海外旅行の楽しみといえば「最新グルメ探訪」や「ショッピング」がありますが、ほかにどのような魅力がありますでしょうか? 「観劇」、それに「美術館巡り」とおっしゃる方もいるかもしれません。これらの楽しみは、若いときには気づかなかった、大人の女性ならではの知的好奇心を満たしてくれる、海外旅行の楽しみではないでしょうか?
さて、現代アートの巨大マーケットが存在するロンドンでは、世界中から発表の場を求めて(時には成功や富を求めて)現代アーティストが集まり、意欲的に創作活動や発表を行っています。至るところに小さなスタジオやギャラリーがあり、また高級ファッションブランドのブティックの並びにも、高級画廊があったり・・・。
かつてはファッションブランドばかりが軒を連ねていたボンド・ストリートやブルトン・ストリート、紳士服の聖地=サヴィル・ロウあたりにも、最近は現代アートを扱う画廊がどんどん増えている印象があります。
そんな現代アートの熱い街だからこそ、ロンドンへの旅では、現代アートを楽しんでほしい!著者はそのように思う次第です。
そうはいっても、どこで現代アートを楽しめばいいのか!? その答えとして、前記事「ロンドンで現代アートを楽しむための名美術館・神7」をご紹介しました。本稿では、その7つの美術館以上に、筆者がおすすめする現代アートの別格美術館、Tate Modern(テート・モダン)についてご紹介いたします。
ダリもピカソもウォーホルも!現代アートの巨匠の作品がそろい踏み
著者はロンドン滞在中、どんなに時間がなくても、必ずテート・モダンにだけは行くことにしていますし、誰かに「ロンドンで3時間ヒマができたら、どこに行けばいい?」と質問されたなら、テート・モダンを訪れることをすすめることにしています。
テート・モダンには、美術好きも美術に関心のない人をも惹きつける魅力が充満していますし、ミレニアム以降の21世紀のロンドンを、もっとも実感できる場所だと思うからです。
では、テート・モダンがほかの美術館と違うところは、どこなのか?
まずなんといっても、展示点数が膨大! 展示スペースがめちゃかっこいい! 企画展も強力! しかも、見ただけでインパクトのある超巨大作品が多く、美術に造詣の深くない人でも十分楽しめる展示になっているところ。
所蔵作品は、誰もが知るアンディー・ウォーホルやカンディンスキー、ジャクソン・ポロック、リキテンスタイン、ジャコメッティ、サルバドール・ダリ、マルセル・デュシャン、ナム・ジュン・パイク・・・ああ・・・書き切れない! まさに、現代アートの歴史を完全に俯瞰してみられるような、大ボリュームの常設展示が用意されているのです。
美術の教科書で見たような作品を実際に目の当たりにし、「あ、この作品、知ってる!」とミーハー気分で楽しむこともできるし、絵画、写真、彫刻、ビデオアート、コンセプチュアルアートと、ありとあらゆる形態の現代アートに接することができるため、アート好きの人が満足度高く楽しむこともできます。
”テート・モダンを見ずして、現代アートを語るなかれ!”という感じです。
「巨大火力発電所」が美術館になった奇跡の空間
テート・モダンは、英国国内にほかに3つの美術館(Tate Britainテート・ブリテン, Tate St Ivesテート・セント・アイヴス, Tate Liverpoolテート・リバプール)をもつ、Tate(テート)が運営する美術館です。
テートが美術作品の一般公開を始めたのは、1897年のこと。以来、イギリスの美術作品の所蔵と公開において大きな役割を担ってきました。そのテートにとって転機となったのは、2000年のミレニアムイヤー。その年、それまでの英国人アーティストの作品に特化していた活動から一歩踏み出し、広く世界の現代アートの作品収集と公開を行う、新たな美術館をオープンさせました。それが「テート・モダン」なのです。
それまであまり観光客が多く訪れることのなかったテームズ川南岸を再開発し、閉鎖された火力発電所を改築して美術館にするという大胆な発想で、このテート・モダンは誕生します。改築にあたっては設計コンペが行われ、スイス出身の建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンの設計案が採用されました。
もともとの火力発電所の心臓部にあたる、巨大なタービン室をそのままエントランスとして使用。来館者が美術館に足を踏み入れた瞬間に出くわす巨大空間に、誰もが圧倒されることでしょう。このエントランス部分はさまざまなインスタレーションの場としても使用されます。著者がかつて経験したのは、この4階分にあたる巨大な吹き抜けスペースに設置された長大な滑り台を、来館者が滑り降りることでアート作品そのものに参加できるという、不思議なインスタレーション。カールステン・フラーという現代アーティストの作品でした。
2000年には、ロンドンでさまざまな建造物が造られる「ミレニアムプロジェクト」が行われました。テート・モダンから対岸のセントポール寺院側に向けて、テームズ川に新しい歩行者用の橋“ミレニアム・ブリッジ”がかけられたのも、このとき。こちらは、英国を代表する世界的建築家、ノーマン・フォスター氏の事務所、フォスター・アンド・パートナーズによる設計。このふたつのミレニアム建築によって、テームズ川南岸が一気に観光スポットとなったわけです。
テート・モダンの設計コンペには、日本の世界的建築家、安藤忠雄氏も参加。そのときの設計案が、今年国立新美術館で開催された展覧会「安藤忠雄展 挑戦」(12月18日まで)に展示されていました。著者としては、安藤忠雄案の方がぐんとダイナミックで度肝を抜く感じがして、こっちが採用されていた方がよかったのになあ・・・なんて思いました。
とはいえ、今の建築も十分かっこいいのは言うまでもありません。
2016年に完成したロンドン一、夜景夕景の美しい展望台
さて、テート・モダンは昨年(2016年)、新たな新館がオープンして、大きな話題となりました。「スイッチハウス」と命名されたこの新館の完成により、もともと膨大なコレクションの展示と、意欲的な企画展で世界中からの観光客を魅了していたテート・モダンはさらに魅力を増すことになりました。
以前ご紹介した横浜美術館の「ヌード 英国テート・コレクションより」展の記者発表で来日した、テート国際巡回展責任者のダニエル・スレーター氏は「常設展示スペースでは頻繁に展示替えが行えないので、テートが保有する膨大なコレクションを十分には見せられない状況があったが、スイッチハウスの完成により、より多くの作品を皆さんにみてもらえるようになった」という趣旨の説明をされました。
新館「スイッチハウス」の完成で、従来の展示室は「ボイラーハウス」と呼ばれるようになり、巨大な吹き抜けのエントランスを挟んで、同美術館の両輪として、世界中の現代アートファンをますます魅了してくれることでしょう。
ところで、これだけ説明してもそれでもやっぱり「現代アートって、やっぱりしちめんどうくさい」という方には、この新館「スイッチハウス」の10階にある、最上階の展望台に行くことをお勧めします。
夕陽の沈む時刻に、あるいは夜の帳が降りた後に、この展望台から見るロンドンは世界でいちばん美しい!と思えるはずです。ここから眺めるロンドンこそが、ミレニアム以降の真実のロンドン。
バッキンガム宮殿もビッグ・ベンもシャーロック・ホームズもいいけれど、金融の世界的中心地として、アートの最先端基地としてキラキラ輝いている、現在のロンドンを実感することができるでしょう。
展望台に上がるのはもちろん無料なので、まあ、アートはそっちのけでこの絶景を見るためだけに「テート・モダン」を訪れるのもいいかもしれません。
ひょっとしたら、それこそがこの美術館が提供してくれるサイコーのインスタレーションなのかも知れません。
お洒落なカフェ、レストランに、お土産購入に事欠かない充実のミュージアムショップも完備されたテート・モダン。さらに、金曜と土曜は22時までオープンしているので、短いロンドン滞在を有効に使うのにも最適の観光スポットといえるでしょう(はっきり言って、これだけの充実の展示内容、お洒落空間、夜営業・・・日本の美術館もがんばらにゃなあ・・・)。
というわけで、現代アートの聖地をご案内すると言いながら、現代アートのことはあまり説明しませんでしたが、そこはそれとして・・・。
今回はこの辺で・・・あ、そうだ、今回は今紹介したテート・モダンの新館「スイッチハウス」展望台からの夜景をバックに、次回までsee you later alligator! でございます!
- TEXT :
- アンドリュー橋本 Precious非公式キャラクター