「恐れ入りますが」は、目上の方に対し、「実はお願いがあるのですが……」というニュアンスを含んだクッション言葉として、頻繁に使われます。「さしつかえなければ」「お手数ですが」同様、上手に活用すれば、依頼事や言い出しにくいことを切り出しやすくなります。正しい意味や使い方を把握して、使いこなしましょう。

【目次】

使いこなせると実は便利な「恐れ入りますが」。
使いこなせると実は便利な「恐れ入りますが」。

「恐れ入りますが」の「意味」は?「恐縮ですが」との「違い」

「恐れ入りますが」は、目上の人や敬意を表したい人に対して使う正しい敬語表現です。まずはその意味を正しく理解しましょう。

■「恐れ入りますが」の「意味」

「恐れ入りますが」の「恐れ入る」という言葉は、【深く、あやまちをさとってわびる。心から申しわけなく思う】という意味ですが、「恐れ入りますが」のかたちで使われるときには、【ものを頼んだり尋ねたりするときなどのあいさつの言葉としても用いる。恐縮する】といった意味合いが濃くなります。

『敬語マニュアル』では、この言葉を【依頼・要求の文の前に置いて用い、「実は(折り入って)お願いがあるのですが」のように、直接依頼文であることを示す場合も多い】と説明しています。また、【依頼・要求をするだけでなく、相手の許可を求める挨拶としても】使われます。

ビジネスでは、【相手の許可を求める挨拶】、つまりクッション言葉として「恐れ入りますが」を使い、頼み事や依頼を切り出すことが多いようです。

■「恐縮ですが」との「違い」

「恐縮ですが」は、「恐れ入りますが」と同じく、敬意を表すべき相手に対して何か依頼をするとき、「申し訳ありませんが……」というニュアンスを込めて使われる言葉です。

どちらも似た意味ですが「恐縮」には、【おそれて身がすくむこと】という意味があります。申し訳ないと思う気持ちの度合いが、「恐れ入る」よりも強い言葉と言えるかもしれません。やや改まった表現ですから、メール等、文書で使う機会が多い言葉です。

ビジネスシーンでそのまま使える「例文」5選

「恐れ入りますが」は、敬意を払うべき相手に対し、何かお願い事や依頼をする際のクッション言葉として使われることが多い言葉です。「申し訳ありませんが……」というニュアンスは含んでいますが、明快な謝罪のシーンでは使われません。

また、相手の名前を伺うなど、ものを尋ねる場面にも使われます。

相手に感謝を伝える際にも、「ありがとうございます」の意味で使われますが、曖昧な表現なので、「嬉しくないのかな?」といった誤解を生まないためにも、ストレートに「ありがとうございます」と言うほうが、相手には確実に気持ちが伝わるかもしれませんね。

■1:「恐れ入りますがプレゼンテーション中の通話はご遠慮ください」

■2:「恐れ入りますが、今一度ご教示いただけますようお願いいたします」

■3:「恐れ入りますが、こちらで靴を脱いでお入りください」

■4:「恐れ入りますが、ご担当者様のお名前をお教えいただけますでしょうか」

■5:「ご協力くださり、恐れ入ります」

「恐れ入りますが」と同じ意味で使える「類語」「言い換え表現」5選

「恐れ入りますが」の類義語には、「お手数をおかけいたしますが」「あいにくですが」「失礼を承知で申し上げますが」などがあります。

■1:「お手数をおかけいたしますが、もう少し詳しい資料を頂戴できますか」

「手数」には、「他人のためにことさらにかける手間」という意味があります。相手が自分のために時間や労力を費やしてくれることに対し、感謝の気持ちを込めるのにふさわしい言葉です。

■2:「あいにくですが、この商品はすでに廃盤となっております」

「あいにくですが」は、相手の期待や目的に応じられないときに使用します。「残念ながら」も似たような場面で使える言葉です。

■3:「失礼を承知で申し上げますが、その企画は現状にはそぐわないと思います」

「失礼を承知で申し上げますが」は、「無礼であるとはわかったうえで、あえて……」というニュアンスを込めて使う謙譲表現です。「僭越ながら」同様、相手とは違う見解を言わざるを得ない時や、自分の意見を述べる際に、謙虚な気持ちを込めて使います。

■4:「ご面倒をおかけしますが、アンケートへのご協力をお願いいたします」

「面倒」とは、手間がかかって煩わしいこと。相手が費やす労力に対して詫びる言葉です。「お手数をおかけいたしますが」と同じような意味合いで使われますが、ややストレートな印象となります。

■5:「誠に勝手ながら、本日の業務は終了させていただきます」

「ながら」は、「本来は〜にはならないはずなのに」という意味の表現です。ですから例文は「通常であれば、今日の業務は終了にはならないはずなのに、こちらの勝手な都合で申し訳ございません」という意味合いになります。

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「恐れ入りますが」は、要件を話しはじめる前に述べる、クッション言葉のひとつです。敬意を表すべき方に、何らかのお願い事や依頼がある際に使います。大切なのは、願い事や要望を伝えたいのは、あくまで自分の一方的な都合であると自覚すること。これを踏まえれば、相手に押しつけるような言い方は絶対に避けたいところです。自分の都合を的確に伝えつつ、相手への配慮をにじませる丁寧な言い方を心掛けましょう。正しい敬語を身につけて、あなたもマナー美人に!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂)/『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社)/『印象が飛躍的にアップする大人の「言い方」練習帳』(総合法令出版)/『くらべてわかる日本語表現文型事典』(Jリサーチ出版) :