【目次】

「善処します」の「善処」って?「読み方」と「意味」

なんらかの問題への対応として、「善処します」を使ったり使われたりしたことがある人も多いのでは? ビジネスシーンで便利なフレーズですが、実は使い方には注意が必要です。いつ、誰に、どのように使うと“敬語上手”になれるのか、ビジネスシーンにおける正しい「善処します」の使い方をしっかり確認していきましょう。

■読み方

「善処」は「ぜんしょ」と読みます。

■意味

「善」は「よいこと、道義にかなっていること、そのような行為」という意味。「処」には「物事をしかるべく取りさばく」という意味があり、「善処」以外にも「処置」「処分」「処理」「対処」などの熟語に用いられます。「善処します」とは「状況に合わせて、適切に対処します」という意味なのです。

■由来

そもそも「善処」は「善所」とも書く仏語。『デジタル大辞泉』には、【来世に生まれるべきよい場所。人界・天上・諸仏の浄土など】という意味も掲載されています。

■敬語?

相手に対して使用する場合は「善処します」となるため、取引先や上司などの目上の人に使える敬語表現です。もっと丁寧な言い回しが必要なお客様対応などでは「善処いたします」とするのがよいでしょう。

■二通りの使い方

・トラブルや不適切な状況に対応する際に:「できるかぎり対応します」「前向きに検討します」という曖昧なニュアンスを含みます。

・依頼に対する返答として:依頼に対しての可否を保留する意味でも使います。やんわりと断ったり、返答までの時間稼ぎに使うこともあるかもしれませんね。ビジネスシーンでは即答できないことが多いもの。そんな際に便利に使えるフレーズだといえるでしょう。

■「善処する=改善する」ではありません!

「善処する」は適切に対応を行うという意思表明であり、必ずしも「改善する」ということではありません。ところが受け取り手は「改善してもらえる」と思ってしまうこともあり、トラブルのもとになりかねません。「善処します」はポジティブフレーズではありますが、ネガティブシーンで使用する際は言葉足らずで誤解を招かないようにしたいものです。

■「最善を尽くす」という意味はありません!

「善処する」と「最善を尽くす」は、似ているようで異なる意味なのでご注意を! 「最善を尽くす」は、「でき得る限りのことをする」「精一杯努力する」「ベストを尽くす」という意味。解決を保証したいときや、その強い意志を示したい場合は「最善を尽くします」とするのがよいでしょう。


【「失礼になる」と言われる理由は?】

「善処します」は、平たくいえば「できる限り頑張ります」ということ。必ずしも問題を解決することを約束するものではありません。ですから意味をよく理解している人は「曖昧な表現」「その場をやり過ごす常套句」と感じたり、「慇懃無礼」と思われてしまうことも。下記のような状況では使用に注意が必要です。

  • ■具体的な解決策を要求されている場合

    「善処します」というフレーズには策が示されていません。ですから、具体的な対応や期日が求められているシーンで「善処します」と返答したのでは、相手には「誠意がない」と思われてしまうかも。あるいは「問題を先延ばしにしている」と受け取られることもあるでしょう。

  • ■緊急性の高い案件の場合

    緊急性の高い状況で「善処します」と答えると、「すぐには対応してもらえないのでは?」「対応する気がないのでは?」と不安に感じさせてしまう可能性も。相手の状況や立場を鑑みて使用することが求められます。

  • ■双方の信頼度や関係性が低い場合

    親しい間柄や信頼関係があれば問題なくても、関係性が浅かったり取引先など上位の相手に対して「善処します」を使うと慇懃無礼だと捉えられることがあります。「善処します」は便利なフレーズのようですが、相手との関係性を考慮して使いたいもの。多用も禁物です!


ビジネスでそのまま使える「例文」

■1:「ご依頼いただきました内容で善処してまいります」

■2:「ご指摘の件、部内で共有して善処いたします」

■3:「この度はご指摘いただきありがとうございました。ご満足いただける製品づくりを目指し、善処していく所存でございます」

■4:「善処いたしますが、ご希望に添えない場合もございますこと、ご了解いただければと存じます」

上記「は善処する側の使用例」です。「対応を依頼する立場の例文」も見てみましょう。

■5:「この件につきましては、早急に善処願います」  

■6:「突発的なトラブルについては、現場にて適宜善処してください」


「類語」「言い換え」表現

■「類語」「言い換え」

「善処」の類語には、「対応」「対処」「検討」などがあります。「取り計らう」「努める」に言い換えることも可能です。

「善処します」は必ずしも「相手の意向に沿うよう対応する」ことを約束するものではありません。「そちらの意向は理解しました」といった意味で「善処します」を使ったのに、先方は「改善してもらえるんだ」と受け取った…というように、使う側と受け取る側に認識のズレがあるとトラブルにもなりかねませんね。

ここで大切なのは、やはり言葉によるコミュニケーション。「善処します」は曖昧な表現でもあるので、ケースによっては類語に言い換えるのが大人のマナーです。類語や言い換え表現による例文で使い方を紹介します。

■1:「今回の不手際につきましては、最善を尽くして対処いたします」

■2:「遅くなり誠に申し訳ございません。すぐに対応いたします」

■3:「ご指摘いただきました箇所は、前向きに検討いたします」

■4:「この度の事案は早急に改善が必要です」

■5:「どなたかお取り計らいいただけませんか?」

■6:「貴重なご意見をありがとうございました。今後もご贔屓いただけますよう努めてまいります」


「善処します」と言われときの返し方

  •  

若干曖昧な表現である「善処します」で返答された場合、「できる限り対応してほしい」のならもうひと押ししておく必要がありそうです。その場合は下記の内容などを使い、こちらの本気度を示すのがよいでしょう。

・具体的にどうするのか聞く

・いつまでにするのか、期限を聞く

・対処法や期限などを提案して行動を促す


【ビジネスで使うときの「注意点」まとめ】

■「善処します」と言われた場合は、「内容を理解した」程度のケースもあると心得ること。

■「善処します」と言われたが確実に実行してほしい場合は、方法や期限などを具体的に提案したり確認すること

「善処させていただきます」はNG! へりくだった(相手を立てた)表現である「させていただく」を使用した正しい敬語のようにも思いますが、「善処」は「適切に処置すること」ですから、相手に許可を求める必要はありません。「善処します」「善処いたします」が正解です。

■「善処」に接頭語の「ご」を付けた「ご善処いただけますようお願いいたします」はOKです。

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「できる限り対応する」や「前向きに検討する」といった曖昧なニュアンスを含んだ「善処します」は、明言はできないが印象をよくしたいといったケースで使える便利なフレーズです。日本語は白黒はっきりつけないグレーゾーンの多い言語ともいえますが、だからこそ言葉によるコミュニケーションはとっても大切。会話でもメールなどの文書でも、適切な敬語表現を使って上手に伝えたいものです。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂)/『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社)/『すぐに使えて、きちんと伝わる敬語サクッとノート』(永岡書店) :