身長156cmのインテリアエディターDが、おすすめのアイテムを実際に体験しながらレポートする本連載。ミッドセンチュリーの名作を多く抱え、新しい働き方に対しても先駆的な提案をし続けるアメリカのブランド、ハーマンミラーから「ネルソンプラットフォームベンチ」をご紹介します。

「来客をリビングまで通したくはないけれど、玄関先でも失礼のないようにおもてなししたい」「出がけの準備に安定した椅子が欲しい」…コロナ禍とともに住まいの機能が変わりつつある今、仕事場と暮らす場所の在り方や場所、人との距離の取り方を見直す方も多く、重くて縛られるようなものを所有したくない方も増えてきました。

本記事では、そういった世情を背景に顕在化したニーズに応えるような、ハーマンミラーの名作「ネルソンプラットフォームベンチ」をピックアップ。軽やかで丈夫で美しい、どこにでも置けてマルチユースに使える魅力をさまざまな角度からご紹介します。

来客を「長居させずに追い返すため」に開発したはずのベンチ

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【ブランド】ハーマンミラー 【商品名】ネルソンプラットフォームベンチ 【写真の仕様の価格】¥229,000 【サイズ】幅1220×奥行き470×高さ356(mm) 【材質】ベース:スチール・クローム仕上げ 座板:メープル

「ネルソンプラットフォームベンチ」は、1946年にハーマンミラーのコレクションに加わった最初のジョージ・ネルソンの作品です。

もともとは『Fortune』誌の記者だったジョージ・ネルソンのオフィスにあったもので、来客を応接間に通すことなく短時間で用事を済ませて帰ってもらうために設置されていました。しかしながら、ネルソンの意図とはうらはらにそのベンチは居心地がよく、結局は来客が長い時間をそこで過ごしてしまったという逸話が残っています。

シンプルだけど美しい、細部に宿るデザイン性の高さ

「長居させないために細い棒に座らせた」というネルソンの発想は、図らずも美しい表情と軽やかさをベンチに授けることに(笑)。硬質でキラキラした木肌の表情が美しいメープルを用いたことで品よく仕上がっています。

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空気と光が通るよう間隔をあけた材が落とす美しい影。
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側面の木組の表情も美しいデザイン。

黒塗装の木脚仕様もあるのですが、こちらのスチール脚はよりエレガント。玄関によく使われる大理石の床にも合います。

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裏にはシリアル番号とハーマンミラーのマークが。

室内に現代の“縁側”をつくるという新提案

コロナ禍は確かに私達の生活を変えましたが、潜在的にあった「玄関先でちょっと立ち話」くらいがちょうどいい、そんな人間づきあいを復活させるいい機会として有効活用できるかもしれません。

昔の日本家屋には玄関とは別に、庭に面した半屋外の「縁側」という社交場がありました。お茶を飲みながら情報交換をしたりお裾分けをもらったり、普段の生活のスペースまで侵入することなく、緩やかに社会とつながる“窓”のような役割をしていたのです。

コロナ禍によるステイホームやリモートワークで、普段顔を合わせることのなかった近所の方と挨拶程度は交わすようになった方も多いのではないでしょうか? いざという時に頼れるのは「遠くの親戚ではなく、近くの他人」という諺があるように、人との緩やかなつながりは心と体の健康に少なからず結びついているもの。

玄関ホールや廊下にベンチを置くことで、リビングに通さずとも気軽に話ができるのはもちろん、ご自身のお出かけの際にも靴の着脱やコートを置いたりマルチユースに使えます。 

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左/お茶のトレイを置けば自然に距離を取ることも可能。右/外出時の準備はもちろん、帰宅時にサッと洋服にブラシをかけることや花粉やホコリを落とすことができて便利です。

また、わざわざミーティングテーブルにつくまででもない打ち合わせに利用するなど、「縁側」的な曖昧なスペースをオフィスの一角につくるアイテムとしてもおすすめです。

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本を置くことで座る距離も確保できるベンチ。

時代が変化するタイミングで一石を投じたジョージ・ネルソン

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著名な教師、ライター、そしてデザイナーだったジョージ・ネルソン。

「ネルソンプラットフォームベンチ」が開発された1940年代の戦後のアメリカは、多くの復員兵が家庭を持ち郊外に移り住みました。一生涯生まれた家に住み続けるスタイルが崩れ、流動的な暮らしに対応する家具が必要になったのです。

それまでの家具は重くてヨーロッパの影響を受けた装飾的な要素が多いものでしたから、ネルソンが1944年に発案した自由に組み合わせられるモジュール式システム収納のアイデアは、伝統的なライフスタイルに対して彼が最初に放った一撃となりました。

「ネルソンプラットフォームベンチ」は、今でいう“システム収納”の「ベーシックキャビネットシリーズ」の台として、またはベンチとしてもローテーブルとしても活躍するマルチユースなアイテムとして開発されたもの。一時期廃盤となっていましたが1994年から販売が再開されています。 

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「ベーシックキャビネットシリーズ」発売当時の広告ビジュアル。
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アイテムを自由に組み合わせて欲しい機能をつくることが可能。

以上、ハーマンミラーの名作「ネルソンプラットフォームベンチ」についてご紹介しました。

家具で暮らしの変化をつくれることや、その際にミッドセンチュリーの名作を選ぶということは時代を超えて共通するものがあって、なんだかワクワクしますよね! シンプルなベンチだからこそ、将来的に色々な展開ができる。そのスタート地点に立ってみませんか?

※掲載した商品の価格は税込です。

※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM