【目次】

【「お疲れ様です」は目上の人には使えない? なぜ?】

■目上の人にはNG? なぜ?

結論から言えば、「お疲れ様です」という表現は、本来、相手の立場にかかわらず、当然、目上の方に対しても使える言葉です。

ただし、現代のビジネスシーンにおいての「お疲れ様です」は、「こんにちは」や「おはようございます」と同じように、日常の挨拶表現として使われることが多いフレーズですね。これらの表現は慣例的に、社内で、いわば身内同士で使われる言葉とされています。社外の人であっても、親しい人や関係が深い人に対しては使うこともありますが、「ねぎらい」の意味が含まれるため、社外の人に対しては「お疲れ様です」を使うのは失礼にあたると判断する人もいるようです。

■結局、どう扱えばいいの?

国語辞典編纂者の飯間浩明さんの著書『日本語はこわくない』によれば、言葉に対する基本的な心構えはふたつあります。
・自分が使う場合は、自分が属する集団の習慣に従いましょう
・他人の使い方が自分と違う場合、その人の習慣を広い言葉で受け止めましょう。

この基準は曖昧なようにも感じられますが、実は「お疲れ様」と「ご苦労様」程、誤解の多い挨拶言葉はないのだそうです。言葉は時代と共に変化しています。たとえば、現代のマナーでは、「『お疲れ様』は目上に」「『ご苦労様』は目下へ」かける言葉として定着しつつあります。しかし、もともと「ご苦労様」は目下の者から目上の者へかける言葉として使われており、江戸時代にはむしろ目下よりも目上に対して使うほうが多かったそうです。1990年代後半になって「『ご苦労様』は目上に失礼」という風評が広まった結果、代わりに「お疲れ様」がよく使われるようになりました。それまで「お疲れ様」は、主に芸能関係で、上下の隔てなく使われていた言葉でした。

要するに、このふたつの挨拶は、時代によって、また人によっても使い方が違い、どれが正しいとも断言できないのです。そのため、人それぞれの習慣を尊重することが、とても大切になるのですね。言葉は生き物ですから、正解をひとつに決めるのではなく、相手を思いやって、柔軟に使っていきたいですね!


【失礼に感じさせない「言い換え」方法】

■上司や先輩、「目上の方」への言い換え

「お疲れ様です」を目上の方に使うのは抵抗がある…そんなときは「お疲れ様でございます」「お疲れ様でございました」などと、語尾を丁寧にするのがいいでしょう。このような表現は二重敬語ではなく日本語として正しいフレーズです。相手に礼儀正しい印象を与えつつ、ねぎらいの気持ちを表現することができます。

実際には「お疲れ様です」をそのまま使っても失礼にはあたりませんが、より丁寧に響かせたい場合にこうした言い換えが役立ちます。

■「社外」の人への言い換え

挨拶の定型句として、社外の方にねぎらいの気持ちを表現したいのであれば、「いつもお世話になっております」という言葉に置き換えることが可能です。打ち合わせやプロジェクト終了の挨拶であれば、「お疲れ様でした」の代わりに「今日はお世話になりました。ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えてはいかがでしょう。

これは、「お疲れ様です」「ご苦労様です」はもともと社内的な上下関係を前提とした表現であるため、社外の人に使うと違和感を与える場合があるからです。そのため、感謝やお礼を表すフレーズに置き換える方が適切だとされているのです。


【ビジネスでの使い方がわかる「例文」】

「お疲れ様です」は、疲れているかも?と思われる人を敬い、気遣って言うあいさつの言葉です。使用するシーンは主にふたつ。

(1)仕事を終えて相手と別れるとき
(2)ねぎらいの気持ちを表すとき

それぞれ例文をご紹介しましょう。

■仕事を終えて相手と別れるとき

後輩「お疲れ様です。失礼いたします」
先輩・上司「お疲れ様(ご苦労様)」

■ねぎらいの気持ちを表すとき

・「今日は一日、引っ越し作業お疲れ様でした。疲れたでしょう?」

・「出張、お疲れ様でございました」

・「短期間での資料の作成、お疲れ様でした。助かったよ、ありがとう」


【「メールの冒頭」に「お疲れ様です」は不要?】

社内でのメールであれば、部下や同僚はもちろん、上司に対しても、「お疲れ様です」は冒頭の挨拶の定型句です。「こんにちは」よりもむしろオフィスシーンには似つかわしいですね。

「お世話になっております」と置き換えることもできますが、同僚や親しい関係の上司に対しては、他人行儀な印象を与えてしまうかもしれません。反対に、取引先に対して、いきなり「お疲れ様です」と文章を始めるのは、親しい間柄に限定されます。この場合は「お世話になっております」が無難です。


【「お疲れ様です」の代用になる「メール」あいさつ例文】

「お疲れ様です」は相手を思いやり、労るときに使われるあいさつの言葉です。こう考えれば、「言い変え」の表現はいくつか思いつきますね。

■1:「この度は大変お世話になりました。ありがとうございます」

■2:「ご尽力(ご協力/お力添え/ご助力)いただきありがとうございました」

■3:「ご足労おかけしましたが、ご一緒できて光栄でした。感謝申し上げます」

■4:「今日はご苦労様でした。ゆっくり休んでください」

こちらは部下や後輩に対して使える労りの言葉ですね。

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オフィスでの挨拶やメール冒頭の定型文として、万能ともいえる「お疲れ様」ですが、慣例として社外の方に使うのはNGだとする会社もあるようです。この場合、「何が正しいのか?」よりも、自分が属する集団の慣例に従うのが、大人のマナーです。優先すべきは、皆が気持ちよく過ごせること。ここを忘れなければ、臨機応変に対応できるはずですよ。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂)/『日本語はこわくない』(PHP) :