あなたは誰のことが嫌いですか? 理由なく嫌いなものがありませんか?
『「嫌いっ!」の運用』を上梓した脳科学者の中野信子さんいわく、「『嫌い』という感情は、自分を守るためにとても大事。ぜひ『運用』してほしい」とのこと。
第1回に続いて、「嫌い」という感情の運用方法を、中野さんに教えていただきました。
第2回は「いい人は収入が低い」という驚きの研究結果から、お話を伺っていきます。
貧乏な人も、本当のお金持ちも「いい人」
——『「嫌いっ!」の運用』には、「お人好しのいい人ほど収入が少なくなる」というアメリカとカナダの研究結果(※1)が紹介されていました。
ちょっと衝撃的な研究結果ですよね。これは約9,000人を対象に、協調性のテストと収入の関係を調べたもので、協調性が高い人ほど収入が低いことが導き出されています。
さらに、もっとも管理職になれないという結果も出ています。収入が高いから幸せとは限りませんが、協調性があるために人から搾取されてしまうということがあるという事実は、知っておいてよいと思います。
——キャリアアップして稼ぐぞ! と思ったら嫌な人になるしかないのでしょうか…?
それでは、嫌な人が最も得をしているのかというと、実はそうでもないのです。
いい人は確かに貧乏なのですが、本当のお金持ちもいい人なんですよ。これはなぜか。どちらもいい人だけれど、いったいどこが違うのか。もっとも重要なポイントは、搾取されない人は、本当に嫌なことは嫌と言えるという点です。これこそが「嫌い」を運用するということです。
「嫌い」という感情を運用する上で、最初にすべきこととは?
——私たちが「嫌い」を運用する上で、最初にすべきことは何でしょうか?
自分の嫌い、がよくわからないと、だれに対しても相手の基準で動かされてしまいます。その人に悪意があれば、ひとたまりもありません。まずは自分の基準をきちっと定め、把握しておくために、ログを取ってみてはどうでしょうか。
自分がどういうときに怒るのか。どういう人を嫌いなのか。何を言われると嫌なのか。例えば容姿のことは別に言われてもいいけど、親のことを言われるとイヤだというように、学歴のこと、仕事のこと…人にはいろいろ言われたら嫌なツボがあると思うんですよね。そのツボを自分で把握するのです。
そのためには、文字にして書き出すことが効果的。手書きでも、パソコンでも良いので、「嫌い」な思いを書いて、ログに残しましょう。自分を客観視するトレーニングですから、箇条書きでも、文章になっていなくても構いません。
ログをとったら、なんで自分はそれを嫌だと思うのかを考えます。もしかしたら、そこを突かれるとイヤなのは、コンプレックスがあったり、自分でも伸ばしていかなくちゃならない部分だとわかっているけれど、どうしようもならない部分だったりすることがあるかもしれない。
自分の「嫌い」の気持ちを切り分け、客観視することで、新たな視点が生まれてきたり、意外に気持ちが楽になることもあるでしょう。
——なるほど。でも、自分が嫌なことについて考え続けたら、気持ちが滅入ってしまうのではありませんか…?続けられるかちょっと不安です。
そうですね。自分の置かれている状況を客観的に見るのは、時に苦しい作業。でも、「嫌い」の感情はとても強いからこそ、暴走してしまうことも。「嫌い」なことを否定するのではなく、「その嫌いを自分はどう扱うのか」「ここから学べることはないのか」というように、対策を練った方がよいはずです。
それでも辛い気持ちになってしまうなら、「嫌い」という気持ちを、なるべく人格否定と結び付けないことが大切だと思います。
例えば、会社で嫌いな人がいたとしても、その人の使える部分に目を向けることはできますよね。「ムカつくけど、宣伝力はあるな」とか、「嫌なことを言う人だけど、いざというときは助けてくれる」というように。
——中野さんも実際にやっていらっしゃるんですか?
はい。やっぱり自分も普通の人、凡人なので(笑)、なかなかままならない感情というのが出てきますから。人間の頭のなかのメモリは、容量が決まっているんです。
スマートフォンでもアプリを走らせていると、その分だけ容量を使ってしまいますよね。脳も同じ。「客観視をする」というアプリを動かしているとメモリが狭まってしまって、他のタスクをこなす領域が圧迫されちゃう。自分を客観的に見続けるって、けっこう大変なことなんですよ。
ですから、仕事や家事など他の日常業務中は「客観視」は置いておいて、私は一日の終りに見直す時間を作っています。皆さんもぜひやってみてくださいね。
次回は、「嫌いな人に、嫌いと言うには?」をテーマにお届けします。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 阿部洋子