相手を敬い、気持ちのよいコミュニケーションをとるために使用する敬語ですが、行き過ぎた表現は不快感をもたらすことも…。そんな間違いを犯しがちなのが「~させていただきます」です。本日は、さまざまなシーンで使われる「務めさせていただきます」というフレーズから、改めて「~させていただきます」の注意点も学びましょう。
【目次】
【「務めさせていただきます」の「正しい意味」と「使用法」】
挨拶で頻繁に使われている「務めさせていただきます」の、正しい意味と使用方法を見ていきましょう。
■「務めさせていただきます」の意味
「務める」とは、【ある役割や任務を引き受けて、その仕事をする】という意味です。「委員長を務める」や「担当を務める」といった意味合いになります。
「させていただきます」は、相手や第三者に許可を求めたうえで行動する「させて」と、そのことによって恩恵を受けるという意味をもつ「もらう」から成る、「させてもらう」の謙譲語です。
ということから、「務めさせていただきます」は、許可を得て務めることによってなんらかの恩恵を受ける場合に使うフレーズだとわかります。
■間違えやすい使用シーン
ここでひとつ例文を見てみましょう。なじみのある一文だと思いますが…。
「本日、司会を務めさせていただきます〇〇と申します」
日本語としても敬語の使い方としても正しい例文です。しかし、これが雇われて務める結婚式などの司会であればOKですが、業務のひとつである発表会の司会進行といった場合は不適切。後者なら「本日司会を務めます〇〇と申します」が正解です。
■「務める」「勤める」「努める」は使い分けが肝心!
「つとめる」と平仮名で検索すると相当数がヒットしますが、代表的なのは「務める」「努める」「勤める」の3つ。それぞれの意味を明確にしてみましょう。
・務める/ある役割や任務を引き受けて、その仕事をすること。
・努める/精を出して仕事をする。努力して事を行うこと。また、無理をしたり、がまんしたりして行うこと。
・勤める/職に就くこと。官庁や会社などで職員として働くこと。また、仏道に励んだり、仏事を営むこと。
【ビジネスでよく使われる「例文」と「こなれた言い換え」】
具体的なビジネス例文と、「務めさせていただきます」を使わない言い換え例文をご紹介しましょう。
■1:「今回のプロジェクトも弊社が精一杯務めさせていただきます」
先方から指名されたり、プレゼンで勝ち取ったりした場合などに。
言い換え「今回のプロジェクトでも成果を出せるよう尽力いたします」
■2:「△△の後任を務めさせていただきます〇〇と申します」
担当替えなどは社内事情によるものですが、このケースでは許可とはいわないまでも「よろしくお願いします」という意味合いが込められているので、使用可能。
言い換え「△△の後任となりました○○と申します」
■3:「ご依頼の件、謹んで務めさせていただきます」
依頼と許可は本来は対応しない言葉ですが、「依頼されるということはそれをすることについて許可が得られた」と解釈することもできます。
言い換え「ご依頼の件、謹んでお引き受けいたします」
こうして比べてみると、「務めさせていただきます」というフレーズより、言い換え表現のほうがこなれた印象です。メールなどの文書では少々硬い表現が適切な場合も多いものですが、会話のなかでは言い換え表現のほうが「自然な敬語表現」に聞こえて好印象かもしれません。
【「務めさせていただきます」のビジネス使用の「注意点」】
■漢字を間違えるべからず!
メールなどで使用する際、特に気をつけたいのが漢字の間違いです。上記で触れたように、「務める」「勤める」「努める」は、ビジネスの現場でどれもよく使われるのでご注意を。
■むやみに使わず言い換え表現も検討すべし
「~させていただきます」という言い回しが氾濫している今、誤った使われ方も多く、回りくどくて誠意が伝わらない場合も。
「務める」が当てはまるケースなのか、「させていただく」を使うべきシーンなのか。冷静に判断して適切に使用するのが、大人のビジネス敬語なのです。
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「務めさせていただきます」という便利に使えそうな敬語フレーズも、使用するには注意が必要! 謙譲語と謙譲語というように同じ種類の敬語を重ねてしまう“二重敬語”や、飲食店などでよく耳にするけれど間違っている“バイト敬語”など、トラップがいっぱいの敬語の世界。だからこそ、コツコツと確実に身につけていくのが“敬語達人”への道です。明日もぜひこのレッスンを覗いてみてください。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『敬語マニュアル』(南雲堂)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』(角川新書) :