【ルール21】服よりブラシにお金をかけたっていい
服にブラシをかける。スチームアイロンでシワをとる。シャツにアイロンをあて、パンツにクリースを入れる。靴磨きもある。どれも手間がかかり、本音をいえば、だれかにかわってもらいたい作業である。しかしそのメンドクサイことを自分でやるから愛情がわく。
日頃のお手入れをすることで、モノが単なるモノではなく、自分の一部になっていくのがそのプロセスだから。そのために必要な手入れ道具なのだから上等なものを選んだってバチは当たらないのである。モノをリスペクトできないような男は、結局人間も大切にできない。一事が万事なのである。
【ルール22】求む、美意識のある部屋着
できることなら、パジャマの前にもうワンクッションおいてほしい。春夏なら夕食のテーブルにふさわしいコットンのニットウエアなどどうだろう。そして自室に入ったときはじめてパジャマを着、ドレッシングガウンをはおる。これも、贅沢ではあるが、毎晩フレッシュなパジャマというわけにはいかないだろうか。
夕食という家での生活の最も大切な時間のために毎晩ホワイトタイを着用する貴族も戦前の英国には多かった。いやむしろ屋敷内での生活のほうに彼らは力を入れていたのである。
【ルール23】着替えを苦とせず
ロバート・アルトマン監督の映画『ゴスフォード・パーク』は、貴族の生活の裏側を、使用人の日常を描くことで暴くという趣向が大変にオモシロイ作品だ。これを観るとわかるのだが、貴族の生活というのはまさに着替えの連続なのである。
朝起きたら朝食のために着替える。続いて散歩や狐狩りのために着替え、昼食用に着替える。夜は客を招いての晩餐会だから当然ホワイトタイだ。館には男子貴族のためにヴァレー(ヴァレー・パーキングのヴァレーはここからきている)がいて、その着替えを準備し、着付けを手伝う。女性にはメイドがつく。
アイビールックの元祖「VAN」の創業者石津謙介氏はTPO(タイム、プレイス、オケイジョン)という言葉を創作し、広めたが、まさに貴族の生活というのはTPOに応じた着替えに象徴される「礼儀合戦」なのである。
職住が離れていることが多い日本の男性にとって、一日何度もの着替えは実際上難しい。しかし、プレスの効いたフレッシュな服装こそが紳士を紳士たらしめるルールの最上位であることだけは覚えておいていただきたい。
【ルール24】一生着なくてもタキシードの準備あり
普遍的でありながらモダン。パーフェクトなタキシード
洋服の最もフォーマルなスタイルはホワイトタイ、燕尾服(テールコート)である。しかしこの最高礼のイブニングウエアは特殊で、現在は王室関係、外交関係の集まりで着用される以外にはあまり見かけない。代わってディナージャケット、米国流に言えばタキシードが主役になった。
ところがこのタキシード、日本では冷遇されっぱなしだ。おおざっぱに冠婚葬祭というが、一般人ならせいぜい結婚披露宴に着ていくぐらいしか機会がないから、人は次第に遠ざかり、あげくはダークスーツでお茶をにごすことになる。
しかしこれは現代日本が生んだ服装生活の悲劇である。なぜなら、タキシードぐらい男性が男性らしく、上品かつ「立派に」見える服はないからである。
そしてもうひとつ重大事がある。タキシードを着ないということは、イブニングドレスを着た女性をエスコートしない、できないということを意味するのである。
妻でも、恋人でも、母でも、娘でもいい。最愛の女性の晴れ姿にアテンドするという崇高な役目を担えない男がジェントルマンといえるのであろうか?
【ルール25】さりげなくエングレービング
下着からスーツ、靴やアクセサリーに至るまですべてカスタムメイドという英国人を取材したことがある。どの品にも、ミドルネームを含んだ3文字のイニシャルが縫い込まれていたり、刻印されていたりする。
どれも趣味は悪くないのだが、やはり何もかもとなると少し気恥ずかしさを覚える。
イニシャル付きでもかまわないが、アクセサリーなどはセットで使わない方が良いだろう。
カフリンクスならカフリンクスだけをさりげなく使うほうがスマートだ。それにしても向こうの人の3文字のイニシャルは、ぼくらの2文字よりバランスがよく、そこは羨ましいところだ。国によっても違うが、ミドルネームを持つ人は貴族の家系であることも多い。
彼らは奢侈を好まない。自分が愛着を持てるものを長く使うという習慣が根付いているからこそ、3文字のイニシャルが輝いて見えるのだ。
【ルール26】デニムとTシャツ、無理やり着なくとも
客観的に見て、Tシャツやジーンズはなかなかハードルの高いウエアである。どちらもカラダがものを言うからだ。
Tシャツは『波止場』のマーロン・ブランドのようなたくましい胸と肩が必要だ。
ジーンズにはデヴィッド・ベッカムのような長い脚と引き締まった尻が要る。どちらも日本人男性の体形に属さない特徴なのである。
鏡の前でよしこれならと納得できるか。または外野から拍手が聞こえるか。どちらでもないのなら、いっそ着ないほうがよろしい。
それを家庭用語では断捨離、ビジネス用語では選択と集中という。
【ルール27】和装の深みにハマるもよし
近年のNHK大河ドラマ『真田丸』を観て思ったことがある。日本の男はとにかく着物が似合うということである。
侍、農家、商人、僧籍者などなど、それは衣装部が力を入れていいものを着せているのだろうが、日本人の黒い髪の毛、肌色、体格になじみがよく、色、形とも「映える」のだ。この和装の文化をあっさり捨て去っていいものであろうか。まさか、それはない。
幸いこの国には四季折々の行事がある。受け継がれてきた伝統行事を着物で楽しむという趣向も、継承の精神を尊ぶジェントルマンらしいではないか。
【ルール28】機械類に目がないもので
スマホのカメラはどんどん性能がよくなっている。日常のメモや記録、スナップ写真には今や欠かせない機能だ。しかし、趣味としての写真となると、やはり専業メーカーののデジタル一眼レフやコンパクトの敵ではない。
決定的なのはフィルムカメラのフィルム、絵画におけるキャンバスに当たる撮像素子のサイズで、そこが、F1車と軽自動車ぐらいの差があるのである。
撮影者の腕とヴィジョンがそこまでのレベルでないのなら、それもF1車と同じく宝のナントカではあるが……。まあ、他人様にお見せしないのなら不問としようか。
【ルール29】伝えゆくアクセサリー
指輪などたかが装飾品のひとつ、などと思ってはならない。古代ローマ帝国は言わずもがな、数多の先史文明の装飾品としても世界から出土する。このように、いくつもの起源を持つ指輪は、文明世界において、常に特別の意味を持っていた。そのイメージをファンタジーの世界で描き切ったのがトールキンだったとも言える。
そんな特別な装飾品を現代の紳士が身に着けるなら、世代も時代も超えて意味を持ち続ける名品を手にしたい。時々の流行に左右されるファッションアイテムとは違う価値が、そこにあるからだ。
ピンク、イエロー、ホワイト。3色の18Kゴールドリングが絡み合うカルティエの傑作、トリニティ ドゥ カルティエは、紳士が身につけるべきアクセサリーに必要な美と哲学を兼ね備える、まさしく次世代へとつなぐ逸品だ。ジャン・コクトーが愛用したことでも有名である。
【ルール30】帽子。かぶるとき、脱ぐとき
帽子の一大ブームである。けっこうなことである。このかぶりもののおかげで、ジェントルマンはますます小僧にはまねできない大人の礼儀を実践できるからである。
ある時期から、この習慣は消え失せたかに見えたのだが、現在の日本では、おしゃれに積極的な男性たちを中心に帽子が好んでかぶられている。かつてのマストアイテムが復活しているるのは歓迎すべきことだ。だが、帽子のマナーも共に復活しなかったように見えるのが、悔やまれる。
基本のかまえを申せば、帽子は屋外用のものである。屋内では脱ぐのである(が、女性には適用されない。ご存じ?)。だが、何を持って屋内と定義するか、これには若干の思慮がいる。
少なくとも、飲食店やバーで着帽のまま飲食するのは明確なマナー違反だ。誰もが帽子をかぶっていた時代は、たいていの店に帽子掛けがあった。現在でも外套をかけるフックがふたつに枝分かれしていて、帽子掛けとして使われている店も存在する。
とはいえ、実際のところは、そういう店ばかりではないので、置き場所のない帽子が頭の上に乗り続けるのはわからないでもないのだが・・・、残念ながら、脱がずば似非ジェントルマン認定されてしまうのでご注意を。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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- イラスト/緒方 環 撮影/熊澤 透(人物)、川田有二(人物)、篠原宏明(取材)、戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行(パイルドライバー/静物)、小林考至(静物) スタイリスト/櫻井賢之、大西陽一(RESPECT)、村上忠正、武内雅英(code)、石川英治(tablerockstudio)、齊藤知宏 ヘア&メーク/MASAYUKI(the VOICE)、YOBOON(coccina) モデル/Yaron、Trayko、Alban 文/林 信朗 構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)、鷲尾顕司、高橋 大(atelier vie)、菅原幸裕、堀 けいこ、櫻井 香、山下英介(本誌) 撮影協力/銀座もとじ、マルキシ