ファッションにおけるトレンドという概念に、ある意味では終止符が打たれた2020年。しかしそれは、美しく装うことを放棄してよい理由にはならない。むしろ改めて腰をすえて、じっくりと考えるべきだ。私たち日本人は、これからいかに洋服を着るべきか?
そして私たちだからこそ生み出せる、新しいスタイルがあるのではないか?と……。
そんな日本人ならではの装い文化を、数十年にわたって研究し続けているのが、本誌でもおなじみのファッションディレクター、赤峰幸生さんである。世間的にはクラシコイタリアの立役者として名高いが、郊外の美しい田園地帯に居を構える彼の精神にはいつだって、日本人の矜きょう恃じが息づいている。窓から眺める秋の夕暮れ。無名の職人がつくった古ぼけた民藝品。彩り豊かな夕げ……。そんな日々の生活で出合うものすべてが、彼が選ぶスーツやVゾーンのヒントとなるのだ。いかにリヴェラーノ&リヴェラーノのビスポークスーツを着ていようと、そのスタイルは極めて日本的。彼が言うところの和魂洋装なのである。
和魂洋装な着こなしは「侘び」と「寂」にあり!
単なるトレンドや、「これとこれを合わせればお洒落」といったマニュアルでは解き明かせないその美意識を、いかに学び、わがものにするべきか?メンズプレシャスはそのヒントとして、日本古来の文化「わび・さび」を見出した。「わび・さび」。日本人ならだれもが聞いたことがあるし、一度は使ったこともある言葉だろうが、それを定義するのは実に難しい。岩波国語辞典第四版を引いてみると、わび【侘び】とは閑居を静かに味わい楽しむこと。さび【寂】とは古びて趣があること。枯れて渋みのあること、閑かん雅が・枯こ淡たんの美……などとある。「わび・さび」とはこのふたつの概念を融合させた概念である。「わぶ」「さぶ」を由来とし、万葉集の時代においてはマイナスのイメージが強かったこの言葉の意味は、欠乏や儚はかなさにこそ美を見出す日本人的感性のフィルターを通すことで、時代を経るごとに変貌を遂げていった。そして戦国時代の茶人、村田珠じゅ光こうや千利休の手によって、その概念は完成、芸術の域にまで高められたのだ。
16世紀に来日したルイス・フロイスは「われわれは金銀財宝を宝物と考えるが、日本人は古い鉄の釜、ひびわれた古陶器、土器の器を宝物としている」と語ったという。
和魂洋装といっても、ただ表面的に和の要素を取り入れるのは愚の骨頂。ルイス・フロイスを驚嘆せしめたこの感性こそを、洋服の着こなしに取り入れること。これこそが、私たちを最も美しく見せ、そして私たちが最も心地よくいられるスタイルなのかもしれない。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2020年秋号より
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- PHOTO :
- 恩田拓治
- COOPERATION :
- 赤峰幸生、海老屋美術店