福岡の中洲と言えば約2000軒もの店が集まる「西日本一の歓楽街」。大正初期からカフェやバーがあったという、まさに大人の文化を育んできた場所で、賑わう街にはいくつもの名店が生まれてきました。大きなビルが立ち並ぶ歓楽街ですが、その一角には細い路地も残されていて、個性的な店や実力店がひっそりと営業を続けているのもグルメ心をくすぐります。今回は、そんな隠れた路地から生まれた快挙と言うべき1軒のバーをご案内。この夏、日本一に輝いたカクテルが創出されたのは、わずか7.5坪の小さな店だったのです。

Bar SEBEKはわずか7.5坪の小さなお店

そのカクテルの名は「トゥールビヨン~渦~」

グラスに注げば柔らかく芳香を放ち、滑らかに舌を転がるようなコニャック。なかでも250年以上の歴史を持って世界中で愛されるヘネシーの高級ブランド「ヘネシー X.O」を使ったカクテルコンペティション決勝大会が開催されたのは2017年7月2日(日)のこと。全国の予選を勝ち抜いたファイナリスト20名が東京のホテルニューオータニに集まり、厳しい審査員と見守る多くの観客の前でオリジナルカクテルを披露しました。その壇上にいたひとりが福岡の「BAR SEBEK」オーナーバーテンダー・大津麻紀子さん。制限時間は6分間、選手2名ずつが同じステージでカクテルをつくり上げる緊張した審査で、堂々と自らの想いをカタチにした大津さん。そこで披露されたのは「トゥールビヨン~渦~」という名の甘美な一杯、女性らしい繊細な感性で細やかに物語を紡いだカクテルでした。

「BAR SEBEK」オーナーバーテンダー・大津麻紀子さん

「最初に名前と『渦』というイメージが生まれてきたんです」と大津さん。「もともとヘネシーは大好きなコニャックで。そのおいしさをどうすれば膨らませられるだろうと考えたときに閃いたのが、デキャンタージュでした」。ぶどうを原料とするコニャックでもカクテルの華が開くはず、と「揺らす」アイデアでカクテルを考案。他の出場者がシェイクしてカクテルを創るなかで唯一、デキャンタを使ったスワリング(揺らし混ぜ合わせる)でアプローチした大津さんは「ヘネシーの熟成した年月をゆっくりと解いていくようなイメージ」と表現。こうして、高貴な花蜜にふわりと包まれるようなカクテルが創作されました。芳しい香りをまとってハンドメイドのグラスに彩られる琥珀色。気品にあふれるように輝くさまは、嗜好品を遥かに凌ぐ芸術作品のようです。

わずか7.5坪のバーの快挙

賑やかな中洲の一角、T字のように細い路地が残る「人形小路」に「BAR SEBEK」はあります。ドアから入れば、わずか7.5坪・10席ほどの小さなバー。もともとスナックを営業していた家主さんから紹介を受けて7年前に構えた店は、まるで昔からそこにあったかのような落ち着きのある雰囲気です。独立してからは自由にやれる喜びを感じながら、女性バーテンダーだからとなめられない柱をつくるべく、バーテンダー協会が主催する技能大会に出続けたそう。「今回の優勝で、やっとスタートライン」と話す大津さん。それでも日本一に輝くカクテルがこの小さな店から生まれたことは、大きな快挙と称えたいのです。外に出ることを恐れずに、自らを高めようと努力した毎日があって掴んだ優勝は、日本代表に等しい勲章。このカクテルが世界に伝えられることもあるでしょう。先日、大津さんはゲストバーテンダーとして東京の店に呼ばれ、初めての経験をしたそう。「店に立つと、このカクテルが日本一かという期待感がバッと伝わってきて、背負うものがあることを感じました」と、新たなステージに立った自覚が生まれたと話してくれました。

おいしくて美しい、鮮烈なカクテルを楽しめる

「BAR SEBEK」の自慢は、スタンダードなカクテルも鮮烈なおいしさが楽しめること。ある日のカウンターで、別のお客様がオーダーしたカクテルが明らかにおいしそうで、思わず次の日にそれを確かめるために足を運んだことがありました。そのカクテルは「ジャックローズ」。アップル・ブランデー(カルバドス)をベースに、グレナデンシロップ(ザクロの果汁シロップ)とライムジュースを使うカクテルを、今の季節だからこそ生のザクロを使ってアレンジ。鮮やかな色合いが美しく、フレッシュな果実感が抜群においしくて、改めて感動させてもらった1杯でした。同じように「ギムレット」などスタンダードカクテルを、大津さんらしいアレンジで鮮烈にしたシリーズがあるとのこと。バーテンダーとしての高い技量で想いやイメージを表現できることに加えて、大津さんらしい視点や感性がそのカクテルをさらに美しくしているのかもしれません。美しいという評価は、おいしさに直結する大きなポイント。どう美しくしてあげるのか、その創造力が私の感じる嗜好の域を遥かに凌いでいるのがとてもうれしいのです。

「ヘネシー X.Oカクテルコンペティション2017」優勝カクテルの「トゥールビヨン~渦~」(¥2,500 税込)。美しい姿を支えているグラスやガラス皿は「スガハラ」のハンドメイド。ガーニッシュにはドライネーブルとドライレモン、スターアニス、ライムピールを合わせて寛ぎのストーリーを演出
フレッシュなザクロから果汁を搾る「ジャックローズ」(¥2,000 税込)。鮮やかな色が美しすぎて、どうしても飲んでみたくなります
「人形小路」の小さなバー。人がひとりずつしか通れないような細い路地にありますが、ぜひ探してみてください
優勝の記念に贈られた楯やパネルもコーナーに

問い合わせ先

  • BAR SEBEK(バー・セベク) 
  • 営業時間/19:00~翌2:00
    定休日/日・祝
    席数/15席
    メニュー/チャージなし、カクテル¥1,300~、ウイスキー¥1,000~(税込)
    TEL:092-291-5510
    住所/福岡県福岡市博多区中洲4-1-12

この記事の執筆者
TEXT :
鳥越 毅さん 編集家
2017.12.16 更新
熊本で情報誌の編集・制作に携わり、1990年に福岡へ。発展する街で人気タウン誌の編集・営業ディレクターなどを経て、2010年よりグルメマガジン「ソワニエ」制作チームとして福岡の「食」の魅力を発信中。2014年、『ふくおか手みやげ自慢』を発行。好きなもの:九州旅、路地散策、古民家、隠れ家、コーヒー、ウイスキー、日本酒、陶磁器、短距離走
WRITING :
鳥越 剛
EDIT :
安念美和子