「ハッピースポーツ」誕生の立役者が込めた、未来を見据えた想い
ジュエリー&時計ジャーナリストの本間恵子さんが、2021年の新作ウォッチからおすすめアイテムをご紹介。今回は、ショパール(Chopard)の「ハッピースポーツ」の人気の秘密を、発想段階まで遡り解き明かします。
「ひと目でショパールのものとわかるこのコレクションは、メゾンの共同社長兼アーティスティック・ディレクターであるキャロライン・ショイフレさんの情熱なくしては生まれませんでした」と本間さん。
「ハッピースポーツ」がデビューした1993年当時、若きクリエイターだったキャロラインさんは、これからの女性が活躍する時代を見据え、“24時間、着用できる時計”を作ろうと考えました。ビジネスシーン、休日、パーティ…、どんな場所、どんなファッションであれ、着用できるウォッチです。
彼女が選んだ素材はステンレススティールとダイヤモンドの組み合わせ。そして、周囲のスタッフさえも驚かせたのは、文字盤上をダイヤモンドが自由に動くという仕様です。
ショパールには、これまでケースの外周でダイヤモンドが動くコレクションはありましたが、文字盤の上は前代未聞。難易度はいきなり上ります。アトリエの責任者さえも「これを完成させることは無理」と言い切ったほどでした。それでも、文字盤、針、文字盤を覆う風防、数個のダイヤモンドを挟むガラスの構造や厚み──すべてを一から検証し直し、この新発想を完成すべく、構築しました。
「当時、アトリエ長はステンレススティールにダイヤモンドを入れた時計なんて絶対に売れない、どうしても売るというなら、1本売れるたびにバラの花を1本贈るよ、とまで言ったそうです」(本間さん)
1993年に発表された「ハッピースポーツ」は、文字盤上を動くムービングダイヤモンドとステンレススティールケース、そして4連の“ガレ”リンクブレスレットという斬新な組み合わせでした。
「オフィスにも、テニスコートにもパーティにもつけていけて、ジーンズにもドレスにも似合う“スポーツ・シック”という新しいスタイルが女性たちを魅了し、コレクションは大ヒット。アトリエ長はキャロラインさんにたくさんの花が咲くバラの木を贈って成功をたたえたそうですよ」(本間さん)
世界が驚愕したムービングダイヤモンドの革新的な構造
「ハッピースポーツ」の最大の魅力は、ダイヤモンドが文字盤上を自由に動くムービングダイヤモンドです。本間さんも最初にこのタイムピースを見た瞬間、くるくると回転しながら自由に動き回るムービングダイヤモンドに目が釘付けになったそうです。これは、2枚のサファイアクリスタルでダイヤモンドを挟んで仕上げるという、メゾン独自で画期的な発想力、技術力が注がれたのです。
ムービングダイヤモンドの製作工程は、すべてメゾンのアルチザンによる手作業です。
文字盤の上の丸みを帯びたサファイアクリスタルを入念にクリーニング。その上にダイヤモンドをセットします。その後、もう一枚のサファイアクリスタルで蓋をし、ガラス同士が密着したら、腕時計の裏蓋を固定するためのポンス台を用いてパッキン。ガラス全体に均一な圧力をかけることで、防水性を高めたカプセル状へ。同時に、ダイヤモンドがガラス面を傷つけることなく、自由に動き回るシステムが完成します。
「ムービングダイヤモンドの背面は平らではなく、丸く曲面になっているため、バレリーナのように回転しながら輝くのです。ほんの少し文字盤を傾けただけでも、びっくりするくらい軽やかに回ります。これはぜひ現物を見て、実体験していただきたいですね。ムービングダイヤモンドをセットするショパールの職人たちは、コレオグラファー(振付師)と呼ばれるそうですよ」(本間さん)
重力を無視したかのように動くムービングダイヤモンドが誕生するまで、メゾンのアトリエの精巧で緻密な行程が求められます。キネティック・アートと称されるほど、称賛の声があがるのも至極、当然でしょう。
復刻モデルも話題!「ハッピースポーツ」2021年最新作5選
■1:女性のためのムーブメントを搭載した復刻タイムピース
「記念すべき1993年のデザインに再びスポットライトを当てた復刻モデル、“ハッピースポーツ ザ・ファースト”が登場。ただの復刻ではありません。進化した“中身”も要注目なのです。1993年のオリジナルモデルはクォーツ。当時はクォーツがスタイリッシュな時計の最先端だったからです。そして復刻された最新作は、自動巻き。リュクス感が一段とアップしています」(本間さん)
今年発表されたこのコレクションの中で、1993年に産声を上げたオリジナルにもっとも近い復刻モデル「ハッピースポーツ」です。新たに33㎜のケースサイズになり、自社ムーブメントとともにリデザインされました。限定本数の1993本は、このコレクションが誕生した年号に合わせています。
控えめな文字盤に対し、目を引くムービングダイヤモンドがセットされ、ラグとリューズには5個のカボションカットのサファイアが輝きの彩りをプラス。丹念にポリッシュ仕上げされ、しなやかに沿う4連の“ガレ”リンクブレスレットも備えています。ブレスレットから漂う極上のヴィンテージ感は、審美眼に長けた女性の心に響くことは間違いありません。
時計のサイズに合わせたムーブメントは、デザインから製造に至るまで、すべて自社製。この揺るぎない姿勢も、ショパールが信頼され、愛される理由のひとつです。
ケースに使われているステンレススティールは、耐久性はもちろんながら、高い抗アレルギー性をもつショパール独自の合金。汗ばんでくるシーズンであっても、涼やかなたたずまいをかぐわるタイムピース…キャロラインさんの思いをそのまま携えているかのようです。
■2:ベゼルと文字盤に輝きをプラスした復刻バージョン
「復刻されたモデルにあしらわれているムービングダイヤモンドは7石。ほんのわずかな手の動きでもダイヤモンドが踊りながら輝いて、女性の仕草をきれいに見せる効果を発揮してくれます。グラスを持ったり、髪をかき上げたりといった何気ない仕草に、ムービングダイヤモンドが輝きを添えてくれるのです」(本間さん)
ベゼルにダイヤモンドをセットし、「継続可能なラグジュアリー」とのメゾンのコンセプトを、もう一段、ギアを入れたような煌めきを放つモデルは、788本限定。“788”はキャロラインさんのラッキーナンバーなのだそう。33㎜のケース内の文字盤には虹色を帯びたマザーオブパールが使われ、ベゼルとムービングダイヤモンドのピュアな輝きを引き立てます。
時代の息吹を敏感に感じ取り、その上で溌剌とした女性像を手元にあしらうムービングダイヤモンドの発想。同時に“ガレ”リンクブレスレットの柔らかな肌触りと輝きが、活躍の場が多くなった女性にふさわしい気品を備えたタイムピースです。
昨今、80〜90年代のファッションが再注目されています。古びることなく、旬を取り入れることをいとわない感性。そんな若々しい姿勢を貫く女性の姿と、このウォッチは相まって見えます。
■3:メゾンの環境へのこだわりがぎゅっと凝縮した新作
「復刻モデルに比べるとより現代的な雰囲気の新作。ステンレススティールとローズゴールドのコンビなど、“今”の時代を感じさせるデザインになっています。これらの新作も、ムーブメントは自動巻き。これほど小型で薄い自動巻きムーブメントを作れるメゾンはそう多くはありません。ちょっとマニアックなことを言うと、小型なのにゼンマイの巻き上げ効率がよくて、とっても優秀なんですよ」(本間さん)
ショパールは、2018年にすべてのジュエリーとタイムピースへエシカルゴールドを使用すると表明。衝撃を与えました。メゾンがサステイナブル、環境へ取り組む姿勢をクリアにしたのです。
エシカルローズゴールドとステンレススティールで彩られたこちらの時計は、33㎜のケースに収められた文字盤、針、時分表示、ムービングダイヤモンドのパーツにもエシカルゴールドを使用。大人の女性が求めるエレガンスと溌剌とした姿を、この時計のデザインに同時に注ぎ込んでいます。どんなファッションにも似合うというコンセプトをまた一歩、進めたタイムピースです。
■4:柔らかい手元の印象へと導くエシカルローズゴールド使い
ケースからブレスレットに至るまで、女性の肌色に馴染むエシカルローズゴールドを使った、33㎜のケースサイズのゴージャスなウォッチです。大人の女性の煌めく手元を意識して、ベゼルにもダイヤモンドをセット。自由に動くムービングダイヤモンドとともに、タイムピース全体から華麗な輝きが放たれています。ムーブメントも自社製です。
時計業界もジェンダーレス到来かといわれる時代に、あえて女らしさを貫く名門メゾンの姿勢がかえって新鮮。薄着になる季節、Tシャツなどのカジュアルな装いに、このタイムピースを選択してはいかがでしょう。華やぎの手元に、豊かな大人心が際立ちます。
■5:新作のアリゲーターストラップバージョンが新鮮
エシカルローズゴールドとステンレススティールの時計本体に、シックなネイビーのアリゲーターストラップを採用したモデルです。華やかな美しさを備えながらもダークなストラップカラーが、ムービングダイヤモンドの弾むような動きを際立てます。メゾンではレアなこの組み合わせは、手元をよりいっそうスポーツシックな印象に。
ベゼルにセットされたダイヤモンドが優美な彩りを放ち、ムービングダイヤモンドと流麗なコラボレーションを描いているよう。プレシャス世代愛用のジャケットスタイルにもジャストフィットします。ムーブメントは自社製。この揺るぎない自信が、このコレクションに気品を漂わせているのです。
以上、ショパールの揺るぎない人気を誇る「ハッピースポーツ」をご紹介しました。
ダンスを踊っているかのような、自由気ままで楽しげな様子が際立つムービングダイヤモンド、この仕様を配したメゾンのアイコン「ハッピースポーツ」。誕生から、どんなシーン、ファッションであれ、スタイルアップへと導くタイムピースを仕上げるポリシーを貫いてきた時計は、今も揺るぎなく手元をランクアップする役目を担います。
黄金比の調和に着想を得た今年の新作の33㎜のケースサイズが、ラグジュアリーを知り尽くした大人の女性の心には刺さるのではないでしょうか。
※掲載した商品の価格は、すべて税込みです。
問い合わせ先
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 菅野悦子
- EDIT :
- 谷 花生