コロナ禍で頻繁に耳にするようになった「オンデマンド」という言葉。ネットの動画配信などで使われることが多いのでは?「デマンド」は直訳すると「需要」という意味ですが、IT分野をはじめ、福祉や医療、エネルギー業界など、さまざまな分野で使われる言葉です。今回は場面によって異なる意味をもつ「デマンド」について、詳しく解説します。

【目次】

「デマンド」は、「あったらいいな」と思うもの?
「デマンド」は、「あったらいいな」と思うもの?

【まずは「デマンド」の「基礎知識」から】

■本来の「意味」は?

「デマンド」は英語の[demand]が由来のビジネス用語で、直訳すると「需要」「要求」「請求」。対義語は[supply(サプライ)]で「供給」です。

■ビジネスシーンではどう使われる?

マーケティングの概念では「消費者の欲求、購買意欲」という意味で、「こうなったらいいな」「こんな商品があったらほしいな」という人々の欲求を表す言葉として使われています。

従来のマーケティングでは、製品やサービスを「供給する立場」の主張を軸に理論が展開されてきました。ところが近年では、「需要する立場」、つまり消費者の立場に立った理論が重要視される傾向にあります。このトレンドにより、「デマンド(消費者の欲求)」の概念が注目を浴びるようになったのです。

■「オンデマンド」とは

英語の[on demand]は「要求(請求、要請)に応じて」という意味です。ここから転じて、消費者の直接の注文や需要に応じて、個別に供給・配信する方式を「オンデマンド」というようになりました。特に「IT関連用語」として頻繁に使われ、利用者の求めに応じ、即座に商品や音声・画像などのサービスを提供する概念を意味します。例としては、仮想サーバーを提供するクラウドサービスやネットで仕事を受注および発注するクラウドソーシング、時間や場所の制約がなく学習可能なeラーニング、ゲーム配信などがあります。

インターネットを介していても、スケジュールがあらかじめ決められている教育放送などはこの概念には入りません。


【業界によって異なる「デマンド」の意味】

「デマンド」は業界によって、独自の意味をもつ言葉です。

■「医療」分野では

医療における「デマンド」は「患者の主観的な要望」を指します。緩和ケア医療や在宅医療は、患者の「痛みを和らげてQOL(生活・生命の質)を高めたい」「自宅にいながらにして医療サービスを受けたい」という「デマンド」に応える医療でもあります。

■「介護」業界では

介護業界における「デマンド」は、「利用者や家族にとって、あればうれしい、助かるというような要望」を指します。利用者側としては「やってほしいサポート」ともいえますが、自分でできることは自分でやったほうが、結果的には「動ける体」のキープにつながることも。介護の現場では、利用者の「デマンド」のなかから、本当に必要なものを見極めて提供することも重要です。

■「電気・電力」業界では

毎月の電気代の基本料金を削減するためには、「デマンド値」がキーワードとなります。電力会社との取り引きに使われる「デマンド値」は、30分間に消費された電力の平均値のこと。30分を1コマとすると、1日24時間は48コマ。さらに1か月間(仮に30日間)のなかでは1,440コマ(48コマ×30日間)となります。この1か月間の中で、「デマンド値」が最も高かった1コマの値が、その月の「最大デマンド値(最大需要電力)」としてカウントされ、これが電気料金に影響するのです。直近の「最大デマンド値」を1年間超えなければ、電気料金を下げられる可能性があります。


【知っておきたい「デマンド」の「関連用語」】

■「オンデマンドバス」

福祉の分野で注目されているのが、「オンデマンドバス」です。利用者の呼び出しに応じて、一定地域内を不定期に運行する乗り合いバスのこと。利用者がスマートフォンのアプリなどを利用し、乗車時間や場所、目的地を予約しておけば、AIが自動作成したルートで、複数の乗客を拾いながら効率的に目的地まで運行します。タクシーよりも低料金で、特定の範囲内の移動に便利な地域のバスとして、高齢化が進む日本社会での活躍が期待されます。

■「デマンドメーター」とは

前述の通り、一般の電気料金制度では、「最大デマンド値(最大需要電力)」をなるべく低くすることが年間の電気料金削減につながります。多くの電力量を一度に使わないよう、電力を瞬時に計測する機能をもつのが「デマンドメーター」です。

■「デマンドクリエーション」

「需要創出」と訳します。ビジネスや広告の分野で、消費者の潜在的な欲求を掘り起こし、市場拡大につなげるための独自の手法を指します。


【「デマンド」の「使い方」がわかる「例文」5選】

■「学校教育はもちろん、語学などの授業は、いまやオンデマンドで受ける時代だ」

■「オンデマンド動画配信サービスがあれば、芝居やオペラなどをどこでも見ることができる」

■「デマンド値を低く抑えれば、電気代の基本料金削減につながる」

■「会社の印刷機はオンデマンド対応型だ」

■「ビデオオンデマンドを利用するようになって、レンタルビデオ店には行かなくなった」


【「デマンド」の「言い換え」「類語」表現】

■需要  ■要求  ■リクエスト

■「ニーズ」との違い

「デマンド」同様、「要求」「需要」という意味をもつ「ニーズ」。大きな違いは、「ニーズ」には「必要」という意味があることです。つまり、「ニーズ」は「必要不可欠なもの」、「デマンド」は「あったらいいなと感じるもの」「あれば助かるもの」と区別することができます。

***

ビジネス用語の「デマンド」は、「あったらいいな」と思う人間の「欲求」を表現する言葉です。ネット広告やCMなどを見て、「あ、これほしい」と購買意欲をくすぐらせることはよくあります。私たちは毎日、潜在的な欲望を刺激されながら生きているともいえますね。「デマンド」と「ニーズ」をしっかり区別して、快適な毎日を過ごしたいものです。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/ランダムハウス英和大辞典(小学館)/『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館)/『外来語 新語辞典』(成美堂出版)/『イミダス』(集英社)/『現代用語の基礎知識』(自由国民社) :