パルマ郊外にあるレストラン「インキオストロ」は、以前からクリエイティブなイタリア料理=クチーナ・クレアティーヴァを標榜してミシュラン1つ星に輝くなど、すでにその名は知られていたが、昨年11月に新シェフ、サルヴァトーレ・モレッロが就任。さらに高みを目指すべくパワーアップして再スタートを切った。南イタリア、カラブリア州出身のサルヴァトーレ・モレッロはドイツのホテル・レストランやイタリア料理店でキャリアを磨き、パリの「アラン・デュカス」などを経てイタリアに戻った。10年以上イタリアを離れていた彼からすれば凱旋帰国であり、食の都として名高いパルマの名店でシェフに就任するということは新たな冒険の始まりであった。そのサルヴァトーレ・モレッロの最新料理を紹介したい。
話題のクチーナ・クレアティーヴァとは?
「インキオストロ」は敷地内に隣接する「ホテル・リンク124」のオーナーであるポーリ家が所有するレストランだ。コンテンポラリーアートが飾られたダイニングルームは、窓が大きく取られており、自然光が差し込む明るい空間で最新のイタリア料理を楽しむことができる。シェフのサルヴァトーレ・モレッロは、寡黙で哲学者のような空気を漂わせている。外国で学んだ最新の料理技術やトレンド、食材、調味料などをイタリア料理に還元し、新たな料理の創造に挑んでいるのだ。
パルマの名店「インキオストロ」で楽しむ最新のイタリア料理
最初に登場したのは「ブリ 海苔 青リンゴ」。海苔で5日間マリネしたブリは、美しい緑色のソースとともにいただく。これはぽん酢、発酵させた青リンゴ、青リンゴのジュースとワサビを使った酸味が心地良い上品なソース。ブリにトッピングされているのはマリネに使った海苔で、つけあわせはキュウリのマリネ。それぞれが異なるナチュラルな酸味で調味されており、世界的なトレンドである発酵を実にうまく取り入れている。
肉料理は「子豚 落花生 赤だし」。これはイベリコ種の乳飲み子豚を骨を外してから整形、低温調理でじっくりと柔らかくなるまで火を入れたもの。エノキのぽん酢ソテー、やズッキーニなどの野菜はギリシャ風のツァツィキソースとともに。肉はとろけるように柔らかく、しかし皮はカリっとクリスピー。同じ子豚からとったソースもよくあい、ほんの一口サイズなのでいつまでも豚の旨味が続く極上料理。
パスタは「ボットーネ 黒キャベツ トリュフ」。ボットーネ=ボタンと呼ばれる手打ちパスタは、中に牛肉の赤ワイン煮ブラザートが詰め込んである。これをブラザート、トピナンブール=キクイモ、黒キャベツの3食のソースとともにいただく。トッピングはシェフの故郷カラブリア産の黒トリュフ。これはじっくり煮込んだ牛肉の旨味とパスタの中に閉じ込めた満足度高い料理。3食のソースも美しく、かつ美味しく、大地を連想させる黒トリュフの香りが全体を見事に調和させている。イタリア人シェフは、どんなにクリエイティブな料理を追求しても、ことパスタに関しては伝統的技法を尊重するのがアイデンティティ。サルヴァトーレ・モレッロもやはりそうした黄金律に関してアンタッチャブルなのだろう。テクニックは最新ながらも味はあくまでノスタルジックなイタリア料理で、いつまでも忘れられなくなりそうなパスタだ。
国際経験豊かなサルヴァトーレ・モレッロが、シェフに就任した新生「インキオストロ」は、イアリア料理の現在の到達点を知る意味でも試す価値があるレストランだ。サルヴァトーレ・モレッロにとってミシュラン1つ星はあくまでも通過点であり、さらなる高みがその視野に入っていることは想像に難くない。日本の食材や調味料など、聴き慣れた単語があちこちに登場するのも国際経験豊かなシェフならではの自由な発想であり、こちらとしては一体どんな風にイタリア料理に昇華させるのか?一品一品が楽しみでしょうがない、そんな気分にさせてくれる。
また「インキオストロ」は地下にあるワインセラーも特筆もので、レア・シャンパーニュからプレミアム・イタリア・ワインまで、まるでワインを販売するエノテカのような美しいディスプレイで展示してある。セラーの中に設けられた1卓限定のスペシャルテーブルは予約も可能。さまざまなワインに囲まれて過ごすプライベートなひとときもまた、きっと忘れられない時間となるはずだ。
インキオストロ
- INCHIOSTRO TEL:+39-0521-776047
- Via San Leonardo 124, PARMA(PR)
※新型コロナウイルスの影響により一部情報が変更となる可能性があります。最新情報は公式HPなどでご確認ください。
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト