呼吸を意識したことはありますか?吸ってはいて…今この瞬間も無意識に続けているのが呼吸です。当たり前のように行っていますが、一方では、社会や生活の大きな変化に伴うストレスを受けて、文字どおり、「息苦しい」「息が詰まる」と感じている人が急増しています。

『Precious』1月号では、心と体を開放する呼吸のあり方について特集。横隔膜を意識しながら呼吸する現代の新習慣=「呼吸美容」についてご紹介しています。

今回はその中から、「呼吸」の基本についてお届け。呼吸にはどんな種類があるの?どう違うの?といった疑問にお答えします。「鼻呼吸」と「口呼吸」の違いや「横隔膜呼吸」のメカニズムなど、今こそ知っておきたい「呼吸」にまつわる情報は、必見です!

今こそ、知っておきたい「呼吸の基本」

私たちがふだん、無意識に行っている呼吸は、胸式呼吸と腹式呼吸の2種類。それらの違いをわかりやすく挙げると、横隔膜が動くかどうか。

胸式呼吸では横隔膜はあまり動かず、浅い呼吸で肺にすばやく酸素を取り入れることができます。交感神経が優位に働くので日中や運動時に適しています。

一方、腹式呼吸は横隔膜が大きく動いて、ゆっくりとたくさんの酸素を取り入れることが可能。副交感神経が優位に働くのでリラクゼーションを誘います。

本来は、自然にスイッチできるはずが、緊張感が続く現代は、自律神経の働きも呼吸も乱れがち…。そこで、胸式呼吸と腹式呼吸、それぞれの役割を知ったうえで、意識的に行うべき呼吸法は何かを考察。その答えは、さらに深くゆっくり行う「横隔膜呼吸」にありました!

●息を吸ったとき胸がふくらむ「胸式呼吸」

日中何気なく行っている浅くて早い呼吸が、胸式呼吸。息を吸ったときに肋骨の間にある呼吸筋=外肋間筋が動いて肋骨を押し上げ、胸郭を広げるので、胸がふくらみます。交感神経が優位になり、適度な緊張感で体が活性化したり、リフレッシュできたりします。

息を吸ったときにおなかがふくらむ「腹式呼吸」

食事や就寝時など、心身共にリラックスした状態では、肺の下にある呼吸筋=横隔膜が上下に動いておなかがふくらむ腹式呼吸に切り替わります。副交感神経が優位になるので、筋肉の緊張が解けて、気持ちも安定。ストレスを軽減する効果があります。

そして今、意識して行いたい「横隔膜呼吸」

生命の維持のために無意識に行われる胸式呼吸や腹式呼吸。対して、環境や生活習慣などで乱れがちな自律神経を整えるために意識的に実践したいのが横隔膜呼吸です。横隔膜を上下に大きく動かすと体の中で何が起こるのかを、ここから解説します。

呼吸筋=横隔膜を動かす「横隔膜呼吸」のメカニズムとは?

瀧川裕恵さんによる女性のイラスト
 

横隔膜は胸とおなかの境にあり、肋骨の下5本の内側をぐるりと囲むように付着しているドーム形の筋肉。上には肋骨や胸椎、胸骨に囲まれたスペース(胸腔)があり、肺と心臓が入っています。

一方、下には肝臓や胃が接しています。横隔膜の主な役割は呼吸筋としての働き。息を吸ったりはいたりすることで上下に運動し、胸腔内の圧力の変化によって肺がふくらんで酸素を取り込み、縮んで二酸化炭素を排出する呼吸をサポートしています。

通常、無意識に行われている呼吸でも動いていますが、手足の筋肉のように意識的に動かして、呼吸をコントロールできるのも特徴。ゆっくり息をはきながらおなかをへこませると横隔膜がせり上がって肺を押し上げ、空気が出ていきます。

そのうえで、息を深く吸いながらおなかをふくらませるようにすると横隔膜が下降して胸腔が広がり、肺にたくさんの空気が入ります。いわば、腹式呼吸から一歩踏み込んで、そうした作用を感じつつ行うのが「横隔膜呼吸」。体のすみずみに酸素が行き渡るから、細胞のエネルギーがアップ!

これが、健康と美を養う「横隔膜呼吸」のメカニズムと意義です。

〈知っていますか?鼻呼吸と口呼吸の違い〉

鼻から息を吸って鼻から出す鼻呼吸と、口で息をする口呼吸。もともと哺乳類にとって、口は食べるため、鼻は呼吸するための器官。言語を操る人間だけが口でも呼吸するといわれています。だから、言葉を発する前の赤ちゃんは鼻呼吸がメインです。

鼻呼吸がよいとされる理由は、鼻毛や鼻腔粘膜がフィルターとなって微細な異物やウイルス、細菌をブロック。さらに、空気が体内に入るまでに適切な温度と湿度に調整され、肺の負担を軽減しスムーズに循環されるから。

異物混じりの冷たく乾いた空気が直接、のどに当たる口呼吸に比べると、感染症にかかるリスクが少ないといわれています。

口呼吸になる原因はさまざまですが、スマホの操作に夢中になって口がぽかんと開いていたり、マスクが息苦しくて口ではあはあと息をしたり…。口呼吸が昨今の生活習慣や環境下で急増していることも事実。

まずは、日常的に鼻呼吸を意識することが、正しい呼吸法をマスターする第一歩です。

ILLUSTRATION :
瀧川裕恵
EDIT&WRITING :
岡本治子、五十嵐享子(Precious)
参考文献 :
『〝隠れ酸欠〟から体を守る横隔膜ほぐし』京谷達矢著(青春出版社)、 『逆境に強い心のつくり方 システマ超入門―ロシア軍特殊部隊が生んだメソッド』北川貴英著(PHP文庫)