この連載で度々参考文献として取り上げる『敬語マニュアル』(南雲堂)には、「現代の敬語はコーディネートされた衣服と同じ」という記載があります。「敬語はファッションと同じ」って、どういうこと? 俄然、興味が湧いてきませんか? 今回はこのフレーズをヒントに、「平素よりお世話になっております」など、メールや文書で使われる「平素」という言葉について、詳しく解説します。

【目次】

「平素」を使うのはどんなシチュエーション?
「平素」を使うのはどんなシチュエーション?

【まずは「平素」の基礎知識から】

日常会話ではあまり登場しない「平素」という言葉。改めて、詳しい意味や使い方など、基礎知識からチェックしましょう。

■「読み方」と「意味」

「平素」は「へいそ」と読みます。

「ふだん」「常日ごろ」「ごくあたりまえの状態や状況のなかで生活している時」のことを丁寧に表現した言葉です。一般的にはメールや文書で使用される「書き言葉」として定着しており、文書の冒頭、定型表現として用いられることがほとんどです。案内状や礼状のほか、詫び状にも使用される汎用性の高い言葉ですが、かしこまった表現のため、口頭での使用はほぼフォーマルなシーンに限られています。

「平素」という言葉を使いこなすうえで大切なポイントは、これが「かしこまった表現」で、「比較的フォーマルなシーンで使われる」言葉であるという点です。

記事の冒頭で、「現代の敬語はコーディネートされた衣服と同じ」というフレーズを引用しました。わかりやすい例えとして、冠婚葬祭のドレスコードを想像してみてください。パーティに招かれたゲストは(ここでは「あえてハズす」という高等テクニックは抜きにします)、参加者共通のドレスコードに従い、装いをコーディネートして出かけるはずです。大切なのは、私たちが会の雰囲気や状況、相手によって、場にふさわしいアイテムをチョイスしていること。そして、そのアイテムを使い、頭のてっぺんから足の先まで、トータルでコーディネートしていること、です。

敬語にも同じことがいえます。第一に、私たちはその場の状況、雰囲気や相手によって、ふさわしい言葉をセレクトする必要があり、第二に、文章のバランスをトータルで整えることが大切なのです。


【ビジネスでそのまま使える「例文」5選】

では、前述したふたつのルールにのっとり、「平素」を使った例文を見ていきましょう。

■「平素は格別のご高配を賜り厚くお礼申し上げます」

「平素」という言葉は、「平素は」もしくは「平素より」という表現で使われることがほとんどです。「平素は」は「過去にあったこと」を表している一方、「平素より」は「過去から現在に至るまで継続して」という意味を表しています。「平素は」は「平素より」よりもさらに堅い表現で、使用頻度は高くありません。年賀状や手紙などの「定型文」として用いられます。「格別の」「ご高配」「あるいは「ご厚情」、「賜り」「厚く」等々、文章全体を改まった表現で統一して使うのがポイントです

■「平素は大変お世話になっております」

日本語として間違ってはいませんが、「平素は」に続く文章として、後半の「お世話になっております」は若干軽い印象です。

■「平素よりお世話になっております」

「平素より」の「より」は、「から」を丁寧な表現にした言葉で、動作・作用の開始時点を表しています。つまり、「平素より」は「日頃から」「普段から」という意味です。「平素は」を使うより、「お世話になっております」に続く文章として、違和感なく読めるのではないでしょうか。「おります」という謙譲語がポイントで、「平素よりお世話になっています」では後半の文章が軽すぎます。

■「平素よりご愛顧いただき誠にありがとうございます」

「日頃からごひいきくださり、ありがとうございます」の意。「平素」という言葉には、ひらがなよりも漢字の、堅い印象の言葉が似合います。

■「これもひとえに平素のご尽力と感謝しております」

「平素の努力」のように名詞の修飾語として用いられることもあります。


【同じ意味で使われる「類語」や「言い換え」表現は?】

「平素」はかしこまった表現ですから、親しい人への手紙や日常会話など、砕けた文章に使う言葉ではありません。「平素より気に掛けてくれてありがとう」では不自然ですね。「いつも気に掛けてくれてありがとう」のほうが、文章としてはこなれています。

■いつも ■常々 ■平生 ■(常)日ごろ ■普段


【 「平素よりお世話になっております」は初対面でも使える?】

「平素」は「ふだん」「常日頃」などの意味をもっているため、継続的にお付き合いのある方、すでに面識のある相手に用いる言葉です。従って、初対面の挨拶では使用できません。同様に、面識のない方への文中で、「平素よりお世話になっております」と書くのは不適切です。

ただし、自分が所属する組織が提供するサービスや商品を継続して使用している顧客など、関係性が過去から持続している対象には、「平素」が使えます。通販のカタログやHPでも、「お客様各位」として、「平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます」などと始まる文章を目にする機会も多いのではないでしょうか。

また、「平素」は改まった表現なので、社内の人間同士、関係者同士では一般に使用しません。

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いかがでしたか? 確かに、敬語とファッションは、言葉(アイテム)のセレクト、文章全体のバランス(トータルコーディネート)という意味で、共通するポイントがありますね! ファッションを楽しむように敬語のセンスを磨き、マナー美人を目指しましょう!

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :