毎日オフィスに通うという生活から、家で過ごす時間が増え、働き方や暮らし方そのものが変わった今、リーダーに求められるものも大きく変化しています。

最新『Precious』4月号では、特集「変化の先に続く新しい日々は、ジャケット、ドレス、ときどきスニーカー」にて、女優・西田尚美さん演じる新しい時代の女性リーダー像をご紹介すると共に、キャリア女性たちへのインタビューを掲載しています。

今回は、建築家の松岡恭子さんにお話を伺いました。

きっと、多くの部下をもつプレシャス世代の女性たちが、次に目指すべきひとつのお手本になるはずです。

松岡 恭子さん
建築家
(まつおか きょうこ)九州大学工学部卒、現・東京都立大学大学院、コロンビア大学大学院修士課程修了。コロナ禍がもたらす社会変化への危機感から、福岡の都心を九州の文化発信ハブとする社会実験「One Kyushu ミュージアム」を発案。食や伝統工芸などの多彩な専門家を迎え、総合プロデューサーとしても活動中。建築設計事務所「スピングラス・アーキテクツ」の主宰者であり、総合不動産会社「大央」の2代目として社長を務める。美食家であり、愛猫家でもある。

「複眼的な視点」で世界を見渡す、その姿勢がチャンスとなる時代です

キャリア_1
変わりゆく時代の中、複眼的な視点で世界を見つめてみる。

福岡を拠点に活動する建築家として今考えていること。それはこの時代は大変なことが山積みだけれど、大きなチャンスでもあるということです。約30年のキャリアを積んだ人間として、何百年に一度という転換期に現役でいられたことに心から感謝しているのです。

そこで心掛けているのが「勇気をもつこと」、そして「手を携えること」。「どうなるか」と不安を抱えるのではなく、「どうするか」を具体的に決める。それがたとえ仮説や疑問の提示だとしても、それを実験し、検証する勇気が必要だと感じています。

また建築家とは、オーケストラの指揮者のようなもの。構造、エネルギー、空調、照明、ランドスケープ…さまざまな専門家と手を携えて、議論しながら物事を作り上げていくのが常です。

異分野の声を聞き、まとめ上げるのは得意とするところですが、それは懸命に働き続けてきたプレシャス世代の女性ならば、同じように感じているのではないでしょうか。

今こそ、人と人を繋ぐ架け橋となり、その化学反応を楽しみながら、次の世代へとバトンタッチする。この頃は、そんな人生のシーズンにたどり着いたことを実感しているのです。

このコロナ禍にて、私の中で深まった思いがあります。それが文化芸術への愛。2020年、九州が誇る工芸、名産品を、都心の空き空間で紹介する「One Kyushuミュージアム」という社会実験を行いました。

ひとつひとつストーリーを有する工芸品について学ぶとき、今まで触れてきた絵画、映画、書物、音楽…すべてが豊かにリンクし、深く共振、共鳴する感覚を味わいました。こんな体験こそがエレガンスだという確信を得たのです。

私の強みは、福岡をベースに、N.Y.、台北、東京という多拠点で生きてきた「複眼的な視点」だと感じています。

都会でありながら地域性があり、歴史が深く、海外交流も盛んなわが街・福岡。この都市を深く愛し、その魅力を享受する一方で、他都市と比較し、客観的な批評を行いながら、街をブラッシュアップし続ける人間でありたい。都市、都会という概念も大きく変わりつつある今、そう生きていくことを再認識しているのです。

PHOTO :
Getty Images
WRITING :
本庄真穂
EDIT :
喜多容子・古里典子(Precious)