敬語を使って会話するシーンでは、度々「おっしゃる」という動詞が使われます。意味は分かって使っているつもりだけれど、これって敬語? 丁寧語? ビジネスシーンでもよく耳にするからこそ正しく使いたい「おっしゃる」を学びます。

【目次】

仰る
「おっしゃる」を漢字で書けますか?

「おっしゃる」の「意味」と「漢字」

まずは「おっしゃる」という単語の基礎知識から見ていきましょう。

■ふたつの「意味」

『デジタル大辞泉』によると、【「言う」の尊敬語。言葉を口にお出しになる。言われる。おおせられる。】とあります。自分ではない他者(上位の人)を高めた「言う」の尊敬語、ということですね。

そしてもうひとつ、【(人名などを受けて)そういう名前でいらっしゃる。】という意味が。「○○さんとおっしゃる方からお電話です」や、「お名前はなんとおっしゃいますか?」のように使います。この場合は直接「言う」(受け手は「聞く」)という意味よりも、名前そのものを示します。

■ビジネスシーンでは誰に使える?

「おっしゃる」は尊敬語ですから、基本的には目上の人の「言う」という行動に使います。ビジネスシーンであれば、取引先や上司との会話で。あるいは、初対面の方との会話で使うのも好印象です。

気をつけたいのは、取引先との会話の中で「弊社の○○部長がおっしゃるには」といったケース。「おっしゃる」は自分や身内のことには使えないので、この場合は「弊社の○○部長が申すには」が正解です。

■「漢字」でどう書く?

会話ではよく耳にする「おっしゃる」ですが、漢字で書くと正しくは「仰る」ですが、「敬う(うやまう)」や「崇める(あがめる)」という意味をもつ「仰」があてられるため、少々堅苦しく感じられますメールや手紙などでは平仮名で「おっしゃる」としたほうが、響きが美しいこの言葉の雰囲気も伝わるでしょう。

ビジネスシーンでそのまま使える例文7選

■1:「部長が昨日おっしゃっていた○○の件ですが、来週中に企画書にまとめます」

■2:「先方がおっしゃっていたのは、この商品のことのようです」

■3:「先方はこの方向で問題ないとおっしゃっていました」

■4:「ご不明な点がありましたらおっしゃってください」

■5:「○○様のおっしゃるとおりでございます。説明不足で申し訳ございません」

■6:「恐れ入りますが、もう一度おっしゃっていただけますでしょうか?」

■7:「申し訳ございませんが、おっしゃる意味がわかりかねますので、もう一度ご説明いただけますか?

■5から■7のように、こちらに非がある場合や、角を立てたくない場合は、名前や社名で呼びかけたり、「恐れ入りますが」や「恐縮ですが」「申し訳ございませんが」などのクッション言葉をプラスして用るといいでしょう。

■「おっしゃられる」はより丁寧? 陥りやすい誤用に注意!

「○○様がおっしゃられるには…」のように、「おっしゃられる」という言い方も使われることがありますが、これは明らかな間違い

「おっしゃる」自体が尊敬語なので、尊敬表現である助動詞「~られる」をつけると二重敬語となってNGなのです。「部長がお戻りになられました」や「先方がお越しになられました」など、この「~られる」の誤用表現はよく目にします。「おっしゃられる」同様、「お戻り」や「お越し」が尊敬表現であるため二重敬語になってしまうので、使わないようご注意を。正しくは「部長がお戻りになりました」や「部長が戻られました」、「先方がお越しになりました」となります。

メールで使う際の注意点

場の雰囲気でOKになる会話での表現も、あとに残るメールではそうはいきません。

例えば「おっしゃるとおり」というフレーズをメールで使う場合は、「おっしゃるとおりです」「おっしゃるとおりでございます」と、語尾をつけるのをお忘れなく。「おっしゃるとおり!」などとした場合はせっかくの尊敬語も台無し。こちらが上から目線で接しているようなニュアンスとなってしまいます。

同じ意味をもつ「類語」と「言い換え表現」

尊敬語としての「おっしゃる」の類語には、「言われる」「話される」などがあります。

「言われる」は「おっしゃる」同様、「言う」の尊敬語。「話す」の尊敬語である「話される」も、「おっしゃる」に置き換えて使うことができます。

上記の直接的な類語以外にも言い換えは可能。最後に「おっしゃる」をどんなふうに言い換えることができるのか、ひとつの例文で見てみましょう。

<例文:部長が昨日おっしゃった○○の件ですが>

■言い換え1:「部長が昨日お話しされた○○の件ですが」

■言い換え2:「部長が昨日話されていた○○の件ですが」

■言い換え3:「部長から昨日うかがった○○の件ですが」

■言い換え4:「部長が昨日ご説明された○○の件ですが」

■言い換え5:「部長が昨日お聞かせくださった○○の件ですが」

相手との関係や状況などによって、適した表現を使いたいビジネス敬語。丁寧すぎたりへりくだりすぎた表現は伝わりにくく、また慇懃無礼に受け取られてしまうことも。二重敬語に注意しながら、“いちフレーズいち敬語”くらいの気持ちで、スマートなビジネス敬語を身に付けましょう。

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今日は、会話で使うととても柔らかく聞こえ、ビジネスシーンでも活躍する「おっしゃる」についてレッスンしました。毎日ひとつづつ、“正しく感じのいい敬語”を使うコツをお届けします。

この記事の執筆者
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『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂)/『とっさに使える 敬語手帖』(新星出版社)/『すぐに使えて、きちんと伝わる 敬語サクッとノート』(永岡書店) :