民衆による工芸品の美を称揚し、民藝運動を興した人物でもある。柳はアイヌ民族の造形美にいち早く着目していた。

そして儀式のための道具から日用品まで幅広くアイヌの品々を積極的に収集したという。

本展では、そんな柳のコレクションと、やはりアイヌの品々に魅了された染色家・芹沢銈介が集めたものを加えた選りすぐりの作品約180点が並ぶ。

展覧会_1
木綿地切伏刺繍衣裳 北海道アイヌ 日本民藝館蔵
展覧会_2
首飾り(タマサイ)部分 日本民藝館蔵

今回の見どころのひとつは、1941年に日本民藝館で開催されたアイヌ展の再現展示です。当時、柳に一任された芹澤が手がけた展示の一部を追体験できる内容で、上下・左右いっぱい、壁一面にかけられた衣装や刀掛けの帯など、迫力ある展示を堪能できます。

丹念に編まれた花ござや、チェペニパポ、シカリンパハと呼ばれる食事用の器など日常の品々。イクパスイという儀式のための繊細な木の道具。

母から娘へと伝えられる宝物(イコロ)でもある大きな玉(ぎょく)を連ねた首飾り。複雑かつ繊細な刺しゅうや緻密な彫りが施された品々は、どれも日々の暮らしの中でよりよいものをつくりたいという率直な想いから生まれたものばかりです。

長い歳月の中で日常の必然に寄り添いながら紡ぎ出された造形はどこか優しく、それでいて力強い。

柳や芹澤が心ふるわせたアイヌの工芸品たち。最初の展示から60年の歳月を経た今、私たちもその魅力と改めて向き合うことができます。

Information

  • 『アイヌの美しき手仕事』 
  • 日本民藝館に所蔵された、細部にまで豊かな想像力や深い精神性が宿ったアイヌの工芸品を約180点展示。柳宗悦が「アイヌを最上の姿で示した展覧であった」と自身で評した1941年の展示の再現、そして染色家の芹沢銈介のアイヌコレクションも紹介され、民族の多様性に触れることができる。
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  • 会場/日本民藝館
  • 会期/2020年9月15日(火)〜11月23日(月)
  • 開館時間/10:00~17:00(最終入館は16:30まで)
  • 休館/毎週月曜日(但し祝日の場合は開館し、翌日休館)、年末年始、陳列替え等に伴う臨時休館有り
  • 観覧料/一般¥1,100(¥900)、大高生¥600(¥500)、中小生¥200(¥150)
  • ※( )は20名以上の団体
  • ※団体見学をご希望の方は必ず事前にご予約ください。
  • ※障がい者とその介護者1名は割引料金500円にて入館できます。手帳をご提示ください。
  • TEL:03-3467-4527
  • 住所/東京都目黒区駒場4-3-33

 


■2:日本とフランスの「美の往還」をポーラ美術館の名品で検証する贅沢な展覧会

日本でゴッホを好きな人が多いのはなぜかをたどっていくと、早くから、文芸雑誌『白樺』で熱心に紹介されていたことがあります。逆にモネやゴッホが日本に憧れ、浮世絵の構図を引用も。その背景にはジャポニズムブームがあり、ゴッホもモネも浮世絵を集め、身近に観ていたという事実があります。

日本とフランスというふたつの国の相互関係、「美の往還」を検証するこの展覧会は、私たちの愛するアートが、どんな経緯で、私たちの目の前にあるのか?そのルーツを知るきっかけを与えてくれるという意味でも、とても興味深いです。

もちろんモネ、ゴッホ、セザンヌなど、ポーラ美術館の名品が味わえるという意味でも、魅力的な展覧会となっています。

展覧会_3
フィンセント・ファン・ゴッホ《ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋》1888年 ポーラ美術館
展覧会_4
黒田清輝《野辺》1907年(明治40) ポーラ美術館

Information

  • 『Connections―海を越える憧れ、日本とフランスの150年』 
  • クロード・モネ、フィンセント・ファン・ゴッホらも重要なインスピレーション源としていた日本の浮世絵や工芸品は、欧米の芸術文化に多大なる影響を与えた。また、黒田清輝らがフランスへ留学し多くのものを吸収したものが近代日本美術の礎に。本展では、そんな日本とフランスのふたつの国の「美の往還」を検証する。
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  • 会場/ポーラ美術館
  • 会期/2020年11月14日(土)~2021年4月4日(日)
  • 開館時間/9:00~17:00(入館は16:30まで)
  • 休館/年中無休(2020年11月4日(水)~11月13日(金)まで展示替えのため臨時休館中です)
  • ※ご来館に際しての日時指定予約は【不要】です。
  • ※混雑状況に応じて【展示室内のお客様人数を制限】しています。
  • ※所定の制限人数に達した場合、展示室入口にて一時入室をお待ちいただく場合がございます。
  • 観覧料/一般¥1,800(¥1,500)、シニア割引¥1,600(¥1,500)、大学・高校生¥1,300(¥1,100)、
  • 中学生以下無料、障害者手帳をお持ちのご本人及び付添者(1名まで)¥1,000(¥1,000)
  • ※( )は15名以上の団体
  • ※団体見学をご希望の方は事前にご予約ください。
  • TEL:0460-84-2111
  • 住所/神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285

 


■3:根津美術館の根幹をなす所蔵品を一挙公開! 創立80周年を記念し、展覧される貴重な国宝と重要文化財95点

実業家・初代根津嘉一郎が蒐集した日本と東洋の古典美術品を愛でることができる根津美術館。なんと国宝が7件、重要文化財は88件を所蔵している。

根津美術館の収蔵品の根幹をなす指定品95件すべてが展覧される本展は、展示替えがあるため時期によって展示されるものは限られるものの、そのすべてを観ることができる貴重な展覧会。

個人的には《那智瀧図》、尾形光琳の《燕子花図屏風》、牧谿の《漁村夕照図》の3点が観られるのがとても楽しみ。とくに《那智瀧図》は、アンドレー・マルローが熱烈に愛したというエピソードもあり、機会があればできるかぎり観ておきたい国宝の名品だ。

展覧会_5
国宝 那智瀧図 日本・鎌倉時代 13~14世紀 根津美術館蔵
展覧会_6
国宝 燕子花図屏風 尾形光琳筆 日本・江戸時代18世紀 根津美術館蔵(12/1-12/13展示)

Information

  • 『財団設立80周年記念特別展「根津美術館の国宝・重要文化財」』 
  • 財団法人根津美術館として設立されたのが1940年。今年は創立80周年を記念し、収蔵品の根幹をなす95件をすべて展覧。文化財保護法に則って指定された根津美術館の所蔵品は国宝7件と重要文化財88件となり、実業家であった初代根津嘉一郎の鑑識眼の確かさがうかがえる。日本・東洋の古美術の名品をじっくり堪能したい。
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  • 会場/根津美術館
  • 会期/2020年11月14日(土)〜12月20日(日)
  • 開館時間/10:00~17:00(入館は16:30まで)
  • 休館/月曜日(ただし月曜日が祝日の場合、翌火曜日)・展示替期間・年末年始
  • 観覧料/【特別展】一般¥1,500、学生(高校生以上)¥1200【企画展】一般¥1,300、学生(高校生以上)¥1,000
  • ※小・中学生以下は無料。
  • ※受付にて障害者手帳をご呈示いただきますと、ご本人様と同伴者1名様まで、¥200引きでご入館いただけます。
  • ※日時指定予約制についての詳細は公式HPをご覧ください。
  • TEL:03-3400-2536
  • 住所/東京都港区南青山6-5-1

 

この記事の執筆者
TEXT :
林 綾野さん キュレイター・アートライター
BY :
『Precious12月号』小学館、2020年
美術館での展覧会の企画、絵画鑑賞のワークショップなどを行う。画家の創作への思いや人柄、食の趣向などを探求、紹介し、芸術作品との新たな出会いを提案。絵に描かれた“食”のレシピ制作や画家の好物料理を自ら調理、再現し、アートを多角的に紹介している。近著『なにを食べているの? ミッフィーの食卓』ほか、『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『セザンヌの食卓』『モネ 庭とレシピ』『ぼくはクロード・モネ絵本でよむ画家のおはなし 』(すべて講談社)、『浮世絵に見る 江戸の食卓』(美術出版社)など著書多数。
EDIT :
宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)