【ルール31】カシミアを着て森に行かず。
ものには「ふさわしさ」というものがある。 風呂は裸で入るものだし、西洋料理はナイフとフォークで食べる。水着で風呂に入ってはいけないというのではない。箸でパスタを食べるのを禁ずという法はない。ただ少々「ふさわしくない」。
服についても同じことだ。カシミアは暖かく、肌触りは最高だが、弱い。そのニットを着て森に入ったらボロボロになってしまう。森に「ふさわしくない」のである。 先人たちが気づき、守ってきたそういう規範を愚直に実践してしまうところが紳士にはある
【ルール32】腕時計なんぞで目立ちません。
男にに許された数少ないアクセサリーである腕時計に力が入るのはわかる。だが腕時計だけが突出して目立つというのはどうなのだろう?
ビジネススーツに大げさなクロノグラフという組み合わせの人は少なくない。だが「どうよ、この時計、カッコいいでしょ?」という幼い声がそこから聞こえてくるのである。
なぜそこまでして自己主張しなければならないのか?
均整のとれた美しさに抗う必要は何?
アクティブな腕時計はアクティブな状況、服装のときに。東京ジェントルマンの辞書に「ケレン」というエントリーはない。
「子供っぽい人ね」と嗤われぬために必ず守りたい習慣。それは、時計で目立とうなどと、決して思わないことである。もののわかった淑女と紳士は、向き合った人の目を、時計に行かせるような装いは決してしない。アクセサリーは、それ自身が主役を食ってしまっては本末転倒。目立たせず、それでいていいものを身に着ける。これこそが、習慣にすべき、東京ジェントルマンの基本的な態度なのである。
■IWCアイ・ダブリュー・シー
『ポルトギーゼ・ミニッツ・リピーター』
【ルール33】正しく老けよ!
自然な加齢に無理やり抗するというのはギモンである。
わざわざ老けてみせることもないが、若づくりだけは断固拒否したい。つまり「現状維持」という方針でいいのではないか。そのためのジム通いや歯の手入れ、栄養補助、スキンケア、またマナーに属する体臭や口臭予防などは大賛成。
男性モデルを長い間見てきたからわかるが、それなりのメンテナンスさえ行えば、若いときとは違った雰囲気や味わいが出てくるのが男という生き物である。
メンズライフを豊かにするグルーミングツール
【ルール34】手入れされた髭を友とする
ぼくたち日本人の顔は、ひとことで評するとメリハリがない。のっぺりしてる。ところが明治の軍人、政治家の肖像写真を見ると髭がいいアクセントになって「男性性」が強く感じられる。戦国武将の髭面も実に猛々しいではないか。ひょっとしたらぼくらには髭が似合うDNAがあるのかもしれない。
戦後の企業社会は男の顔から髭を追放したが、そんな空気に同調せず、ぜひいろいろ試してほしい。間違いなく似合うから。そして見た目だけではなく、精神面でも髭は何か強いものを引き出してくれるような気がするのである。
【ルール35】気持ちよい握手をする男である
世界で最も普及している挨拶であるにもかかわらず、完璧な握手をできる日本人は多くない。そこにはひとつ誤解があるようだ。
握手を漢字の文字どおり受け取ると「手を握る」となる。
しかし、もとの言葉handshakeは「手を(握って)振る」である。この「振る」部分に「会いたかった」「会えてよかった」「これからもよろしく」というメッセージがこめられている。握手のときは、手を握り、しっかり振らなくてはいけないのである。
そしてもうひとつ。紹介されたら相手の名前をシツコイぐらい会話の端々で出すのが親密度を増す秘訣である。
【ルール36】おや? と思うほど香りに繊細
組織で動く日本の企業社会の特質を考えれば、「個人」そのものである香りへの抵抗感は、まあ、理解できなくもない。また、総体的な香り体験の乏しさも香水と距離を置く原因なのだろう。
しかし、香りが人に及ぼす影響を考えたら、人生をそれなしで終えていくのはあまりにもったいない。人が焼き鳥やケバブにつられ、海辺で開放され、自宅で寛げるのは、そこに本能に語りかけてくる香りがあるからだ。ワイン、葉巻、チーズ、ショコラのような嗜好品は香りへの造詣がなければ、その森の深部へは辿りつけない。そして男女の間でも香りが果たす役割は……申すまでもないだろう。
【ルール37】バーに顔を出す頃合
あちこちのグルメ雑誌やサイトでアペリティフとかアペリティーボという言葉が踊っている。
食前酒という意味の西洋語である。「アペする」なんていう言いまわしもある。まったく日本人の軽さには閉口だ。
しかし食前酒は、もっと楽しんでいい紳士の習慣であることには間違いはない。大方の人がカン違いしてるようだが、食事も酒も空きっ腹がうまいのだ。
それがわかっている連中は、食事の前に1、2杯やりにバーにいく。それから夕食にすれば夜は二度おいしいというものだ。
バーではさりげない洒脱なスタイルがいい
【ルール38】カトラリーは極上のものを
カトラリーは極上のものを。自宅でどういう食生活をしているか。実はそこがジェントルマンの勝負所だ。
朗らかに、しかし端然と美しく食事をする男の姿はその家の文化のデフォルトになり、家風となって次世代まで伝わっていく。それには安物の食器やカトラリーではダメだ。
最高級のシルバーウエアを使えば、言われなくても背筋は伸び、手の動きもスムースになってくる。いや、そうしようと自然に努力するだろう。そうやってつくり上げた美しい食べ方には、いざという食事のときに他を圧する威厳がある。そして、それはわかる人にはわかるのである。
生活を豊かにするジョージ ジェンセンのフォーク&ナイフ
【ルール39】食については徹底経験論者である
以前寿司屋で若い男性客ふたりが「江戸前」の寿司ネタについて論争をしていたが、聞かされる身にもなってほしい。なまさかな知識の開陳ぐらい寿司が不味くなるものはない。
ネットでどんな情報でも手に入る今の時代、このテの「ネット半可通」が増殖するのはしかたない。だが、積み重ねてきた経験的知見を前にすればそんな付け焼刃は地金が出てしまう。穴子なら穴子、小肌なら小肌、「1000カンは食べてきましたかね」という男のつぶやきならだれもが耳をそばだてる。
【ルール40】気持ちは言葉でも形でも伝えている
人間のコミュニケーションには表情や、声のトーン、ボディランゲージなどさまざまな要素が含まれる。しかし、残念ながら、以心伝心だけで渡れるほど世間は甘くない。気持ちは、はっきりと言葉にし「見える化」しなければ伝えたとはいえない。
しかも感謝や頼みごと、謝罪など一歩深く入った場面では言葉だけでは十全ではない。虚礼といわれようが、形式といわれようが、何か形がないと収まらないときている。
そのあたり、素早く、スマートに対応できるかどうか。人間学も紳士の必須科目である。
「自由学園 食事研究グループ」のクッキー詰め合わせ
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
- クレジット :
- イラスト/緒方 環 撮影/熊澤 透(人物)、川田有二(人物)、篠原宏明(取材)、戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行(パイルドライバー/静物)、小林考至(静物) スタイリスト/櫻井賢之、大西陽一(RESPECT)、村上忠正、武内雅英(code)、石川英治(tablerockstudio)、齊藤知宏 ヘア&メーク/MASAYUKI(the VOICE)、YOBOON(coccina) モデル/Yaron、Trayko、Alban 文/林 信朗 構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)、鷲尾顕司、高橋 大(atelier vie)、菅原幸裕、堀 けいこ、櫻井 香、山下英介(本誌) 撮影協力/銀座もとじ、マルキシ