■1:国内の西洋美術コレクションの素晴らしさに改めて感動!横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館の選りすぐりを堪能できる『トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション』

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ゲルハルト・リヒター《オランジェリー》1982年 油彩、カンヴァス 260.0×400.0cm 富山県美術館蔵 © Gerhard Richter 2020(16062020)

特別に企画された展覧会に名品を観に行くのは、もちろん楽しい。だけれども、実は日本各地の美術館にも魅力的なコレクションがたくさんあり、それらを観て周れば結構満足できる。

ただ、実際には日本各地に出かけていくことはそう簡単ではない。ところが、今回の展覧会では、横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館という3つの美術館が所蔵する優れたコレクションが一堂に集まる。

展覧会タイトルにある「トライアローグ」は、「3者による話し合い」を意味する。3館は長い時間をかけて対話を重ね、作品を選りすぐったという。ピカソやクレー、ミロやマグリット、ポロックやリキテンスタイン、ベーコンやリヒターといった名だたる画家の作品約120点を通じ、20世紀の西洋美術の軌跡をたどる構成だ。

《青い肩かけの女》(愛知県美術館)、《肘かけ椅子で眠る女》(横浜美術館)、《座る女》《肘かけ椅子の女》(富山県美術館)と、3館それぞれが所蔵するピカソの女性像4点がそろうなど見所もたっぷりだ。

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ヴァシリィ・カンディンスキー《網の中の赤》1927年 油彩、厚紙 61.0×49.0cm 横浜美術館蔵

マティスの《待つ》(愛知県美術館)、シャガールの《山羊を抱く男》(富山県美術館)、カンディンスキーの《網の中の赤》(横浜美術館)など、国内にこんなに素晴らしい作品があったということに思わず感激。

この機会にお気に入りの作品を見つけておけば、それぞれの美術館を訪ね、再会することもできるというのもうれしい。西洋美術の名品鑑賞に浸りつつ、国内の美術館探訪の楽しみとも出合える展覧会だ。

Information

  • 『トライアローグ 横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション』 
  • 3つの公立美術館の「顔」となる、20世紀美術史を彩ったピカソ、ウォーホル、リヒターら巨匠を含む70作家の名品が約120点集結。日本の西洋美術収集の軌跡をたどる。 また、本展覧会を最後に、大規模改修工事のため2年を超える休館に入る横浜美術館の、リニューアルに向けてのクロージング展。少しの間、見納めとなる横浜美術館とそのコレクションをこの機会にチェックしたい。
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  • 会場/横浜美術館
  • 会期/開催中~2021年2月28日(日)
  • ※入場は日時指定予約制です。詳細は公式HPまで。
  • ※愛知県美術館(2021年4月23日(金)~6月27日(日))、富山県美術館(2021年11月20日(土)~2022年1月16日(日)にも巡回予定。
  • 開館時間/10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
  • 休館/木曜(2月11日を除く)、2020年12月29日(金)~2021年1月3日(水)、2月12日(金)
  • 観覧料/一般¥1,500、大学·専門学校生¥1,100、中学・高校生¥500、小学生以下は無料、65歳以上¥1,400(要証明書)
  • TEL:045-221-0300
  • 住所/神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1

 


■2:『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』で、日本の「琳派」とヨーロッパの「印象派」を見比べる貴重な機会を!

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俵屋宗達《風神雷神図屛風》江戸時代 17世紀 建仁寺蔵(国宝) (後期のみ展示:2020年12月22日〜021年1月24日)
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尾形光琳《孔雀立葵図屛風》江戸時代 18世紀 石橋財団アーティゾン美術館蔵(重要文化財)

「琳派」は17世紀の初めに京都で始まり、その後、江戸へと受け継がれた"都市の美術"で、「印象派」もまた、パリという都市で生まれた美術。

本展は琳派と印象派を都市文化が生んだアートとして、比較しながら見つめるというもの。琳派と印象派は、日本でどちらも根強い人気があるけれど、都市で生まれ、育まれたアートという共通点から、比較して見るというテーマ設定が斬新で興味深い。

まず、俵屋宗達《風神雷神図屛風》(国宝) を東京で見ることができるのは貴重な機会。アーティゾン美術館の新収蔵品である尾形光琳《孔雀立葵図屛風》 など、新たな作品を観ることができるのもうれしい。同館所蔵のモネ《睡蓮の池》、セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》など、印象派の名品も見逃せない。

金箔を背景に描き出される琳派のきらびやかな世界。油絵の具によって表現される印象派の光あふれるタッチ。

風合いはまったく違うけれど、日本とフランスを中心としたヨーロッパの都市文化がそれぞれに生み出した作品たち。そこからは都市のあり方、美術作品の存在意味、市民の立場や目線が、時代とともに変化していく様を感じることができる。

Information

  • 『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』 
  • 日本とヨーロッパという東西の都市文化が生んだ天才画家たちの作品を通じて、その洗練された感性を比較しつつ見渡すことができる展覧会。俵屋宗達《風神雷神図屛風》(国宝)を始め、国内の寺院、美術館、博物館から集結した名作を堪能できる。
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  • 会場/アーティゾン美術館
  • 会期/会期中~2021年1月24日(日)※展示替えあり
  • (前期:~12月20日(日)、後期:12月22日~1月24日(日))
  • 開館時間/10:00~18:00(入館は閉館時間の30分前まで)
  • ※入場は日時指定制です。詳細は公式HPまで。
  • ※毎週金曜日の20時までの夜間開館は、当面の間休止の予定。最新情報は公式HPをご確認ください。
  • 休館/月曜日(1月11日(月)は開館)、12月28日(木)~1月4日(月)、1月12日(火)
  • 入館料/一般¥1,700(ウェブ予約チケット)、¥2,000(窓口販売の当日チケット)、学生は無料(要ウェブ予約)
  • TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
  • 住所/東京都中央区京橋1-7-2

 


■3:大人も子供も、すべての人に愛され続けた、堀内誠一の世界観を見渡すことができる『ぜんぶ、堀内誠一』

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『ぜんぶ、堀内誠一』

絵本作家、デザイナーとして活躍した、堀内誠一の代表作である、『ぐるんぱのようちえん』(1966)、『こすずめのぼうけん』(1977)など、発表当時から現在まで、長年読み継がれてきた人気絵本の原画が見られる展覧会。『こすずめのぼうけん』は、全場面に加えて、掲載されなかった推敲中の絵も並ぶ。そんな創作のプロセスを見ることができる貴重な機会だ。

図書館での展示ということで、美術館とはまた違う距離感で作品と向き合えるのも新鮮。じっくりと作品を観た後、図書館で本を手に、お気に入りの一冊を探す楽しみも。

堀内誠一は『anan』や『BRUTUS』の創刊時アートディレクターを務め、雑誌名のロゴも堀内さんによるもの。絵本作家としての仕事だけではなく、そうしたデザインの仕事についても紹介されているので、堀内誠一の仕事を多角的に知ることができる機会となりそうだ。

Information

  • 『ぜんぶ、堀内誠一』 
  • 現代のアートシーンにも多大なる影響を与えた堀内誠一の原画展。絵本作家として、またグラフィックデザイナー、アートディレクター、装丁家、イラストレーターと多彩な顔をもつ堀内誠一が、生前に親交のあったアーティストたちの関連書籍も閲覧可能で、貸し出しも行う。堀内誠一の絵本が愛される様子を見続けてきた、公立図書館ならではの魅力が詰まっている。なお本展では、堀内誠一の谷川俊太郎との時を超えた共著『音楽の肖像』(小学館)に掲載された絵の原画も見ることができる。
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  • 会場/ゆいの森あらかわ 3階企画展示室
  • 会期/2020年12月5日(土)~2021年1月24日(日)
  • 開館時間/9:30~17:00(1月4日(月)は13:00~)
  • 休館/2020年12月17日(木)、12月29日(火)~2021年1月3日(日)、2021年1月21日(木)
  • 観覧料/無料
  • TEL:03-3891-4349(ゆいの森課ゆいの森サービス係)
  • 住所/東京都荒川区荒川2-50-1

 

この記事の執筆者
TEXT :
林 綾野さん キュレイター・アートライター
BY :
『Precious1月号』小学館、2021年
美術館での展覧会の企画、絵画鑑賞のワークショップなどを行う。画家の創作への思いや人柄、食の趣向などを探求、紹介し、芸術作品との新たな出会いを提案。絵に描かれた“食”のレシピ制作や画家の好物料理を自ら調理、再現し、アートを多角的に紹介している。近著『なにを食べているの? ミッフィーの食卓』ほか、『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『セザンヌの食卓』『モネ 庭とレシピ』『ぼくはクロード・モネ絵本でよむ画家のおはなし 』(すべて講談社)、『浮世絵に見る 江戸の食卓』(美術出版社)など著書多数。
EDIT :
宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)