現代アートを楽しく読み解くキーワード5
目まぐるしく変化する現代社会では、アートもハイスピードでアップデートされていきます。ここでは、厳選した5つのキーワードで、現代アートの入り口をくぐりましょう!
【KEYWORD1:村上 隆】村上“以前”と“以後”で現代アートの世界が激変!
アーティスト・村上隆は、世界で最も知られる日本人のひとりです。彼が、日本美術の特徴である平面性と、アニメーションやマンガといった日本のカルチャーを結びつけた「スーパーフラット」理論を生み出し、同名の展覧会で日本のみならず世界を席巻したのが’00年のこと。
その後、’03年に発表した「ルイ・ヴィトン」とのコラボレーション、『モノグラム・マルチカラー』コレクションは、まさに革新でした。当時、「ルイ・ヴィトン」のアーティスティック・ディレクターを務めていたマーク・ジェイコブスからのオファーで実現した、33色を使ったカラフルなデザインに、いちばん驚かされたのは、スーパーフラットに内包されるものに最も親しんでいたはずの日本人だったかもしれません。
「日本の現代アートは、村上隆の存在をおいては語れません。これ以降、さまざまなハイブランドがアーティストとコラボレーションし、それは現在でも続いています。’02年に制作されたお花(フラワー)は村上隆の代表作のひとつですが、「ルイ・ヴィトン」のバッグをはじめとするファッションアイテムのみならず、あらゆるジャンルとコラボレーションし、さらにはグッズとして幅広く展開されています。アートの間口を大きく広げることにもつながったと思います。また、海外で高い評価を得たことも、日本の若手作家に希望を与えたはず」(中村さん)
かつては「幼稚」とか「軽い」とか「オタクっぽい」とみなされ、「アート」として語られることのなかった表現が、村上隆“以後”は、「大人」の「ラグジュアリー」な世界と融合。垣根を越えて、「これもありなんだ」と、人々の価値観を一変させました。村上隆は、アートが閉じ込められていた枠を次々と外して、より自由で、楽しいものへと広げ続けているのです。
【KEYWORD2:SDGs】“今”を表現するアートには欠かせないアプローチ
今や、あらゆるシーンで外せないキーワードとなっているSDGsですが、現代アートの世界では、SDGsという言葉が世に現れる前から、アーティストたちはこの問題に取り組んできました。いちばんわかりやすいのは、廃材やゴミを使ったアート作品でしょうか。アートとSDGsとの親和性は非常に高いといえます。
その代表的存在が、デンマーク人アーティスト、オラファー・エリアソンです。1990年代の初めからエコロジーに強い関心をもち、’19年には国連開発計画から、気候変動に対してのSDGs大使に任命されています。人工的に虹を生み出す代表作《ビューティ》や、花の形をした携帯式のソーラーライト《リトルサン》など、光や水など自然現象の力を借りてアートを表現するエリアソンの手法は、シンプルに鑑賞者に届き、深い感動と共に、人間と自然、地球との関係について考えさせてくれます。
「AKI INOMATA」も注目のアーティストです。彼女は、生物との関わりから生まれるものを表現しており、ヤドカリに3Dプリンターでつくった“殻”を渡すという『やどかりに「やど」をわたしてみる』シリーズで知られます。ビーバーがかじった角材をベースに彫刻作品をつくる『彫刻のつくりかた』という試みも、とてもおもしろい。私たち人間はときに、自然の営みが生んだものに何かの形を投影し、そこにアートを感じたりしますが、そうした世界との関係性にはっとさせられます」(中村さん)
ここ数年は、多くの芸術祭でもSDGsが主要なテーマに掲げられています。「今、自分が生きているこの世界」について思い、「今、ここに存在している自分」を認識する。現代アートは、自分と世界のつながりを意識するきっかけをくれるのです。
【KEYWORD3:NFT】注目もお金も集まるデジタルアートの世界
ひとつしか存在しない「一点もの」にこそ価値がある。絵画では肉筆こそが素晴らしく、複製可能なデジタル作品は価値が低い―そんな考えは、過去のものとなりました。NFT(非代替性トークン)という、簡単にいうとデータの偽造ができないよう「唯一性」を暗号資産に付加した技術を使うことによって、デジタル作品であっても、オリジナルであることを証明できるようになったのです。つまり、NFTに紐づければ、デジタルアートも「一点もの」の価値をもつということ。
デジタルアーティスト・Beepleの作品が、クリスティーズのオンラインオークションで約75億円で落札されたことは、アートマーケットの歴史的な出来事となりました。物理的な意味での「現物」がないので、オンライン上で気軽に売買ができ、管理するためのスペースも必要ない、そしてコレクションをWEB上で公開することもできるなど、データ作品だからこその魅力も。
コロナ禍によって、「出かけて行って観る・買う」ことが難しくなっていたこともあり、アートとの付き合い方は、大きく変化しました。現代アートの最前線として、目が離せないジャンルです。
【KEYWORD4:アートフェア】現代アートとの出合いが増え、アートシーンは協働の時代へ
現代アートが盛り上がるにつれ、アートを『所有する』ハードルも下がってきました。ギャラリーが数多く出店するアートフェアも世界的に活況で、有名どころでいえばアートバーゼルは今年からパリでも、フリーズはソウルでも新たに開催。欧米に比べるとまだまだマーケットは小さくはありますが、日本でも3月の東京、6・7月の大阪、9月の福岡、そして11月には京都で、大規模なアートフェアが開催されるほか、百貨店やホテルなどでも、多彩な作品と出合うチャンスがあります。
また、アーティストが制作した作品だけでなく、他者とのコラボレーション=協働をアートとして楽しむことも、今の時代の特徴。例えば、巨大彫刻《セレブレーション》シリーズで知られるジェフ・クーンズと、フランス・リモージュを代表する磁器ブランド「ベルナルド」との協働。もうひとつの新たな価値が生まれていくのです。
【KEYWORD5:女性アーティスト】のびやかに羽ばたく自由な作品が魅力
現代アートの重要なテーマのひとつに、ジェンダー問題があります。冒頭でも触れましたが、第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展のメイン展示では、女性とジェンダー・ノンコンフォーミング(性に関する旧来の固定概念に合致しない人)のアーティストが参加者の9割を占めました。このことからも、今、アート界でのジェンダーバランスが大きく変わろうとしていることがわかります。
「日本でもここ数年、女性アーティストの活躍はめざましいと感じます。なかでも片山真理さん、近藤亜樹さん、西條茜さんは、1980年代生まれ、U‐35の注目株。セルフポートレイト、絵画、陶造形と、異なる表現方法で、それぞれにインパクトの強い作品を発表し続けています」(中村さん)
「女性」とか「日本人」とか、片山真理の場合は「四肢に障害がある」とか、そして今回のヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞したシモーヌ・リーならば「黒人」といった、「アーティスト」という肩書きの前に付けられがちな言葉は、どうしても存在します。そしてそこに、「社会とつながる」現代アートの意義があるのも事実です。しかし、既存の枠を取り払ってもなお、観る者を釘づけにする圧倒的な力があることが、彼女たちの作品のすごさなのです。
- PHOTO :
- 篠原宏明
- EDIT&WRITING :
- 剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)