日本で長い年月をかけて愛され育まれてきた温泉文化。だからこそ、温泉旅館のなかには、歴史や伝統の重みを感じさせる名建築が少なくありません。日頃コンクリートに囲まれた暮らしを送る私たちにとって、そんな情緒あふれる空間で寛ぐのも温泉旅行の醍醐味のひとつ。そこで、温泉ジャーナリストの植竹深雪さんに、国の文化財として認められている建築美に感動する湯宿をピックアップしてもらいました。
今回ご紹介するのは、新潟県南魚沼市にある「ryugon」です。
公式サイト
歴史的価値ある建物をスタイリッシュにリノベーション
多くの文人に愛され将棋の竜王戦が行われるなど、新潟を代表する老舗旅館として名を馳せた「龍言」。その「龍言」の歴史や趣を受け継ぎつつ、現代の様式に沿った規格で2019年にリニューアルしたのが古民家ホテル「ryugon」です。
「荘厳な建物は、約200年前の豪農の館や武家屋敷などをリノベーションしたもので、母屋は国の文化財として登録されています。母屋から中門を突き出した『中門造』、居間と書院の間を篭に乗ったまま移動できるように造られた『篭通し』など、民俗建築として非常に価値が高いものです」(植竹さん)
「ただ古きよきものを継承するだけでなく、サステナブルな思想もとりいれているのがryugonのユニークな点。2019年のリニューアルに際して、冷暖房のエネルギー消費を減らすため建物全体の断熱性を上げたり、夏は井戸水を使った冷房システムを採用したりなど、SDGsを積極的に推進しているそうです。さらに、設備としても、『白い囲炉裏』のラウンジやバー、カフェなどモダンな空間を新たに加え、まさしく歴史とスタイリッシュさが融合した湯宿に生まれ変わっています」(植竹さん)
「国の文化財として登録されている『幽鳥の間』は、約200年前の土間がそのまま用いられ、新潟出身の禅師による書が飾られた風流な空間。他方、その傍らにはムーディーなバーがあり、滞在中は思い思いの楽しみ方が可能です。ちなみに、バーではクラフトビールがおいしすぎて、私はそればかり飲んでしまいましたが、色とりどりの果実酒がズラリと並んでいたのが壮観でした。果実酒は、宿の土蔵で熟成させたものもあるそうで、ここでしか味わえないものをさりげなく提供しているところにもホスピタリティが感じられます」(植竹さん)
客室はレトロな「CLASSIC」と豪奢な「VILLA SUITE」の2タイプ
客室のタイプは大きく分けると「CLASSIC」と「VILLA SUITE」の2種類。「CLASSIC」は、旧「龍言」から代々受け継がれた伝統的家屋の記憶を残すしつらえ。雪国ならではの歴史ある梁や柱などはそのままにしながら、過ごしやすさにも配慮してシモンズ社のベッドを採用しています。
「VILLA SUITE」のテーマは、豪農のスイートルーム。本館と回廊で結ばれた離れの客室は、誰の目を気にすることもなくのびのびとすごせるプライベート空間です。雪国を感じさせる丸みのあるファニチャーは、職人が無垢の板を削り出して作ったというryugonオリジナル。庭園に面したテラスには露天風呂が付いており、極上の余暇を過ごすことができそうです。
米蔵で湯浴み!非日常感たっぷりの大浴場で心身を労わる
「ryugonの泉質は、ナトリウム塩化物温泉。塩のヴェールで湯上りはほかほかで、お肌の保湿効果も期待できます。そして、特筆すべき点は、その造り。かつて米蔵として使われていた建物を移築した木造平屋土蔵造りで、内湯のほか、庭園を眺められる露天風呂を併設しています」(植竹さん)
「私の知る限り、米蔵をリノベーションした温泉施設はかなり珍しく、風情たっぷりです。露天風呂ももちろん自然との一体感を味わえますが、窓が大きくとられた内湯からも景色を堪能できます。私が訪れたのはちょうど秋と冬のはざまの中途半端な時期だったのですが、もう少し時期を遅らせれば白銀の世界に息を呑んだであろうことは想像に難くありません」(植竹さん)
以上、「ryugon」をご紹介しました。古民家ホテルにて和の情緒をたっぷり堪能しつつ、心身のリフレッシュを叶えたい人は、次の旅先候補のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。
※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。
問い合わせ先
- ryugon
- 住所/新潟県南魚沼市坂戸1-6
- 客室数/全32室
- 料金/CLASSIC 1名 ¥19,800~(税込)、VILLA SUITE 1名 ¥56,100~(税込)
- TEL:025-772-3470
- WRITING :
- 中田綾美
- EDIT :
- 谷 花生