雑誌『Precious』では「My Action for SDGs 続ける未来のために、私がしていること」と題して、持続可能なよりよい世界を目指す人たちの活動を連載でご紹介しています。

7月号では、美術品保存・修復会社「IPARC」共同設立者でCEOのレーン・ヒェイセンさんの活動をご紹介します。

レーン・ヒェイセンさん
美術品保存・修復会社「IPARC」共同設立者、CEO
ベルギーの名門、ルーヴェン・カトリック大学で考古学と美術史を学ぶ。卒業後、地元企業に勤めながらMBAを取得。’04年に文化芸術センター(BOZAR)のマーケティングディレクターに就任。’13年にパートナーと会社設立。

美術品修復に化学でアプローチ。悪いものを取り除いて未来へつなぐ。

「美術品の修復」と聞くと、専門の職人が細かい作業を黙々と・・・というイメージだが、レーンさんの会社「イーパルク」では、自社開発のICMという技術を使い、「美術品の汚染を管理」している。つまり「美術品のデトックス」だ。

SDGsの現場から

巨大冷蔵庫のような引き戸を開けると、ICMのスぺースが

インタビュー_1
 

美術品を「デトックス」するICMは、大きな倉庫のよう。温度と湿度の管理で害虫を駆除。

最新技術を駆使し使用されている化学物質を分析

インタビュー_2,サステナブル_1
 

ラボ内の装置で美術品のデータを分析後、修復方針を決めていく。データは所有者と共有。


「ICMは、巨大な冷蔵庫のような機械で、中に美術品を吊るし、温度と湿度を緻密に管理することで、あらゆるタイプの害虫を薬剤を使うことなく死滅させます。また、17~18世紀に制作されたものなどは、何度も修復作業を経てきたなかで、現在では有害とされている物質が使用されていることも。

そのために、修復作業者が特定の病気に罹患したり、失明したりといったことが、昔からありました。そういう業務上の不幸も、ICMによって防ぐことができます。もちろん、美術品へのダメージはほとんどありません。私たちは『美術品に予防的介入をする』という言い方をしています」

考古学と美術史を修め、MBAも取得しているレーンさんと、画素分析を専門とする美術化学者で、美術品保存のスペシャリストであるパートナーのダーヴィッドさん。ビジネスと美術のどちらもわかるからこそ実現できる橋渡しが、「イーパルク」なのである。

「孤独な職人作業では共有されなかった経験や知見を、データベース化、ネットワーク化して次世代へ伝えてくことも仕事です。私たちは中小企業ですが、地域、歴史、文化に根ざし、未来を見据えてビジネスをしています。だからSDGsは、私たちにとってはゴールというよりはモーター。事業の推進力です。すでに達成しているCO2排出削減だけでなく、さまざまな場面で、SDGsを実現していきたいと思っています」

SDGs(持続可能な開発目標)とは

2030年までに持続可能なよりよい世界を目指す国際目標のこと。17のゴール・169のターゲットから構成。

PHOTO :
Johannes Vande Voorde
WRITING :
剣持亜弥(HATSU)
EDIT&WRITING :
大庭典子、喜多容子(Precious)