テレビの時代劇や歌舞伎などでは耳にしても、日常ではなかなか使用する機会がない「かたじけない」という言葉。正しい意味を理解して、とっさの場面で迷わない適切な返答を、この機会に覚えておきましょう。

【目次】

「かたじけない」は恐縮と感謝を表す言葉。
「かたじけない」は恐縮と感謝を表す言葉。

【押さえておきたい「かたじけない」の「基礎知識」】

■「意味」  

「かたじけない」は、高貴な方に対して、身にすぎたことを恐れる気持ちを表す言葉ですが、ニュアンスとしては3つの感情を表しています。

1 恐縮:相手に迷惑をかけたり、相手の厚意を受けたりして申し訳なく思うことやそのさま。「 申し訳ない」

2 感謝:身に受けた恩恵などに対して、感謝の念でいっぱいであるさま。「ありがたい」

3 羞恥「恥ずかしい」と思うこと。わが身が「面目ない」

近年では、3の「恥ずかしい」という意味合いでは、ほとんど使われていません。

■「かたじけない」を「漢字」にすると?  

「かたじけない」を漢字で表すと「忝い」「辱い」となりますが、基本的にはひらがなで「かたじけない」と使われています。

■「語源」は?

「かたじけない」の語源は諸説ありますが、「難(かた)んずる気なし」「難気(かたしけ)なし」などの言葉だといわれています。

■「由来」  

「かたじけない」は、平安時代にはすでに使われていた言葉です。
「源氏物語」では、上位者への恐縮や感謝の気持ちを表していました。ただし、もったいないや恐れ多いの意味をもつ「かしこし」ほど畏敬の念は強くありません。
また、「かたじけない」は「かしこし」ほどには、時代と共に敬意の程度が低まることはありませんでしたが、狂言では、「ありがたい」がより敬意の高い語として用いられています。

■「面目ない」との違いは?

「面目(めんぼく)ない」は、「恥ずかしくて、人に合わせる顔がない」「世間に顔向けができないほど、恥ずかしい」という意味の言葉です。「かたじけない」もかつては「恥ずかしい」という意味合いで使われていましたが、現在では「めんぼくない」といったニュアンスでの使用はほとんどみられません。


【「かたじけない」の理解を深める「例文」2選】

「かたじけない」は、目上の方に対する恐縮や感謝を表す丁寧な言葉ですが、敬語ではありません。そのため、目上の方に使う場合は、敬語にする必要があります。
「かたじけない」の敬語表現は「かたじけなく存じます」「かたじないことでございます」などです。

■恐縮の意で:「過分なお言葉を頂戴し、かたじけなく存じます」

■感謝の意で:「折々のお心遣い、誠にかたじけないことでございます」

感謝しつつも、過分なことと恐縮するニュアンスも伝わります。


【「かたじけない」と言われたら、どう答える?】

日常生活で「かたじけないことでございます」と言われたら、かなり戸惑ってしまいますよね。とはいえ、こちらも相手への敬意を込めた返答をしたいものです。

■「とんでもないことでございます」
■「お気遣いなさいませんように」
■「お気になさらないでください」

相手が恐縮やお詫びのニュアンスを込めて「かたじけない」を使った場合は、「どういたしまして」を丁寧に表現したフレーズを使うとよいでしょう。

■「お役に立てて光栄です」
■「喜んでいただけて幸いです」

感謝の気持ちで「かたじけない」が使われたシーンでは、「お役に立てて私もうれしいです」という気持ちを込めたフレーズを使うと、謙虚な姿勢が伝わります。


【「かたじけない」の「言い換え」「類語」表現】

恐縮、感謝、羞恥のニュアンスを踏まえて、類語をいくつかご紹介しましょう。

■恐縮:「もったいない」「恐れ多い」「申し訳ない」
■感謝:「ありがたい」「うれしい」「恩に着る」
■羞恥:「恥ずかしい」「面目ない」


【「かたじけない」の「使い方」ポイントまとめ】

■「かたじけない」は目上の方に対して「恐縮」や「感謝」の気持ちを表す言葉。■「かたじけない」への返答は、相手への敬意を込めたフレーズで。
■軽い印象にならないように、「かたじけない」を使用する場面は見極めて。

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「かたじけない」は丁寧な言葉ですが、現代ではむしろ、親しい仲間同士でユーモアを交えたフレーズとして使われることが多い言葉かもしれません。とはいえ、正確な意味や使い方を理解して、万が一「かたじけない」と言われたら、こちらも敬意をもって返答したいものです。

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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :