かわいいワンコと触れ合っていると、気持ちが癒されますよね。災害や病気、加齢などによって心身に何らかの問題を抱えた人たちも、犬との交流によって、気分が明るくなったり、活動的になったりすることがあるようです。そのための特別な訓練を受けた「セラピードッグ」をご存知でしょうか?

今回は、広島県の神石高原町(じんせきこうげんちょう)でセラピードッグとして活躍する“藤(トウ)ちゃん”の物語をご紹介します。

■殺処分寸前で保護された、母犬と7匹の子犬たち

自然豊かな神石高原町にある『ピースワンコ・ジャパン』の施設。ここでは、県や市の愛護センターから殺処分対象の犬を引き取り、その保護・譲渡活動を行っています。

ある日、こちらの施設にやってきたのは身重のワンちゃん“葵”。やがて、7頭の元気なかわいらしい赤ちゃんが生まれました。そのなかの1頭が“藤ちゃん”です。

お母さん犬(葵)と7頭の子犬たち。6頭に見えますが、1頭は隠れて見えないようです。©ピースウィンズ・ジャパン

通常、こちらで保護されたワンちゃんたちは、獣医師の健康管理やドッグトレーナのしつけを受けて、いずれ新しい飼い主さんにもらわれていきます。ただ、藤ちゃんに関しては適性が認められて、セラピードッグとしての訓練を受けることになったのです。

■セラピードッグの適性とは?

セラピードッグに必要な条件として、「人間が大好きである」、「普段とは違う環境に行っても物怖じしない」という点などが挙げられます。

まず、セラピードッグの役割は「人と触れ合う」ことですから、神経質なワンちゃんでは務まりません。多くの人に囲まれてもストレスにならない、ボディタッチが大好きというワンちゃんこそセラピードッグに適しています。

セラピー犬のリーベ。藤ちゃんの先輩にあたります。©ピースウィンズ・ジャパン

また、セラピードッグは病院や学校、特別養護老人ホームなどさまざまな施設に派遣されますので、環境の変化にもすぐ適応できることが大切です。この点、藤ちゃんは生まれつき人懐こく、肝が据わっているような傾向が見られたので、「まさしくセラピードッグ向き!」という判断がなされたのです。

生後2ヶ月の藤ちゃん。©ピースウィンズ・ジャパン

そして1歳を迎える少し前から、セラピードッグになるための訓練が始まりました。

■セラピードッグになるための訓練とは?

「人間大好き」という点は不可欠であるものの、ただ天真爛漫なだけでは、セラピードッグとして合格ではありません。好奇心いっぱいのワンちゃんのなかには、遊びたい一心で人に飛びかかってしまう腕白もいます。これでは危なっかしくて、施設に派遣することができません。

セラピー犬になってからの藤ちゃん。©ピースウィンズ・ジャパン

人間に対してフレンドリーでありつつも、おとなしく寄り添っていられる。これができるようになるまで、繰り返し訓練を行う必要があります。

また、セラピードッグが派遣される施設では、利用者のかたが突然大声を発したり、予測不能な行動に出たりすることもあるので、どんな事態にも動じないサプライズマナーも身につけなければなりません。

セラピー活動中の藤ちゃん。©ピースウィンズ・ジャパン

藤ちゃんの場合、目の前の人の動きに対しては比較的落ち着いていることができましたが、それ以外の方向から急に手を伸ばされたり、背後で人が大きな音をたてて立ち上がったりすると、驚いてしまうようなところがあったといいます。

生後3か月の藤ちゃん。©ピースウィンズ・ジャパン

それでも、施設のスタッフがさまざまなシミュレーションを行うことで、藤ちゃんは一人前のセラピードッグに一歩ずつ近づいていきました。訓練中に望ましい行動をとれば、おやつがもらえるし、何よりも大好きなトレーナーさんにほめてもらえることがうれしかったのでしょうね。

■ただいまセラピードッグ、1年生!

訓練を経て、もうすぐ2歳になる藤ちゃんは、特別養護老人ホームやデイケアサービスの施設にてセラピードッグとして活躍中。もともと肝の据わった藤ちゃんでしたが、今ではどこへ行っても、たくさんの人々に囲まれた状態でも、長い時間リラックスしてお勤めを果たしているとのことです。

藤ちゃんと先輩セラピー犬のカレン。©ピースウィンズ・ジャパン

デイケア施設を訪問するのは月に1、2回なのですが、藤ちゃんに会いたくて、その日だけ施設に顔を出す高齢者の方もいるのだとか。すっかり人気者なんですね! また、認知症の患者さんで、感情を表に出さなかった人が藤ちゃんに触れることで穏やかな表情になったり、「あぁ、私も昔、こんな犬を飼っていて……」と古い記憶を呼び戻したりすることもあるといいます。

セラピー活動中の藤ちゃん。©ピースウィンズ・ジャパン

引きこもりによる孤独死や認知症患者の増加など、超高齢社会における諸問題の改善には、藤ちゃんのようなセラピードッグたちの存在が欠かせないかもしれません。

■ほかにもこんなワンちゃんたちが活躍中! 大譲渡会の開催も

『ピースワンコ・ジャパン』では、藤ちゃんのようなセラピードッグのほか、災害救助犬、里守り犬(里山の農産物を野生動物から守る活動を行う犬)、低血糖アラート犬(糖尿病治療の副作用で患者の血糖値が下がり過ぎたとき、それを感知して警告してくれる犬)の育成も行っているとのことです。

熊本の被災地で活動する救助犬の夢之丞(ゆめのすけ)。©ピースウィンズ・ジャパン

また、同団体のシェルターやセンターでは、保護犬たちの新しい家族も募集中! 11月19日(日)には、千葉・幕張メッセにて大譲渡会が開催される予定です。

イベントでの救助犬のデモンストレーション。犬の名前はハルク。©ピースウィンズ・ジャパン

殺処分によって命を落とす不幸なワンちゃんをこの世からゼロにするためにも、こうした活動を応援してきたいものですね。

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PROFILE
ピースワンコ・ジャパン
認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが運営。犬の殺処分ゼロを目指し、広島県神石高原町の施設で殺処分対象の犬の保護・譲渡を行うほか、保護犬を災害救助犬やセラピードッグとして育成する取り組みを行っている。
公式サイト
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
中田綾美
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