ビジネスで何気なく使う「お待ち申し上げます」という言葉。でもよく考えてみると、「待つ」と「申し上げる」で構成されてる「お待ち申し上げます」って、正しい日本語なの? と不安になる人もいるかもしれませんね。ご安心ください。「お待ち申し上げます」は正しい日本語表現です。詳しく解説しましょう。

【目次】

「お待ち申し上げます」の「申し上げます」って?
「お待ち申し上げます」の「申し上げます」って?

【まずは「お待ち申し上げます」の「基礎知識」から】

■「お待ち申し上げます」の「意味」

「お待ち申し上げます」を理解するためには、まず「申し上げる」の意味を知る必要があります。
「申し上げる」は、【目上の人に向かって、うやうやしく言う】という意味で、「言う」の謙譲語としてよく知られていますね。でも実はもうひとつ意味があって、それが【目上の人のために、ある行為をしてさしあげる】というものです。つまり「申し上げる」は「する」の謙譲語でもあるのです。
この場合、多くは「お」や「ご」を、自分の行為を表す動詞(この場合は「待つ」)を名詞化したものに付けて、その「行為の対象を」敬います。

「申し上げます」の「ます」は丁寧語の助動詞です。
つまり、「お待ち申し上げます」は、「待ちます」の謙譲表現です。

■「敬語」として正しいの?

「お待ち申し上げます」は正しい敬語表現です。

■「お待ち申し上げます」を使う意図は?

「お待ち申し上げます」は、相手に「あなたがいらっしゃるのを待っています」と伝える言葉です。「お越しください」「お運びください」よりも、相手に「来てほしい」という気持ちを強く伝えます。言い方によっては、相手に少しプレッシャーになる可能性もあります。


【「待つ」の敬語バリエーション】

■お待ちいたします

「いたす」は「する」の謙譲語。つまり「お待ちいたします」は「待ちます」の謙譲語で、「お待ち申し上げます」と同じように使います。敬意の高低に差はありませんが、フォーマルなシーンでは「申し上げます」が多く使われています。

■お待ちいたしております

「お待ちいたしております」は、「お」+「待ち(名詞化した「待つ」)」+「いたし」+「て」+「おり」+「ます」と分解できます。「いたす」は「する」の謙譲語、「おり(おる)」は「いる」の謙譲語です。「走っている」のように、「ている」で、【動作の継続や習慣的な動作、状態の持続】を表しています。つまり、「お待ちいたしております」は「待っています」の丁寧な謙譲表現です。現在進行形で「待っている」ことが、「お待ち申し上げます」との違いです。使い方は、ほぼ変わりありません。

■お待ちさせていただきます

『敬語マニュアル』によれば、現在の「させていただく」という言葉には、「最も丁重な謙譲語」として働きがあるほか、「相手の許可を得て〜する」「相手のおかげで〜できた」「自分の行為を丁寧に言う」「相手の意志に関係なく〜する」という意味もあります。ですから「お待ちさせていただきます」は場面によって微妙に意味が異なります。「お待ち申し上げます」と同様「お待ちします」の最も丁寧な謙譲表現ともとれますし、あるいは「(ご許可がいただけましたので)待たせていただきます」、もしくは「(○○さんに御用がありますので、ここで)待たせていただきます」という風にも解釈できます。

■お待ち申し上げております

「お待ち申し上げております」は、「お待ちいたしております」同様、「待っています」の謙譲語。「お待ち申し上げています」よりさらに丁寧な謙譲表現です。現在進行形で「待っている」ことが、「お待ち申し上げます」との意味の違いで、使い方はほぼ変わりありません。


【「例文」でわかるビジネスでの正しい「使い方」】

「お待ち申し上げます」と「お待ち申し上げています」の違いは、【動作の継続や習慣的な動作、状態の持続】といった意味合いを強めたいかどうかの違いです。とはいえ、微妙な違いですので、どちらを使っても一概に「間違い」とはいえません。

■「弊社創業100周年のパーティにおきましては、貴殿のご来場を謹んでお待ち申し上げます」

これから行われるパーティにて「待つ」という意味ですから、この場合、現在進行形の「お待ち申し上げています」を使うのは不自然です。

■「またのお越しをお待ち申し上げております」

「またのお越しを申し上げます」と意味はほとんど同じですが、「今もこの先も」相手に「来てほしい」という気持ちを少し強めた表現です。

■「職場復帰を鶴首してお待ち申し上げます」

「鶴首」は「かくしゅ」と読み、「首を長くして待ち望む」という意味の言葉です。「今も待っている」のなら、動作の継続という意味で「お待ち申し上げています」でも違和感ありません。

■「気長にお待ちしておりますので、あまり気になさらずご対応ください」

「いつでもお越しをお待ちしています」という気持ちを込めて、「お待ちしております」と使っています。

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いかがでしたか? 「申し上げる」は、「言う」のほか、「する」という動詞の謙譲語でもあります。ですから、例えば「お慕い申し上げます」は、「お慕いしていると言う」のではなく、「お慕いしています」を丁寧にした謙譲表現となるのです。「お待ち申し上げます」は、とても丁寧な謙譲表現です。少々大仰に聞こえることもありますので、場面に応じて「お待ちしております」と上手に使い分けましょう。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂)/『これ1冊であとはいらない! 大人の語彙力大全』(中経の文庫) :