「深謝」は「感謝」と「謝罪」、相反するふたつの意味をもつ言葉です。話し言葉でも使えますが、口頭で「しんしゃもうしあげます」と言われても意味が通じにくいかもしれませんね。実際、書き言葉として使わることがほとんどです。心からの「感謝」や「謝罪」の気持ちをきちんと相手に伝えるためには、まず言葉の意味と使い方を知っておく必要があります。今回は「深謝」について、詳しく解説します。

【目次】

「深謝」のもつふたつの意味を知っていますか?
「深謝」のもつふたつの意味を知っていますか?

【知っておきたい、「深謝」の「基礎知識」】

■「読み方」

「深謝」は「しんしゃ」と読みます。

■「意味」

「深謝」の「謝」にはいくつかの意味があります。『デジタル大辞泉』によれば、【①わびる。あやまる。 ②ことわる。③礼を言う。④お礼やおわびを表す金品。⑤入れかわる】などです。「謝罪」や「謝絶」、「感謝」、「謝礼」「代謝」など、多くの熟語に使われる漢字です。

「深謝」は【心から感謝すること】と【心から詫びること】という、相反するふたつの意味をもっています。言い換えれば、「深い感謝」あるいは「深い謝罪」という意味になります。


【「深謝」の正しい使い方がわかる「例文」4選】

「深謝」は「感謝」と「お詫び」の両方の意味で用いられますが、「お詫び」として使われることのほうが多い言葉です。改まったイメージが強いので、ビジネスメールや手紙などに適しており、反対に親しい人や同僚に使うには、少々堅苦しく、他人行儀な印象になってしまうかもしれません。

■「感謝」の意味で使う場合

「このたびのご厚情に深謝申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

「平素は格別のご高配を賜り、深謝申し上げます」

■「お詫び」の意味で使う場合

「このたびは私どもの不手際により多大なご迷惑をおかけしましたこと、深謝いたします」

「先日、弊社よりお送りした商品に不備がございました。今後はこのようなことがないよう肝に銘じ、深謝申し上げます」


【似た意味をもつ「類語」】

ふたつの意味をもつ「深謝」には、それぞれ類語があります。「多謝」「万謝」も、感謝と謝罪の両方の意味をもっています。

■「感謝」の意味の「類語」

・拝謝……つつしんで礼を言うこと。うやうやしく感謝すること。
・多謝……厚く礼を述べること。
・万謝……厚く礼を感謝すること。

「拝謝(はいしゃ)」も「多謝(たしゃ)」「万謝(ばんしゃ)」も、書き言葉として使われます。

■「お詫び」の意味の「類語」

・多謝……深くおわびすること。書簡文などで多く用いられます。
・万謝……深くおわびすること。
・陳謝……理由や事情を述べてわびること。

「陳謝(ちんしゃ)」は書き言葉としても話し言葉としても使用されます。


【感謝や謝罪の気持ちをきちんと伝えるための「注意点」】

■「深謝」は「お詫び」の品の表書きに使われる

「深謝」は謝罪の際に持参する菓子折りの表書きに使われますが、感謝の意では用いませんので注意してください。「御詫び」や「御挨拶」という表書きでは軽すぎると感じた際に、「深謝」と記したかけ紙をかけてお渡しします。水引と熨斗(のし)はつけずに、無地の短冊に表書きを「深謝」とし、その下に名前を記します。

■「感謝」はストレートに「深謝いたします」「深謝申し上げます」

「感謝」の気持ちを伝える際は「深謝いたします(申し上げます)」とします。以下の例文のような言い回しで「深謝」を用いることは、ほとんどありません。

NG:「深謝に耐えません」
NG:「深謝の言葉もありません」
NG:「深謝の意を表します」

■「とても」「大変」など、意味を強める言葉と併用しない

「深謝」は「深い感謝」あるいは「深い謝罪」という意味です。そのため、「とても」「大変」など言葉の意味を強める副詞と併用することはありません。「深謝」という言葉自体、強い感謝や謝罪の気持ちが込められているからです。

■「感謝」か「謝罪」か、わかりやすい文章を心掛ける

「深謝」には相反するふたつの意味がありますが、どちらかといえば謝罪に使われることが多い言葉です。そのため、特に感謝の意味で用いたときに、受け取る側はどちらの意味なのか判断に迷うこともあるようです。わかりやすい文章を心掛けましょう。また、場合によっては「謹んで感謝申し上げます」「心よりお詫び申し上げます」と、ストレートな表現にしたほうが、気持ちが伝わりやすいかもしれませんね

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「深謝」は深い感謝や謝罪の気持ちを伝えられる言葉です。ビジネスシーンではミスをなくすよう努力することが大切ですが、たとえ自分に非はなくとも、謝らなくてはならない場面もあるものです。語彙が少ないと「申し訳ありません」を繰り返すばかりで、相手に「またか」と誠意が伝わりにくくなってしまいます。コミュニケーションを円滑にはかるためにも、謝罪や感謝の語彙は多くもっておきたいものですね。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『これ1冊であとはいらない! 大人の語彙力大全』(中経の文庫) :