「あまりにもシュールな設定が愛を浮かび上がらせる絵本だ」―歌人・穂村 弘さん
「こねこの おかあさんは とっても ながい ねこです。おしりも みえないくらい」という冒頭から、びっくりさせられる。
でも、そういえば現実の猫も、飼い主に抱っこされて、びろーんと伸びてる姿を見ると、その長さに驚くことがある。それにしても、この「おかあさん」はちょっと長すぎるけど。
ページをめくると「こねこ」が風に吹き飛ばされている。「きがつくと おかあさんの しっぽのところまで とばされていました」。なんてシュールなんだ。
『母をたずねて三千里』(原作:エドモンド・デ・アミーチス)という有名な古典がある。日本でアニメ化もされたこの物語では、主人公のマルコ少年が音信不通の母をたずねて、イタリアのジェノバからアルゼンチンのブエノスアイレスまで長い長い旅をする。
一方、『ながいながい ねこのおかあさん』では、「こねこ」が「おかあさん」の「しっぽ」から「かお」に向かって長い長い旅をするのである。「おかあさん」は目の前にいる。でも、遙かに遠い。そんな不思議な感覚がヒグチユウコの絵によって見事に表現されている。
この絵本の判型がどうして横長なのか、その理由もよくわかる。ページをめくってもめくっても、「おかあさん」の体が見開きいっぱいにぐんぐん伸び続けているのだ。
シュールな旅の途中には「ここで おひるごはんです。おかあさんの おっぱいを もらいます」なんてシーンもあった。最高だ。
『ながいながい ねこのおかあさん』
文=キューライス 絵=ヒグチユウコ 白泉社 ¥1,200(税抜)
子猫のおかあさんは、体がとても長い。ある日、強い風が吹いて、子猫はおかあさんの尻尾のところまで飛んでしまう。早くおかあさんの顔が見たい子猫は、心細い気持ちのままに、おかあさんの声がするほうへひたすら進む。人気作家の夢の共作が実現した、親子の愛を描いた絵本。
- TEXT :
- 穂村 弘さん 歌人
- BY :
- 『Precious3月号』小学館、2021年
- EDIT :
- 宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)