ギャラリー空間を空にすることを試みた歴代の展覧会を回顧展形式で発表するなど、革新的な取り組みで知られるキュレーターのマチュウ・コプランさん。その日本で初の展覧会 「エキシビジョン・カッティングス」が、「銀座メゾンエルメス フォーラム」で2021年7月18日(日)まで開催されます。
いつもの日常に”アート思考”をプラスできる。銀座メゾンエルメス フォーラムで「エキシビジョン・カッティングス」展が開催
マチュウ・コプランさんは、作品が整然と並び観客はそれを鑑賞するといった伝統的な展覧会の役割を覆し、認識を刷新させるような実践を続けているキュレーターです。例えば、パリとベルンで開催された共同キュレーションの 「Voids. A Retrospective (空虚。 回顧展)」では、 ギャラリー空間を空にすることを試みた歴代の展覧会を回顧展形式で発表。通常は作品を見るために足を運ぶ展覧会を、「完全なる空虚 (無)」を体験する場として提案した試みは大きな議論を呼びました。
今回の展覧会「エキシビジョン・カッティングス」は、「カッティング(Cutting)」という言葉の持つ、ふたつの意味から構想されています。
ひとつ目は、植物の「挿し木・接ぎ木」を示すもので、 有機体が人工的に生命を育むことをメタファーとしています。
ふたつ目は、 新聞などの切り抜きや映画などの編集作業の意味で、 過去に行われた展示のアーカイブから文字通り「カッティング」して制作を続けるコプランさんの表現方法を示すものになります。
「カッティング」のふたつの意味に呼応するように、会場は大きくふたつの空間に分けられています。
■1:甘夏の苗を中央に配した”育まれる展覧会”
最初の空間は、植物の「挿し木・接ぎ木」 表現。自然光が満ち溢れるなか、 アーティスト・西原尚さんらによる木製の什器や椅子の展示が展示され、ミニマル・ミュージックの巨匠フィル・ニブロックによる書き下ろしの音楽が流れています。そして、会場中央には、福岡正信自然農園から届けられた土と甘夏の苗が置かれています。有機体を展示空間に移植することで、人工的に生命を育む生態系を暗喩しているのです。
コプランさんは、『わら一本の革命』の著書でもある福岡正信さんが、絶滅危惧種や気候変動に抗した様々な取り組みに影響を受けたのだそう。
「環境によって”育まれる展覧会”を作りたいと思いました。甘夏の苗という生命が、自然光で成長していく様を感じてほしいです。『何が展覧会を展覧会たらしめるのか?』と考えた時に、私の答えのひとつは『有機的な営みがある環境』だったのです。また、音楽は、生きた植物に合う音というテーマで作曲してもらいました。
ミニマルでありながら緊張感のある音楽に、繊細な音のつながりを体感していただきたい。場所によって音の聞こえ方が異なるのも面白いですよ!」(コプランさん)。
■2:展覧会の本質を問いかけるドキュメンタリー
フィリップ・デクローザの絵画で始まるもうひとつの空間では、ドキュメンタリー映像作品「The Anti-Museum: An Anti- Documentary」を上演。コプランさんの「閉鎖された展覧会の回顧展」を再訪するかのように楽しむこともできます。
作品では、展覧会の本質や展示空間における制度の限界を、コロナ禍で多くの文化施設で閉鎖が余儀なくされたことも絡めて深く考察しています。
「この映像作品を作るにあたり昔の資料をたくさん見直し、色々考えるきっかけになりました。映像にまとめ直している作業のなかでコロナ禍が始まり、『閉鎖する』ということが、奇妙なかたちでこの1年間の状況と重なってきてしまいました。
また、作品の中で出てくる『何にでもアートになり得る』という言葉などは今聞いても新鮮です。『何にでもアートになるのなら、そもそもミュージアムはいらないのではないか?』『本当に何でもアートになると言えるの?』…。こういった色々な問いかけや視点を体験してほしいですね」(コプランさん)
挿し木や切断、編集といったキーワードを用い、 ミニマルな美学で展覧会という場のもつ可能性を問いかけた今回の展覧会。 いつもの日常からちょっと離れ、アートなひとときを過ごして社会や自分を見つめ直したい。そんな時にぜひ足を運んでみてください。
「エキシビジョン・カッティングス」マチュウ・コプランによる展覧会
- 会期/〜2021年7月18日(日)※臨時休館2021年4月25日(日)~当面の間
- 開館時間/11:00~19:00(最終入場は18:30まで)
- 定休日/エルメス銀座店の営業時間に準ずる
- 入場料/無料
- 住所/東京都中央区銀座5-4-1 8F
- 会場/銀座メゾンエルメス フォーラム
※新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下では一部情報が変更となる可能性があります。公式HPでご確認ください。
問い合わせ先
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 高橋京子
- EDIT :
- 石原あや乃