「フェンディ」の創業者の孫として生を受けたイラリア・ヴェントゥリーニ・フェンディ。家業から独立し、2006年に自身で始めたバッグブランド「Carmina Campus(カルミナ・カンプス)」は、地球環境や社会支援に配慮を示す「エシカルなブランド」として、各国のファーストレディーたちからも支持されています。
Precious.jpでは、プライベートでは2児の母でもある彼女に、ライフワークバランスや「エシカル」へのこだわり、女性の自立支援を積極的に行う理由など、働く女性ならではの視点からお聞きしました。
リアルキャリアに聞く10の質問
Q . 「フェンディ」というビッグネームへのプレッシャーを感じることはありませんでしたか?
私にとって「フェンディ」という名字は、呼ばれるたびに背筋が伸びる、襟を正されるような存在です。一方で、家業に歴史があったことで、自然とファッション業界に進んだのも事実ですので、プレッシャーを感じるというよりは、もともとあった環境のなかで「自分がどう進んでいくか」、ということの方に興味をもつようになりました。
Q . ファッション業界から離れた時期があったとのことですが、そのときの心境を教えてください。
日々加速する時間の過ぎ方に疑問を抱くようになったことが、ファッション業界を離れた要因のひとつにありました。自分がコレクションで発表したクリエイティビティーが、その瞬間から古いものになっていく。その現実を目の当たりにしたときに、なんとも言い難い、腑に落ちない感情が湧き上がってきました。2004年にフェンディがLVMHグループに買収されたタイミングであったことと、理想的な「農園」に運命的に出合ったことが時期的にも重なり、ファッション業界から離れて農業の道を歩むことになりました。
Q . 農業の経験を経て、バッグブランド「カルミナ・カンプス」を始めたきっかけを教えてください。
自分が信念としてもっているサスティナビリティーの活動を通じて、「何か人に役立つことをできないだろうか?」と考えたときに思い浮かんだのが、自分のもつDNA、クリエイティビティーの部分で何か新しいことを表現するということでした。そのときすでに、「ものづくりの過程」という観点から、農業とファッションの共通点を見出していたので、両方の経験を生かして「新しい付加価値を生み出したい」と思うようになりました。そこで入り口となったのが、このバッグブランド「カルミナ・カンプス」を始めることでした。
Q . ファッションと農業では、業界的にもかけ離れているように感じますが、どのようなところに「共通点」を見出されたのでしょうか?
ファッションにもフードにも「トレンドがある」ということと、「消費者が原材料を気にする時代になってきた」という点に、共通点を感じました。そこで、フードと同じように、バッグの原材料をすべてラベルに印し、安心して使ってもらえるようなブランドをつくることを目指しました。「自分の半径ゼロキロメートル(目の届く範囲)」で行うことをコンゼプトに、材料のセレクションにもこだわりながらブランドを育てています。
Q . どういうところに付加価値をつけていますか?
ひとつひとつ手作業で仕上げているので、それぞれのバッグの表情が違う、という点。それに加えて、刑務所に入っている女性受刑者に無償でバッグづくりのhow toを教える、ということを、「カルミナ・カンプス」のプロジェクトの一環として行なっています。
Q . このプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。
実は、この「刑務所ライン」を始める前に、「アフリカライン」という名前で同様のプロジェクトを行なっていました。こちらは、国連と協業して、アフリカの女性の自立を支援する活動として発足したものでしたが、次第に、母国であるイタリア国内でも同様の活動を行いたい、と考えるようになりました。そんなときにイタリア政府に承認されている「ソーシャリーメイドインイタリー」という団体に出合うことができ、このプロジェクトを始めることが決まりました。実は、イタリアは出所者の再犯率が約80%とヨーロッパ内でも群を抜いて高いことが、(刑務所は税金で運営しているので)イタリア人の生活を圧迫している社会的な問題としても大きく取り上げられていました。なので、母国を支援する活動をしたいという思いも助け、積極的に進めました。
Q . なぜ「女性」に対する支援を積極的に行っているのでしょうか?
まず、女性は子供を産み育てることができる、という点。次世代を担う子供たちを育てる女性たちに、手に職をつけさせお金を稼がせることで、社会的な立場だけでなく、家族のなかでのステータスを上げるということはとても重要なことです。出所してから社会的にもメリットがあるように、という視点からも、女性支援のサポートを行っています。
Q . プライベートでは、2児の母でもあるイラリアさん。ライフワークバランスの取り方を教えてください。
私には21歳の息子と19歳の娘がいます。子供たちと過ごす時間に関していえば、一緒に過ごす時間の長さよりも「質」が大切だと思っています。自分としても、仕事から帰宅して家に子供たちがいることはうれしいことですし、そこで何を話すか、が重要だと思っています。自分が話すのではなく、私の生活を身近で見ている子供たちが、今何を思っているかを聞くのが大切です。たとえば、息子は自分の将来を決める時期に来ているのですが、そのことに対して回数を重ねて話すことができなかったとしても、1回のなかでどれだけ奥深く話せるか、の方が大切だと感じています。
Q . 将来に対して悩んでいる子供たちに対して、どのようなアドバイスをしていますか?
私が子供たちに常々言い聞かせていることは、まず「何をしたいかを自分で考えなさい」ということ。それから「自分が情熱を傾けられるものを見つけなさい」ということ。そして、私はそれに対して、「全力でサポートする」と伝えています。実際に今、妹の方は女優になりたいという夢を見つけて、劇場で勉強をしながら小さな活動を始めましたし、兄の方は、スポーツジャーナリストに興味を持ち始めたので、研修をしながら実務を積み始めました。
Q . 働きながら子育てをする上で、悩んだことや大変だったことはありますか?
大変でないことなんて、ありませんでした。ただ、自分にとって「家族」とは、仕事とは比べる対象にならないほど「美しい存在」ですので、まったく別物として捉えて対処するよう心がけていました。
Q . 今後の目標を教えてください。
まだ名前は出せないのですが、現在もさまざまな企業からコラボレーションのオファーをいただいており、次回作もかなり面白い新素材とコラボレーションすることが決まっています。素材へのこだわりは、ブランドコンセプトの根底にあるものですし、今後も失いたくないもの。仕事をしていく上で「続けることが意味をなすこと」だと自分の中で据えているので、今後も同じスタンスで続けていきたいなと思っています。
女性たちが手に職をつけて自立できるよう、技術を学ばせる活動など、イラリア氏が重きを置いているサスティナブルな社会へと導く活動は、各国のファーストレディーたちからも共感を得ています。元大統領夫人であるミッシェル・オバマ氏がかつてG7各国夫人へ「カルミナ・カンプス」のバッグをプレゼントした話は今や伝説。ファッションを切り口に社会的支援を行うイラリア氏の活動は、世界中から注目が集まっています。
北欧にインスパイアされた新作コレクション
世界に先駆けて持続可能な社会を目指し活動する「北欧」からインスパイアされテイルカルミナ・カンプスの2017年AWコレクション。世界中で髙島屋のみで販売している子供用のニット手袋やマフラー、ベッドカバーキルティング、スキージャケットなどをリユースして作られたバッグは、日本橋髙島屋・横浜髙島屋・大阪髙島屋のハンドバッグ売り場<カルミナ・カンプス>コーナーにて展開中です。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 石原あや乃