身長156cmのインテリアエディターDが、おすすめのアイテムを実際に体験しながらレポートする本連載。今回は、モダニズムの頃からの名作を多く抱え、現代も国内外の新進気鋭のデザイナーと協働し新作を発表し続けるフィンランドのブランド、アルテック(Artek)から「キキ ソファ」の魅力をさまざまな角度からご紹介します。

「広いスペースはないけれどソファを置きたい」「軽やかなデザインで、楽しいリビングをつくりたい」といった方におすすめしたい、シンプルでコンパクトなソファです。

コロナ禍でおうち時間を見直す方が増えた今、つくりたいインテリアの世界観も幅広くなってきました。そんななか、1960年にデザインされた「キキ ソファ」のほっそりとした黒塗装のスチール脚にマッシブなクッションの対比は、今また新鮮に映ります。

シンプルな構造がモダンアートのような「キキ」シリーズ

1960年にデザインされた「キキ」シリーズには、ソファ、ラウンジチェア、ベンチ、サイドテーブルのラインナップがあります。究極にシンプルで無駄がなく洗練されたデザインが特徴。「キキ ソファ」は、黒くてほっそりしたスチール脚にマッシブなクッションが配置され、張り地によって全く異なる印象の家具になります。その変幻自在な様子は“マネキン”のようだと例えられています。

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トーンを揃えたカラフルな張り地をまとった「キキ」シリーズが暮らしを彩ります。

インテリアに高感度の人が増えた今、木質家具にはない“軽やかさ”や“ポップ”な要素をもちつつロングセラーの安心感も兼ね備えており、しかも家具に詳しい人たちの間でも人気の高いデザイナー、イルマリ・タピオヴァーラが手がけたモジュラー家具シリーズが「キキ」なのです。

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アパレルアイテムのように張地を自由に遊んでもシックにまとまる安心感。

「余っていた在庫の救済」を背景に生まれた秀逸デザイン

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【ブランド】アルテック 【商品名】キキ ソファ 2シーター 【写真の仕様の価格】¥356,400 【サイズ】幅1160×奥行き750×高さ680 座面高390(mm) 【材質】本体:スチール粉体塗装(ブラック)、背・座:ポリウレタンフォーム、カバー張り・生地

初めて見たときには、その脚の細さに誰もが驚くと思われる「キキ」。その秘密は基本構造に使われているスチールの断面が楕円形をしていることにあります。誕生のきっかけは、楕円形のスチールチューブの製造業者が、工場に余っていた大量の在庫を利用できるプロダクトをデザインしてもらえないかと、タピオヴァーラにもちかけたことからだとか。

「限られた人のためではなく、すべての人に向けたデザインを生み出すこと」を生涯目標に掲げていた彼は、見事に楕円の形状を生かして「キキ」シリーズを生み出したのです。

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正面から見たときにほっそりした印象に見えるよう楕円を配置したデザイン。

コンパクトなサイズ感と快適な座り心地が魅力

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ポップな佇まいがリッラクスした雰囲気をつくリ出す「キキ」シリーズのリビングシーン。

2020年に、時代に合わせて座り心地と耐久性の双方でアップデートが行われた「キキ ソファ」。程よいサイズ感と見た目よりも柔らかな掛け心地が、肩肘張らないくつろぎを生み出します。

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程よい高さの背に腕をかければ背筋をストレッチできます。
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アームがなく、座面が平らなので横になって休憩することも可能。

写真の私のくつろぎ加減にも表れているように、自由な気持ちにさせてくれる親しみやすい雰囲気が「キキ」シリーズの最大の魅力です。

おしゃれで気さくでユーモアのあるクラスの人気者っていましたよね? 「キキ ソファ」から受けたイメージはまさにそれ。自分の家にそんな友人のような家具があったら素敵だと思いませんか?

大衆のための美しいデザインを数多く残したデザイナー、イルマリ・タピオヴァーラ

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フィンランド・ハーメンリンナ生まれのタピオヴァーラ。

フィンランドの首都・ヘルシンキの大学でアートと家具デザインを専攻し、卒業後はパリで建築の三大巨匠、ル・コルビュジエの事務所に勤務。1938年ヘルシンキの北にあるラハティの大手家具メーカーのアートディレクターに就任すると、“人々のよりよい暮らしのために”量産可能な家具の開発に注力するようになります。

1946年に妻・アンニッキとともに「ドムスアカデミカ」のプロジェクトを手掛け、成功に導いたことで一躍有名に。名作「ドムスチェア」は、今でもベストセラーの一つです。戦後の厳しい環境下で、民衆が本当に必要とするものづくりを実直に目指しました。その精神は、時代や地域の差異を超えて、今でも世界中の人々に愛され続ける家具を数多く残してくれました。

“アートとテクノロジー”を掛け合わせたフィンランドのブランド「アルテック」

アルテックは、アルヴァ・アアルト、アイノ・アアルト、マイレ・グリクセン、ニルス=グスタフ・ハールの4人の若者により「モダニズム文化を促進すること」を目的として1935年ヘルシンキにて設立されました。安全性と耐久性に優れ、実用性と機能性を兼ね備えた持続可能な美しいデザインを作り続けることを哲学としています。

フィンランドの巨匠たちの作品に加え、グローバルに活躍する建築家やデザイナーによる家具や照明器具、ホームアクセサリーを発表し続けている、北欧を代表する世界的モダンファニチャーブランドです。

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フィンランド発のグローバルブランド「アルテック」の家具を用いたインテリア例。

森林大国であるフィンランドの豊かな自然素材を調達し、自然の循環を妨げることのないサステイナブルな方法を用いながら創業以来85 年以上にわたり耐久性に優れた製品を作り続けているアルテック。アルヴァ・アアルトら創業者のモダニズムの哲学に基づき、手作業による一点物ではなく多くの人の手に渡る量産品として、工場で製造されているのが大きな特徴です。

そしてそれらは、機械による完全オートメーション化とは異なり、素材の選別から仕上げまで、熟練された職人のクラフトマンシップと合理的な機械化を組み合わせた製造工程により作られています。


今回は、コンパクトなルックスと卓越したデザイン性により人気が再燃している、アルテックの「キキ ソファ」をご紹介しました。

フィンランドの家具というと白樺を用いた美しいデザインを想像してしまいますが、それとは異なる「キキ」シリーズは地元産業を支えることが開発のきっかけだったというのがアルテックらしいですよね。小さくても大らかなくつろぎをくれる「キキ ソファ」の魅力をぜひ試してみてください。

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM