銀座の街に色鮮やかなアートが登場したと話題のアート展「ル・パルクの色 遊びと企て」。手掛けたのは、日本初の個展ということでも一際注目を集めている現代アートの巨匠、ジュリオ・ル・パルクさん。今年93歳を迎える彼が「銀座メゾンエルメス」のファサードやウィンドウディスプレイ、エレベーターにまで及ぶ、ビルと連動した色の「遊びと企て」の世界とは。

現代アートの巨匠、ジュリオ・ル・パルクさんが「銀座メゾンエルメス」で日本初となる個展を開催!

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「銀座メゾンエルメス」のファサードに描かれた「ロング・ウォーク」|1974-2021|1421枚の着色したポリ塩化ビニールシート|約287㎡ (C) Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

1928年、アルゼンチンに生まれ、30歳のときに移住して以来、フランスを拠点に活動を続けるジュリオ・ル・パルクさん。今年93歳を迎える現代アートの巨匠です。ピート・モンドリアンやロシア構成主義に大きな影響を受け、幾何学的な抽象画の制作を始めた彼は、その後、’60年代には視覚芸術探求グループ「GRAV」を結成。平面的な作品以外に、動きを取り入れたアートを展開し、現在に至るまで一貫して色、光、動きを探求してきました。

彼の日本初となる今回の個展では、アーティスト活動の草創期から今回のために誕生した最新作までが集結! アートは「銀座メゾンエルメス」のファサードやウィンドウディスプレイ、エレベーターにまで及び、ビル全体で色を使った「遊びと企て」を体感することができます。ここでは、主な展示作品を紹介しながら、ジュリオ・ル・パルクさんが創りだす世界の魅力に触れたいと思います。

ジュリオ・ル・パルクさんの初となる日本での個展は、過去から現在までの作品が勢揃い

ここでは、現在開催中の「ル・パルクの色 遊びと企て」の見どころをクローズアップします。

■1:ファサードに現れたル・パルクさんの代表作「ロング・ウォーク」

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〈「ロング・ウォーク」のためのエチュード〉1974|29×117㎝|木にアクリル (C) Atelier Le Parc

「ル・パルクの色 遊びと企て」ジュリオ・ル・パルク展は、「銀座メゾンエルメス」のフォーラムやファサード、エレベーター、そしてウィンドウも連動したダイナミックな企画。特に目を引くのは、ファサードに1421枚のビニールシートを使って描かれた「ロング・ウォーク」。「ロング・ウォーク」はル・パルクさんが’70年代に制作をはじめたアイコニックな作品でありモチーフ。彼が1959年から使い続けている特定の14色を使用し、複数のモチーフを連続させた作品です。

「〈ロング・ウォーク〉は14色の実験の延長線上。モチーフを切り離しても繋げても機能しますが、シークエンスを感じる繋げたほうに興味がありますね。今回は〈ロング・ウォーク〉のモチーフがファサードにもエレベーターにも現れます。通りを歩く、展覧会に興味のない人も目にすることになります。そういった人たちにも感想を聞いてみたいですね」とル・パルクさん。

「エレベーターでも、皆さんは面格子の奥に分割された〈ロング・ウォーク〉を見ることになります。普段エレベーターを使う時とは違った、驚きの経験になることでしょう」。ル・パルクさんが創作活動を始めた’50年代から追求しているのは、作品と鑑賞者が有機的な関わりをもつこと。ただ見るだけではなく、鑑賞者に介入し、参加し、「経験」してもらうこと。今回の展覧会では、会場に入る前――ファサードやエレベーターから、「経験」を味わうことができます。

■2:草創期から’70年代、そして2000年代の近作まで豊富に展示

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「円の切片」1958|49.2×30.7㎝|厚紙に黒インク、グアッシュ (C)Atelier Le Parc

「ロング・ウォーク」が断片的に現れるエレベーターを降りると、そこにはアーティストとしての草創期から近作までがずらり。14色を用いる前に白黒のみで描いた作品や、「GRAV」時代の作品(パフォーマンス)にも触れることができます。

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パリの街のあちこちで1日、「新しい状況」を待ちゆく人々に投げかけたGRAV時代のパフォーマンス。「GRAV、街の一日、パリ」1966 (C)Atelier Le Parc

14色を使ったさまざまな実験のバリエーションも、平面から立体、さらには鑑賞者が参加する作品まで豊富に展示されています。70年を超えるパルクさんの継続的な制作活動の成果をこれだけまとまった形で閲覧することができるのは、非常に貴重な機会です。

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「シリーズ 14-14 置換」1970-2020|200×200㎝|カンヴァスにアクリル (CAtelier Le Parc
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「反射ブレード(刃板)」1966-2005|277×252×80㎝|スチール、49刃板、カンヴァスにアクリル (C)Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

■3:鑑賞者が介入することで空間が完成する、ふたつの新作モビール

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〈モビール14色〉2021|578×173×151㎝(15㎝×15㎝のパーツを使用)|1456枚のプレキシガラス、塗装スチールワイヤー、金属 (C)Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

そして、なんといっても見逃せないのがファサードやエレベーターと同様の最新作。14色を使ったものとステンレス、2つのモビールがこの展覧会のためにうまれた新作として公開されています。

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〈モビール〉2021|532×375×375㎝(15㎝×15㎝のパーツを使用)|3360枚のステンレススチール、スチールワイヤー、金属 (C)Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

モビールは’60年代から幾度も制作してきた作品。しかし、サイズや場所が違えば、それはまったく違う作品になるとル・パルクさんは語ります。

「作品は様々な鑑賞者の目に触れることによって新たなシチュエーションが生まれます。私が’60年代に行った実験―例えば小さなサイズの〈モビール〉は、サイズを大きくすることで新たな意味がうまれます。ただサイズを大きくしたというだけではありません。鑑賞する人やその空間に入ってくる人との身体的な関係が生まれるからです。作品はその場所をそれまでとは違った空間に変化させます。だから…私は同じ作品を繰り返し制作しているとは考えていません」


芸術が限られた人々のみに享受されることや、鑑賞者が受動的な立場にとどまることに疑問を投げかけ、「誰もが平等に芸術に参加してほしい」とう願望を形にしてきたル・パルクさん。それは今回の展覧会でもはっきりと具現化されています。

時間によっても表情を変えるモビール。見る人にしかその瞬間の色を見せない、反射ブレードを使った作品や面格子を使ったエレベーター。展覧会の鑑賞者ですらない、道行く人にも印象を残すファサード。日本初の個展は、彼のアーティストとしての姿勢を十二分に表しているといえます。11月までの会期の間、季節や時間によっても作品は表情を変えることでしょう。ぜひ、いま自分にしか「経験」できない彼の色彩の「実験」を味わってみてください。

※新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下では一部情報が変更となる可能性があります。公式HPでご確認ください。

「ル・パルクの色 遊びと企て」ジュリオ・ル・パルク展

  • 会期/〜2021年11月30日(火)※ファサード展示は2021年10月中旬までの予定
  • 開館時間/11:00~19:00(最終入場は18:30まで)
  • 定休日/エルメス銀座店の営業時間に準ずる
  • 入場料/無料
  • 住所/東京都中央区銀座5-4-1 8F
  • 会場/銀座メゾンエルメス フォーラム

問い合わせ先

銀座メゾンエルメス

TEL:03-3569-3300

この記事の執筆者
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WRITING :
門前直子
EDIT :
石原あや乃