コンスタブルの35年ぶりの大回顧展『テート美術館所蔵 コンスタブル展』

展覧会_1
ジョン・コンスタブル《フラットフォードの製粉所(航行可能な川の情景)》1816 -17年、油彩/カンヴァス、101.6×127.0cm、テート美術館蔵 ©Tate

陽の光を浴び白く輝く雲。そして、重なり合い深くたれ込める雲もある。低い空に浮かぶ雲はそれぞれに豊かな様相を見せる。そんな雲の隙間から差し込む陽の光が大地を優しく照らす。川辺では船を曳く馬に男の子がまたがり、もう一人の男の子はロープを引いている。

描かれているのはたわいない日常の風景だけれども、穏やかな光が何気ない人々の営みをそっと包み込む、そんな安堵感が漂う画面。この絵をじっと見つめていると、少しずつ心がほぐれ、安らかな気持ちになってくる、そんな気さえしてくるから不思議だ。

展覧会_2
J.M.W.ターナー《ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号》1832年、油彩/カンヴァス、91.4×122.0cm、東京富士美術館蔵 Ⓒ東京富士美術館イメージアーカイブ/DNPartcom

この絵を描いたジョン・コンスタブルは、1776年、イングランド東部のサフォーク州イースト・バーゴルトに生まれた。同時代を生きた、ライバルともいえる画家ターナーとともに、この国における風景画を大きく発展させた人物でもある。

本展には、この画家の優れた作品を所蔵するロンドン・テート美術館から、コンスタンブルの油彩や水彩、素描など約40点、ターナーを含む同時代の画家の作品約20点が来日。あわせて国内所蔵の秀作も並ぶ。コンスタブル作品を中心に、イギリスの風景画をしっかりと楽しむことができる展覧会となっている。

展覧会_3
ジョン・コンスタブル《自画像》1806年、グラファイト/紙、19.0×14.5cm、テート美術館蔵 ©Tate

自然と向き合うことを何よりも大切にしたというコンスタンブル。刻々と移り変わる太陽の光や雲の様子をつぶさに見つめながら、一筆一筆、丹念に彩られた画面は、この画家が自然を慈しみ、絵を描くことをいかに愛したかを私たちに伝えてくれる。心洗われる瑞々しき風景をたっぷりと堪能したい。

Information

  • 『テート美術館所蔵 コンスタブル展』 
  • 自国の風景画を刷新した、19世紀イギリスの画家・コンスタブル。日本では35年ぶりとなる本回顧展では、世界有数の良質なコンスタブルの作品群を収蔵するテート美術館から、油彩画、水彩画、素描およそ40点にくわえ、同時代の画家の作品約20点を紹介。 コンスタブルが豊かに実らせた瑞々しい風景画の世界を展覧できる。
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  • 会場/三菱一号館美術館
    会期/2021年2月20日(土)~5月30日(日)
    開館時間/10:00~18:00
    ※祝日・振替休日除く金曜、第2水曜、展覧会会期中の最終週平日は21:00まで
    ※入館は閉館時間の30分前まで
    ※臨時の時間変更の場合あり
    休館/毎週月曜(祝日・振替休日・展覧会会期中最終週の場合は開館)
    年末、元旦、展示替え期間
    ※臨時の開館・休館の場合あり
    観覧料/展覧会により異なる
  • TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
    住所/東京都千代田区丸の内2-6-2

※新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下では一部情報が変更となる可能性があります。公式HPなどでご確認ください。

この記事の執筆者
TEXT :
林 綾野さん キュレイター・アートライター
BY :
『Precious3月号』小学館、2021年
美術館での展覧会の企画、絵画鑑賞のワークショップなどを行う。画家の創作への思いや人柄、食の趣向などを探求、紹介し、芸術作品との新たな出会いを提案。絵に描かれた“食”のレシピ制作や画家の好物料理を自ら調理、再現し、アートを多角的に紹介している。近著『なにを食べているの? ミッフィーの食卓』ほか、『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『セザンヌの食卓』『モネ 庭とレシピ』『ぼくはクロード・モネ絵本でよむ画家のおはなし 』(すべて講談社)、『浮世絵に見る 江戸の食卓』(美術出版社)など著書多数。