【ルール41】物語のなかの東京で遊んでいる
刻々変化している東京。その変化こそが東京のヴァイタリティ、東京らしさと外国の方は言う。だが、その結果、ぼくたちの愛する東京は記憶のなかにしか残っていない。
しかし、自己の記憶の小さな湖も水としてどこかに繋がっている。
その水系を辿っていく、自分の過去から他者の過去へと遡航していく旅は東京ジェントルマンに与えられた知的ラグジュアリーである。
たとえば川本三郎氏の読売文学賞受賞作『荷風と東京─「断腸亭日乗」私註』。
江戸を下絵に持つ旧東京、永井荷風が愛したラビリンスが川本氏のていねいな検証で立ち現れてくるのだ。
【ルール42】古風にも手書きが好きだ
打ち合わせのときに相手がメモをとる。それだけで判断はしないが、やはり字の美しい人は、汚いなぐり書きの人より優位に立つのである。記帳でもコンプライアンス関係のサインでも須すべからくそうだ。なんというのだろう、正統派というか、そこらのチンピラではない、というプロファイルが立ち現れてくる。
そして教養の差である。英国製らしき素敵なメモ帳を出し、万年筆で「石鹼」だの、「凌駕する」だのという漢字をすらすらと書かける男をあなたは羨望しないだろうか。「憂鬱」なんてためらいなく書かれたら絶句ものである。
【ルール43】少々、お茶を嗜みます
男性といえば酒というのは遠い昔の話である。早い人は、酒もいいが、おいしいお茶のよさは酒に負けずとも劣らないことを知っている。
日本茶、紅茶、中国茶、それぞれの美点と文化があるが、酒と決定的に違うのはお茶はたてるもの、淹れるものであるということだ。
主人が淹れるお茶を感謝の気持ちでいただく。そこには和があり、対話が生まれる。ひとりいただくお茶もまたいい。そのときは自分と和し、自分と対話するわけだ。
酒の狂騒から茶の静へ、がモダン・ジェントルマンのベクトルかもしれない。
酒にはない、茶ならではの楽しみとは?
【ルール44】パーティと宴会の違いを知っている
簡単に言うと、宴会とは知ったどうしの飲み食いである、パーティは知らない人と知り合う場所である。
ところがぼくたちは後者の習慣が一切ない。学校、会社と、4月以外知らない人と知り合いになる必要がない環境で時を重ねていくからである。
パーティでの「壁の花」状態から脱するのに秘策はない。まず他人が話しかけたくなるような、清潔で上品な服装を整えること。そして1回のパーティで3人に声をかけるノルマを自分に課す。3打席でどれだけの打率を残せるか。
きれいごとと幸運だけで紳士になった男はいない
【ルール45】頭の中で交響楽を奏でている
音楽に貴賤なしとはいえ、クラシック音楽が「宮廷楽」と呼んでもいいぐらい王室との関係が深く、その出自もあって文化的ヒエラルキーの上階におわすのはご存じのとおりである。なかでも交響楽は管弦楽器のほぼすべてが出そろうクラシックの帝王である。曲から、演奏家から、指揮者から、どの角度から掘っても深い。いや、深すぎる。年間ベストパフォーマンス・リストの作成やオーケストラ・ドリームチームの編成など、紳士の知的スノビズムの極である。
【ルール46】そばに置きたいアートがある
歳をとるのはよいことだ。なぜなら小説、クラシック音楽、絵画や彫刻など、若い頃に歯がたたなかったその良さが、突如としてわかるようになるからである。鑑賞のレベルが飛躍的にあがるからである。
そうすると、たとえば絵画など、もう他所に見に行くだけでは満足できず、手元に置きたいという願望を持つようになる。兼好法師のごとく「あやしうほどものくるほしけれ」といった状態になる。
身体は常に壮健でいたい。しかしこういう美しい病でひとしれず精神を病むのはなかなかよい。
【ルール47】飄々と自転車で遊ぶ
オランダ王室のメンバーは大の自転車好きだと聞いたことがある。自慢の自転車専用レーンを王室の連中が走っていれば、国民も王室にぐっと親しみを感じるだろう。
そう、自転車は威張ってないのだ。
ショーファー無用。税金はゼロ、排出ガスもゼロ。若者も年寄りも、金持ちも貧乏人も等しくえっちらと漕がなければならない。この、なんともデモクラティックなところが現代紳士の価値観とピタリと合ってないか。
2台、3台を服装に合わせて乗り分けるのも楽しそうだ
【ルール48】実は楽器もけっこうやれる
作家/映画監督の伊丹十三は、男性必読の名著『女たちよ!』の後書きの中で、自分が求める配偶者の条件を23挙げている。その中に、「巧みに楽器を奏する(ただし、ハーモニカ、ウクレレ、マンドリンは除外す)」という一条がある。
楽器を自ら演奏することで音楽と、その生まれてきた文化に通暁してほしいという彼の知的願望からだろうか。あるいは、それによる社交的メリットも計算してか。
いや、待てよ。観察巧者伊丹のことだ、女も男も人間は楽器を奏でるとき最もセクシーな表情を垣間見せるということを気がついていたのか。だからだ!
【ルール49】ものにしたい車を諦めてはいない
東京ジェントルマンなんてふれこみはカッコイイけれど、脂の抜け切ったお行儀良夫クンでは決してない。人間なんて欲がなくなったらおしまいだ。世界の王族・貴族だってその実態はそれはもうエグイのなんの。
だから欲望に忠実であっていい。ジェームズ・ボンドのベントレーマークⅣがほしければ、探せばいい。しかし、自分のほしいものを手に入れるだけが目的なら、その人生は乾きすぎだ。何かの為になることをした、ひと肌脱いだ、そんな自分への報酬としてなら納得がいかないか。
人に説明しなくてもシビアに自己評価を下して生きていく。現代紳士道の要諦はそのあたりにありそうである。
東京をスマートに流すなら小さな高性能セダン!
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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- イラスト/緒方 環 撮影/熊澤 透(人物)、川田有二(人物)、篠原宏明(取材)、戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行(パイルドライバー/静物)、小林考至(静物) スタイリスト/櫻井賢之、大西陽一(RESPECT)、村上忠正、武内雅英(code)、石川英治(tablerockstudio)、齊藤知宏 ヘア&メーク/MASAYUKI(the VOICE)、YOBOON(coccina) モデル/Yaron、Trayko、Alban 文/林 信朗 構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)、鷲尾顕司、高橋 大(atelier vie)、菅原幸裕、堀 けいこ、櫻井 香、山下英介(本誌) 撮影協力/銀座もとじ、マルキシ