さまざまな分野で自分の道を切り拓き、新たな時代のロールモデルとして活躍する女性たちに注目する連載企画。彼女たちがどんな道を歩み、どんな思いを抱いて、今をどう生きているのか…を中心にお話を伺います。

今回登場していただくのは、エシカルなジュエリーブランド「HASUNA」を立ち上げた、社会起業家の白木夏子さん。辿ってきたキャリアパスから今後の展望、コロナ禍で一般化したリモートワークについてを、全3回のシリーズでお届けします。

第2回の本記事では、「出産を機に変えた仕事のスタイルと、新たな分野への挑戦」を主題に、ターニングポイントとなった第一子の出産や、積極的に起業家支援を行っている理由や将来の展望について語っていただきました。

2017年にはCNNが選んだ日本人女性「リーディング・ウーマン・ジャパン」に選ばれるなど、世界的にも注目を集める起業家である彼女の今後とは?

 
白木 夏子さん
HASUNA Co., Ltd. Founder & CEO
(しらき なつこ)1981年生まれ。南山大学短期大学部を経て英ロンドン大学キングスカレッジにて発展途上国の開発について学ぶ。投資ファンド事業会社に勤務した後、2009年にHASUNAを設立。人と社会と自然環境に配慮したエシカルジュエリーブランド事業を展開。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011」キャリアクリエイト部門受賞。2011年、世界経済フォーラム(ダボス会議)が選ぶ日本の若手リーダー30人に選出。著書に『世界と、いっしょに輝く エシカルジュエリーブランドHASUNAの仕事』(ナナロク社)、『自分のために生きる勇気』(ダイヤモンド社)など。Voicyチャンネル「経営&ブランドゆる話」にて音声配信中。HASUNAホームページ

出産という転機を経て、次世代の起業をサポートする側にシフト

キャリア_1,インタビュー_1
ジュエリーブランドHASUNA Founder & CEO、ブランドプロデューサー・ディレクター白木夏子さん
──キャリアのターニングポイントと、その後の仕事内容の変化についてお聞かせください。

「第一子の出産がやはり一番大きかったですね。それまでは夜までずっとアポが入っている感じで、全ての会議や交渉に自分が出席し、逐一自分でやらないと不安でしたし、そういうものだと思い込んでいました。

子供が生まれてからは、夜は家にいないといけないですし、自分の自由が効かないという状況に初めて陥りました。そこで出席する会議や出勤も最小限にすると宣言。最初はなかなかうまくいきませんでしたが、1〜2年続けていくうちに段々と現場が自分たちで動けるようになりました。

それまでひとりで握りしめていた手綱を、一本ずつ放していくような感じです。

最終的に経営の権限と、私にしかできない重要な経営判断や投資家とのコミュニケーション、銀行との交渉といったところのみに従事することに。デザインや生産管理、販売については自分から切り離し、他の人にお任せしています。子育てを業務より優先させた、というより、混在する2つの舵取りがうまくなっていったようなイメージです。

自分の仕事の一部を委譲したことで、余裕ができ、新しい挑戦ができるようになりました。そこで、他の起業家のサポートに力を入れることに」

──起業サポートを始めた理由と、重要視している点は?

「私自身、自分が起業した際に面倒を見てくれたというかアドバイスをくれていた、設立5年めや10年めといった先輩の起業家の方達からとても学びを得ました。やはり起業は起業家からしか学べないなと…。先輩方に本当に感謝しているのですが、みなさん、口々に『あなたが成長したら次世代の起業家を育ててね』とおっしゃっていて、私もそろそろそういう時期かなと思いました。

また、昨今、起業を目指している人が増加しており、アドバイスをして欲しいというオファーも多いです。本業をしながら隙間時間での対応にはなるんですが、次世代の起業家を育てるのにとてもやりがいを感じています。

起業家をひとり育てるということは、その人が接する社員からお客様まで膨大な人たちに影響を与えること。その起業家がサステイナブルやエシカルに気を配れば、この世の中がもっとよくなるという確信があったので、私が今までしてきた成功や失敗の経験が役に立てばと思っています。

サポートする際に重要視しているのは、なんらかの形で社会に貢献している会社やブランドであり、そしてそのフィロソフィーが明確であること。その起業家と話をし、事業内容を聞いた際に未来の世界をよくしていくもの…と自分が思えたら携わらせていただきます。

また、今年の4月にできたばかりの学部ですが、武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部で教員をしています。70名くらいの学生とも対話を通じて、サステイナビリティやエシカルについて考えていきたいな、とも思っています」

優れた日本の職人さんを支えたい!起業家を目指す学生に学ぶことも

キャリア_2,インタビュー_2
「これからは日本らしさも追求していきたい」と白木さん
──今後の展望についてお聞かせください。

「HASUNAに関しては、しっかりと日本の職人さんをサポートできるようにしていきたいです。HASUNAのジュエリーは、原料は世界中から取り寄せていますが、日本の職人さんが製造と仕上げを行なっています。その日本の職人さんたちの規模が年々縮小し元気がなくなってしまっていて…。

年間何千人も、学校でジュエリーを学び卒業した職人の卵が生み出されているのに、実際に食べていける人はひと握り。でも日本人の技術や手先の器用さによる”仕立てのよさ”は世界レベルだと思うので、そこをジュエリーブランドとしてサポートしていきたいんです。

素材に関しても最近は日本の真珠や珊瑚など、日本古来のものにフォーカスして日本らしさを追求しています。また、なかなかコロナもあり進んでいないのですが、海外での販売も考えています。世界観も海外を見据えて作ってきたので、注目していただけたら有難いです。

起業家に関しては、世界を変えると思える人たちを引き続きサポートしていきたいです。教員をしている大学の学生さんは、まだ高校を卒業したばかりでも、しっかりとした考えを持っていて、すでに小さな起業家です。彼らが自分らしいスタイルの起業ができるよう、サポートしていきたい。海洋プラスティックの削減など、大半が社会貢献について考えていて、私自身も刺激を受け学ばせてもらっています。

ほかには、いまSDGsやエシカル、サステイナビリティが注目されてきているので、そこをブランドとしても発信していこうと思っています。その一環として、この4月からVoicy(日本発の音声プラットホーム)をスタートしました。文章だとどうしても堅い印象になってしまう事柄が、声で説明するとより多くの人に届きやすいようで、コメントを頂いたり…、反応が嬉しいです」

──起業したい女性にメッセージをお願いします。

「これから大きい会社でもいつまで存続するかわからない、VUCA(ブーカ。Volatility「変動性」、Uncertainty「不確実性」、Complexity「複雑性」、Ambiguity「曖昧性」)の時代。副業も一部で解禁されてきていますが、自分がいつ、いかなるときも活躍できるスキルを磨くのが大事です。

独立できたり、どの会社でも使える能力を得られるよう、日々数分でいいから何かに取り組むべき。日本だけでなく世界中、VUCAの時代に突入していますから、スキルを磨き続ける努力が必要なんです。ポッドキャストやVoicyを聞いたり、本を読んだり…、どんな方法でもよいので知識を蓄えて、刃を研ぎ続ける習慣を身につけている人が強いと思います」


SK-IIのコロナ禍で影響を受けた女性起業家を支援する取り組みのひとつ、SK-II STUDIO 第三弾作品「それぞれのスタジアム」にもそのキャリアストーリーが取り上げられた白木さん。実は、第二子の出産後2週間での撮影だった、というなかなかタフな逸話も持っています。

Vo.3の記事では、リモートワークや、気になるバッグの中身について伺いました。ぜひお楽しみに!

この記事の執筆者
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PHOTO :
黒石 あみ(小学館)
WRITING :
神田 朝子
EDIT :
谷 花生