こういう映画をチャーミングというのだナ。
スコットランド好き、ウイスキー好きともに肩の力を抜いて映画館の席にうずくまり、見終わった後も機嫌よくその食事や飲みにいける。久しくこんな「人肌」の燗酒のようないい感じで心が温まる映画にはおめにかからなかったなあ。
『ウイスキーと2人の花嫁』(以下『花嫁』)は、モノ不足は深刻が深刻だった第二次大戦中の英国スコットランドの小島が舞台だ。何かで読んだが、あの贅沢者のチャーチル首相ですら国民に慮って控えめな食生活を送っていたほど、配給で得られる食品や生活物資は乏しいものだった(それでも同時期の日本の配給物資に比べればずっとマシだが)。その余波はスコッチウイスキーの産地、スコットランドにも及んでしまう。信じがたいことだが、スコットランドでスコッチが飲めないという事態になった。
これはぼくのまったくの勉強不足だが、当時のスコットランドの人々は、おおげさでもなんでもなく、ウイスキーなしでは生きていけないらしいのだ。ウイスキーのことを彼らはオー・ド・ヴィー、すなわち「命の水」と呼ぶが(スコットランドはその昔フランスの影響下にあったからね)、映画の冒頭で、小島のパブの主人が「この町にウイスキーは一本も残っておりません」と宣言すると、町の男たちはほんとうに心臓が止まってしまったような顔をして「じゃあ紅茶を飲めっていうのかよ!」と嘆くのである。
そこに輪をかけるのが主人公の郵便局長の娘ふたりの結婚話。なんとウイスキーがなければ、結婚式があげられない!というオソロシイ話になる。さあ、どうするか──というのお話です。
ぼくなどどうしても彼らの服装にも目がいってしまうが、これがねえ、ちょうど同年代の英仏海峡を臨むイングランドの町ヘイスティングズが舞台になる『刑事フォイル』とも大違い。『フォイル』は田舎とはいえ、町だからね、みなそれなりに端正に身を整えている。ところがこちら『花嫁』に出てくる男たちは、町びとではなく村びとですね。同じツイードでもそこらにあるものをテキトーに組み合わせ、毎日同じという、実にゆるいコーディネイト感覚なんですな。日曜に教会にでかけるときに着る、いわゆる「サンデースーツ」ですな、それ以外タブーというのもない気がする。おしゃれなんてなんぼのもんじゃい、冠婚葬祭のときだけでええんちゃう、というゆるさ。ぼくらが知っている都会の男のツイードコーディネイトのルールなんてここでは完全に破綻しております。だが、それだからこそ、ひとりひとりのキャラが立つわけですよ(映画だからそうでなくては困るが)。
そう、そうなんです。人肌の燗酒と冒頭に申しましたが、この感覚は服装だけではなく、この映画に登場するすべての村びとに通じる心のたおやかさのようなものと関係があるのではないか。
酒の飲み方は、これは、きてますよ。ストレートでグビグビ。あれ、アルコール度数はどうなんでしょうね(笑)。シングルモルトをありがたがって飲んでる日本のモルトおたくたちにみせてやりたいね。
ひとりで観ても、女性連れ、男性どうしでも、使いたくない女性ご用達用語ですが「ほっこり」すること、ぼくが保証します。ちなみに知ってる俳優、スタッフ、ゼロ(笑)。
- TEXT :
- 林 信朗 服飾評論家