SDGsの観点から選ぶ、歴代の名建築|地域の魅力を再発見したり、環境意識が変わったり…。アイディア溢れるアプローチの名作をご紹介

環境に優しいだけでなく、人々の意識や視点を変えるパワーがある。そんな、SDGsのマインドを感じる、日本が誇るべき新旧の名建築を、建築史家の倉方俊輔先生に教えていただきました。それぞれのストーリーと魅力を、年代順に追っていきます。

お話をうかがったのは、この方…

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倉方俊輔先生
建築史家、大阪市立大学教授
(くらかた・しゅんすけ)建築史の研究や執筆のほか、日本最大の建築公開イベント「イケフェス大阪」の実行委員を務めるなど、建築の魅力や価値を社会に発信する活動を展開。著書に『京都 近現代建築ものがたり』(平凡社新書)、『東京モダン建築さんぽ』(エクスナレッジ)など多数。日本建築学会賞(業績)、日本建築学会教育賞(教育貢献)受賞。

■1:1981年 沖縄県名護市|名護市庁舎

名護市庁舎
名護市庁舎 (C)名護市

沖縄で普及したコンクリートブロックをメイン使いし、新しい“沖縄らしさ”を創造

市のシンボルとして長く愛される市庁舎を目指し、設計案の公募が行われ、Team Zoo(象設計集団+アトリエ・モビル)が入選。戦後、駐留米軍がその技術を持ち込んだために沖縄で普及した、コンクリートブロックや、沖縄の集落などでよく見られた、庇を架けた半屋外空間「アサギテラス」を採用。また、天井下に海からの風を効率的に取り込む「風のミチ」をつくり、空調に頼らずとも快適に過ごせる建築物を完成させた。

「花ブロックとシーサー(老朽化のため現在は撤去)を初めて使った公共建築。新しい地域性を発見し、影響を与えたことなど、SDGsの観点からも重要な建築です」(倉方先生) 

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■2:1995年 福岡県福岡市|アクロス福岡

アクロス福岡
アクロス福岡(C)ACROS Fukuoka

訪れる人の心を癒やし、ヒートアイランドの緩和にも有効。樹木がのびのびと生い茂る、都会のビル

旧福岡県庁跡に建設された、地上14階、地下4階のランドマーク。階段状の斜面に緑が溢れる「ステップガーデン」の植物は、約25年で76種から200種類程に増加。より自然に近いかたちで生息している。また、日中は植物の蒸散により周辺空気の温度上昇を抑え、夜間は表面温度の低い植物が空気を冷やすため、ヒートアイランドの緩和に効果的との研究結果も。

「環境への負荷を低減するというだけではなく、都会の中に健やかな場を生み出した、大規模屋上緑化の成功例。ステップガーデンは上まで登ることもでき、新しい自然との付き合い方を提案してくれます」(倉方先生)

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■3:2004年 広島県広島市|広島市環境局中工場

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広島市環境局中工場

「隠す」のではなく「見せる」清掃工場。美術館のようなつくりで、人々の環境意識を変える

美しいガラス張りの空間で、騒音も悪臭も出さない焼却装置が稼働する様子を眺めることができる——まるで美術館のような清掃工場は「ニューヨーク近代美術館 新館」などを手掛けた、世界的な建築家・谷口吉生氏の設計。建物中央にある見学通路「エコリアム」を平和記念公園と海を結ぶ軸線上に配置するなど、広島の地に根付くかたちでつくられている。

「隠すのが当然だったゴミ処理を、モダンアートのような展示で各プロセスを可視化させ、ゴミ問題を“自分ごと”としてとらえさせる。建築の力で、人々の環境意識まで変えようと試みているところが意義深いのです」(倉方先生) 

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■4:2015年 大阪府吹田市|パナソニックスタジアム吹田

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パナソニックスタジアム吹田

「サッカー観戦を楽しむ」に特化。ローコストとサステナビリティを両立したコンパクトな競技場

建設費のすべてを寄付金で賄った、Jリーグ・ガンバ大阪悲願のホームスタジアム。「コンパクト化」をコンセプトとしており、建物全体を小さくするために観客席を積層して、ピッチまで最短7mという近距離に配置。劇場効果と臨場感を高めている。また、よけいなデザインや塗装を省いたり、外装にメンテナンスレスの材料を使うことで、建設や維持管理にかかるコストとエネルギーを削減。

「プリミティブで明快な造りだからこそ、フィールドと観客席が主役となって、その場にいる人がいきいきと見える。環境面でもコスト面でも持続可能なデザインであることを熟慮したスタジアム」(倉方先生)

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■5:2020年 青森県弘前市|弘前れんが倉庫美術館

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弘前れんが倉庫美術館 (C)小山田邦哉

約100年前に生まれた、れんが倉庫を再生。新たなアイディアを織り交ぜて「記憶の継承」を目指す

明治・大正期に建設され、シードルを生産していた吉野町煉瓦倉庫を建築家の田根剛氏が美術館に改修。「記憶の継承」をテーマに、コールタールの黒壁はあえて残し、漆喰の内壁は剥がして建設当時のれんがをむき出しに。一方で、耐震性に課題があったれんが壁は長さ9mの鋼棒を串差しにして強度を高め、老朽化していた屋根はシードルゴールド色のチタン板に。過去と対話しながら未来へつなげる「延築」を実践している。

「アートだけでなく、弘前や東北の歴史、文化に関する展示やライブラリーも併設。“地元の人の暮らしを大事にする”という姿勢で、何度も訪れたくなります」(倉方先生)

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EDIT&WRITING :
今村紗代子、池永裕子(Precious)