人生を重ねた大人だからこそ見えてくる、豊かな暮らしとは?をテーマに、雑誌『Precious』編集部が総力取材する連載「IE Precious」。
今回は、フランスで初めて海洋に特化した公益財団法人として認定された、タラ オセアン財団の日本事務局「一般社団法人タラ オセアン ジャパン」事務局長のパトゥイエ 由美子さんのご自宅を紹介します。
「真っ白い壁がお気に入りのアートで彩られていくのを見るたびに、家と家族の成長と歴史を感じます」
都心か郊外か。デザインか機能性か。17年前、家を建てると決めたとき、夫婦で絶対譲れないものを話し合ったというパトゥイエ 由美子さん。
「南向きで明るいこと、静か、駅から近いこと。この3つは夫婦共通の条件でした。ただ、夫は、それに加えて『絶対、都心!』派。一方私は、緑が豊かで大きな公園がある郊外も候補地。最終的には夫の都心という条件もクリアした土地が見つかり、今の地に。共働きですし、子供が小さい間、職住近接は助かりました」(パトゥイエ 由美子さん、以下同様)
土地が決まったら次は設計。旅行好きなふたりが集めた、気に入ったホテルや建物、ショップの写真。海外の雑誌やアートブックのスクラップ。インテリアから家具、間取り、外観まで、夫婦の『好き』が詰まった分厚いスクラップブックは、眺めているだけで楽しい、素敵なもの。
「このブックをつくったおかげで設計士さんとのイメージの共有は簡単でした。ただ、フランス人の夫は超デザイン重視派。『網戸はいらない』『階段の手すりはワイヤーがいい』という点はもめました(笑)。機能性も重視したい私との歩み寄りの結果、居間の大きな窓以外はすべての窓に網戸を付け、手すりもしっかりとした鉄製に(苦笑)」
2階から3階へ向かう階段の壁には、アート作品がぎっしり。
「16年かけて徐々に増えてきましたが、特にコロナ禍で一気に数が増えました。額装も配置もすべて夫の担当。考え抜くというより感覚的に飾っているらしいのですが、そもそも『並べる』こと自体が好きみたいです」
ポイントは『混ぜる』こと、と由美子さん。「よく見ると、娘が描いた絵や、映画や展覧会のポスター、雑誌の表紙なども有名なアーティストの作品に紛れています。フィギュアや旅先で買った絵葉書もあったりして、そのミックス感が楽しい。白い壁を基調に、額装はすべてシルバー、黒、白、木で統一しているのもポイントだと思います」
地下1階、3階建て屋上付きのこちらの家に欠かせないのが、階段。すべての階段をスケルトンにして、リビングなど部屋と直結。さらに吹き抜けと組み合わせることで、家全体がひとつの大空間のような間取りが完成。手すりを壁と同じ白で統一することで、夫婦の理想どおり、どの部屋も明るく開放感のあるスペースになりました。
玄関スペース。ベルトイアのワイヤーチェアがアクセント。スケートボードはFUTURA、ブルーに光る床置きの作品はK-NARF、右端の壁の写真作品は、ニコラス・テイラーと、ジャン=ミシェル・バスキア。
「最大のこだわりは『白』。アートやグリーンがいちばん映えると思い、壁も床も全部白に。16年前は真っ白だった壁が、お気に入りのアート作品で彩られていくのを見ると、家と家族の歴史を感じます。改めて、白を基調にしてよかったと思います。家が、白いキャンバスでできた箱のようで、表現の幅が広がりますね」
白いソファを彩るラグは旅先で購入したもの。端っこは愛犬のロラちゃんの定位置。
ダイニングの水屋箪笥の上にはヴィンテージのラジオと、アーティストTAKU OBATAのフィギュアが。
地下1階の寝室。センスよく敷き詰められたキリムは、パリや東南アジア、日本のキリム店で。趣味部屋でもあり、数百冊ある蔵書やレコード、CDがぎっしり。ヤマハのグランドピアノは結婚20年の記念に購入。由美子さんと娘さんが弾くそう。
ワークスペースは3階に。オレンジとグリーンのコンテナは『HUMAN MADE』のもの。椅子はエーロ・サーリネンのチューリップチェア。壁のアートのなかでも左下の女の子は娘さん作。
「友人のアーティスト K-NARF のワークショップで一緒に作ったものです」右上は、ANDRÉの作品。
ゲストルームのベッドサイドには、グラフィカルアーティスト・ラメルジーの作品。チェス盤はなんとご主人作!
「骨董品店で買った日本の将棋盤の脚を切り落とし、いろいろなフィギュアをチェスの駒に見立てて配置したものです」
階段の踊り場もアートスペース。正面はFUTURAの作品。緑のランプはイサム・ノグチ。
「夫の作品や、旅のお土産など、いろいろと紛れ込んでいます」
「家はそこに住む人や家族と一緒に成長し変化するもの。これで完成という形はありません」
白が基調のリビング。吹き抜けに降り注ぐ光が心地よい。右手前のカラフルなアートはFUTURAで由美子さんがいちばん好きな作品。隣のグラフィカルアートはTAKU OBATA。向かって左、上はTAKU OBATA、下はFUTURA。
「アートは100点以上あると思いますが、どれも少しずつ集めた、夫婦と家族の『好き』の積み重ね。これからも大切にしていきたいです」
この16年の間に、由美子さんの仕事への意識や生き方にも変化が。
「管理職になるにつれ、企業の社会的な役割や責任、とりわけ環境問題に興味がわいてきて。一度会社を退職しゆっくり考えようと思っていた矢先、アニエスベーが共同創設した公益財団法人タラ オセアン財団の日本事務局からオファーをいただきました。フランスに本部があり、海洋科学探査船『タラ号』を使用して、世界中の海を科学者と共に調査し、海洋保全の重要性を、科学とアート、教育の面から伝える仕事です。やりがいのある仕事で、働き方も理想的。今がいちばん幸せかもしれません」
最近では、数年前からやりたかったミミズコンポストも開始。
「生ゴミをゴミとして燃やすのではなく、ミミズの餌にして堆肥に。また、再生可能エネルギー100%の電力会社に変えるなど、少しでも環境負荷を抑えた生活を模索中です。
私にとって、家はそこに住む人と一緒に成長し変化するもの。コロナ禍で家で過ごす時間が増え、太陽の光やグリーンのもたらす癒し、アートと暮らす豊かさに改めて気づきました。いかに居心地よく、機嫌よく、そして地球にも優しく過ごすかがますます大事になってくると思います」
由美子さんのHouse DATA
●間取り…3LDK
●家族構成…夫婦、娘、愛犬
●住んで何年?…丸16年
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- BY :
- 『Precious 11月号』小学館、2021年
- PHOTO :
- 川上輝明(bean)
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)