「コミュニケーションはスキル。リモートワークはスキルを磨く絶好の場所です」──。そう語るのは、コロナ前より会社の制度を活用し、リモートワークを積極的に導入、生き方・働き方改革に取り組んで来た日本HP Eコマース事業本部 リテールビジネス本部 本部長の宮野安理(みやの あんり)さん。

もともと「人とコミュニケーションをとるのが好き」だったという宮野さんは、高校3年間を過ごしたカナダで「まず伝えることが大事。正解でなくてもOK」という文化に触れ、衝撃を受けたそうです。

キャリアのスタートは、「たくさんの人と出会える」とラグジュアリーホテルに就職。その後、日本HPのグローバル性&多様性に惹かれて派遣社員として入社、正社員採用されたあとは、ロールモデルの少なさに苦戦しながらも次世代へ繋ぐべく、女性リーダーとして邁進しています。

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日本HP Eコマース事業本部 リテールビジネス本部 本部長の宮野安理さん

現在は、Eコマース事業本部にてコンシューマー市場の開拓、 担当する営業及び企画部門のマネジメントを担当。 一方、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みとして、HP公認の女性活躍促進団体である「Women Impact Network Japan」を2018年9月に立ち上げました。

女性のキャリア形成の選択肢を広げるべく、若手や次世代のビジネスマンへのスキルアップトレーニングや、学生層へのセミナー活動などに尽力。ご自身もグローバルマインドを常に持ち続けたい、と英語レッスンやビジネススクールなどへ意識的に参加しているのだそう。

自分の成長と共に女性の活躍、そのための働き方改革に力を入れている宮野さんに、キャリアに関するエトセトラをうかがいました。

日本HP 本部長 宮野安理さんへ10の質問

──Q1:最初に就いた仕事は?

「業種、ジェンダー関係なく、いろいろな方に出会えるのが魅力でホテルに新卒で就職しました。高校時代、カナダに留学したときに日本人と違う考え方を持つ人々に衝撃を受けて、さまざまな人とコミュニケーションをとることに興味を抱いたんです。

カナダでは『正解が何もない』という世界を初めて知りました。『答え』がある授業がほとんどないんです。例えば、ディスカッションする際も日本育ちの私は正解に固執してしまって何も答えられなくなってしまっていたのですが、答えが重要ではなく『なぜそう思うのか』ということを深く追求し、多種多様な意見を尊重していくスタイルが新鮮でした。

ホテルで最初に所属したのはレストランサービスの部門。人種を超え、世界のトップクラスの方々とコミュニケーションさせてもらいました。新入社員というキャリアの早い時代に、なかなかできない経験ですよね」

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カナダ留学時代の宮野さん。
──Q2:現職に就いた経緯とその内容は?

「家族と、健康上の理由でホテルで働き続けるのが難しくなり、違う業界に転職しました。特にITを希望していたわけではなく、『日本HPが素敵だな』と思ったのが入社のきっかけです。

世界170か国で事業展開しており、グローバルカンパニーといってもここまでの規模は珍しい。多様性を重視している文化も魅力でした。業種よりも会社に惹かれた、というのが大きいです。コロナ以前はアジア地域をメインに本国アメリカへの出張もこなしていました。

コンシューマー向けの営業組織を総括しており、現職は個人向けのプリンターやPCの事業展開の営業責任者という位置づけです。具体的にいうと、家電量販店や、ECの販売店、公式サイトへ営業活動を行なっています。

現在はほぼフルリモートで、お客様ともリモートで商談しています。元々日本HPは働き方改革に積極的に取り組み、以前から仕事内容によっては週4のリモートワークが可能だったりしていたので、私自身は直接お会いできないことに抵抗がなかったのですが、コロナになり、困っているお客様がたくさんいることに気が付きました。

私たちはいち早くウェブ会議や商談を取り入れていたので、慣れない方にはこちらからサポートしています。単なるface to faceの置き換えでなくリモートのよさを突き詰めて伝えていきたいと努めています」

──Q3:キャリアのなかでもっとも大きかったチャレンジは?

「チームリーダーです。現在より一つ下のポジションなのですが、着任時は今までで一番辛かったです。

私自身が求めていたポジションなので嬉しかったのですが、実際なってみたら、急激に視点を変えなくては仕事が回らない状態で…。任された仕事が今までのものと全く異なり、リーダーの私が一番知らない、という状況でした。5名ほどの小さいチームでしたが年長の方や男性も多く、アウェイだな、と感じました。

とはいえメンバーは非常に協力的でした。しかし、私自身がこうでなくてはいけない、という固定概念に縛られてしまい、今までと同様に『とにかく量をこなす』というスタイルを続行。マネージャーではなく、プレイヤーとしての視点で頑張ってしまい、ついにはパンクしちゃいました。

そして体調を崩し、お休みをもらうことに。その頃は完璧にやりたい、100点をとりたい、という強い思いがあったんです。

そこで、リーダーもグループの一つのピースであり、スキルがある方がメンバーにいるのなら自分がそれ以上になる必要はない、ということに気が付きました。そして、働き方ってすごく大事だなと痛感。

また、私の上司がよくいうのですが、メンタリティで大事なのは『鈍感力』。流すことって、ときには必要ですよね」

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「自分の経験を次世代の女性リーダーに繋いでいきたい」と宮野さん。

笑っちゃうようなことでも、ブレずに強い思いを持つことが大事

──Q4:仕事において絶対に譲れない点は?

「妥協したくない、と思わないこと。譲れない、とこだわってしまうと固定概念に捕われてしまいます。コンシューマー向けのビジネスをしているとトレンドが重要ですが、移り変わりが早いですし情報も多く、ものの見方も多様です。

そのなかでこだわりを持ってしまうと変わるタイミングに対応できなくなってしまうのでは、と感じます。変化を嫌がらず柔軟に楽しむ、というのを大切にしています」

──Q5:成功の秘訣は?

「シンプルにも理由がある、という考え方です。シンプルなことでもブレずに強い思いを持つことが大事。

私がキャリアを築きお金を稼ぎたい、と思ったのは学生のとき、海外にいた頃でした。NBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)のボストン・セルティックスが大好きなんですが、その試合観戦に初めて行ったとき、席は3階でした。会場に足を踏み入れただけでも感動だったものの、100万円ほどするコートサイドの席があることを知り、あそこにいつか座りたい!と思ってしまったんです。それが私の原動力です」

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NBA観戦の興奮が伝わってくる一枚。

 

「他人からしたら笑っちゃうようなことなので、夫にプレゼントしてもらう訳にもいかず、自分の力で買うしかないんですが(笑)…それをモチベーションに働いています。壁にぶつかったら、あの席を思い出して。

 

あとはチャレンジすること。失敗しても過程を楽しむことが大切かな、と。『赤毛のアン』が愛読書なんですけど、そのなかに『小さな失敗は笑いの種になり、大きな失敗は勝利の前兆』というフレーズがあります。失敗しても大丈夫、失敗を楽しもう、と思わせてくれます」

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宮野さんの原動力は、コートサイドのVIP席。
──Q6:メンターはいますか?

「酒井レオさんです。もともと米系銀行でヴァイスプレジデントをされていた方で、現在は日本で英語のビジネススクールを開催されています。その授業を受講し、たくさんの影響を受けました」

完璧さよりも実行力!もっとチャレンジして欲しい

──Q7:キャリアのなかで学んだことを3つあげてください。

パーフェクトを目指すよりも実行する、コミュニティを大事にする、鈍感力です。

コミュニティに関しては、点と点だった人同士を線で繋ぐようにマッチングし、コミュニティを広げれば広げるほど、より強くサポートし合うことができると思います。特にどの産業もまだまだマイノリティである女性同士の繋ぎ合わせは大事だと感じています」

──Q8:現職はどんな点がパーソナリティに合っていますか?

「いまの仕事は、営業組織でありながらマーケティング的な要素もあり、また、多岐に渡ったコンシューマーのチャネルを見ており、いろんなお客様に接し、やっていることも幅広いんです。私は好奇心が強いので、その広さが楽しいです。

もちろんルーティンワークもありますが、毎日たくさんの人とコミュニケーションをとり、それも大好きな点です。

日本HPは法人向けビジネスが大きく、コンシューマー向けはこれからの部分が多いので、いろいろとチャレンジできる点も私に合っています」

──Q9:なんだか全てがうまくいかない…、そんなときはどうしますか?

「印象的な出来事に引っ張られて全てがうまくいっていないように思えるだけで、それ以外の部分は実はそこそこうまくいっていることも。できるだけ物事を細分化して、項目としてあげてみると印象が変わりますよ。

とはいえ私も失敗をして戦線離脱…のような状況になったことがあります。その際、自分はメンタルがすごく弱いということに気が付き、セラピーを受けたり、関連の本を読んだりしました。

実はいまだにメンタルは弱いと思っています。ただ、その自分をどう受け入れるか、という考え方に切り替えました」

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宮野さん曰く、女性リーダーはマイノリティだから覚えてもらいやすい、という利点もあるのだとか。
──Q10:働く女性にアドバイスをお願いします。

「もっとチャレンジしてほしい。日本人の気質としてパーフェクトを目指しがちで、女性はさらにその傾向が強いように感じます。でも最初からできる人はいないですし、毎日続ければ前進していけると思うので、諦めないで、そしてチャレンジを楽しんでほしいです。

男性はロールモデルが多いので自分のキャリアのイメージがしやすいですが、女性は限定的。選択肢を広げるためにチャレンジしていくことが重要です」


以上、日本HP Eコマース事業本部 リテールビジネス本部 本部長の宮野安理さんにうかがった、キャリアについての10の質問でした。

明日公開の【リモートワーク編】では、自宅でも効率的に仕事をこなすコツや環境づくりなど、リモートワークの達人である宮野さんが、生産性を高めるティップスを伝授してくれます。どうぞお楽しみに!

この記事の執筆者
立教大学法学部卒。ドイツメーカーにパーチェイサーとして勤務後、2009年に渡米し音楽修行。ジュリアード音楽院、マネス音楽院にて研鑽を積む傍ら、2014年ライターデビュー。2018年春に帰国し、英語で学ぶ音楽教室「epiphany piano studio(エピファニーピアノスタジオ)」主宰。ライターとしては、ウェブメディアを中心にファッション、トレンド、フェミニズムや音楽について執筆している。
公式サイト:epiphany piano studio
EDIT&WRITING :
神田朝子