メールや郵送で何かを「送る」ことを丁寧に相手に伝えるフレーズ、「送らせていただきます」。謙譲語を使った正しい日本語ですが、使用には少々注意が必要です。「させていただく」というフレーズ本来の意味を理解し、より自然で洗練された敬語表現をマスターしましょう。
【目次】
【「送らせていただきます」を正確に理解する「基礎知識」】
■意味は?
「送らせていただきます」は、「送ります」という意志を丁寧に伝える謙譲表現として広く使われています。メールやFAX、あるいは口頭で、文書や物品を相手に送る際に使用できます。
■「送らせていただきます」は正しい敬語?
「送らせていただきます」は、目上の人にも使える正しい敬語表現です。
■ただし…「させていただく」の乱用に御用心!
・「素晴らしい演技に、感動させていただきました!」
・「このたび、結婚させていただきます」
「送らせていただきます」は、「送ります」を意味する謙譲表現です。敬語としては正しい語句ですが、「させていただく」は名詞や動詞に付けるだけで簡単に謙譲表現になることから、上記例文のようにも使う人が増え、「『させていただく」の乱用はうっとうしい」「わざとらしい」といわれるようになりました。
改めて、「させていただく」の意味を確認してみましょう。
『敬語マニュアル』によれば、もともと「させていただく」は、4つの意味で使われていました。
1.相手の許可を得て〜する (例文)「お言葉に甘えて休ませていただきます」
2.相手のおかげで〜できた (例文)「いい勉強をさせていただきました」
3.自分の行為を丁寧に言う (例文)「ひと言、お祝いを述べさせていただきます」
4.相手の意志に関係なく〜する (例文)「頭が痛いので帰らせていただきます」
本来、3.の用法は最も丁寧な謙譲語として、改まった場面で使われてきましたが、現在では日常的なシーンで乱用される傾向にあることから、「うっとうしい」「わざとらしい」という意見が出てきたようです。
文化審議会答申の「敬語の指針」によれば、「させていただく」は 基本的には(1)「相手側や第三者の許可を受けての行動」であり、(2)「そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合」に使用されるのが適切とのこと。従って、(1)(2)の条件を満たしていない状態で用いられるのは、不適切に感じられる場合もあるのです。
前述の「素晴らしい演技に、感動させていただきました!」「このたび、結婚させていただきます」といった使い方に違和感をもつのは、こうした理由からです。「感動」や「結婚」に、第三者の許可は不要ですものね。
「させていただきます」の使用の目安としては、「相手に直接働きかける動作以外に使わない」と覚えておくと、すっきりとした文章になります。
・感動させていただきました→感動(いた)しました。
・結婚させていただきました→結婚(いた)しました。
■「頂きます」と「漢字」で書くべき?
「頂く」という漢字は、「もらう」の謙譲語、「食べる・飲む」の謙譲語を表します。
「送らせていただく」のように使用する場合、「いただく」は「〜してもらう」という意味の謙譲語の補助動詞として使われており、漢字本来の意味はもっていません。「公用文における漢字使用等について」では、補助動詞はひらがなで表記することになっているため、ビジネスシーンでも「送らせていただきます」とひらがなで表記するのが正解です。
【「送らせていただきます」の使い方がわかる「例文」5選】
「送らせていただきます」は、先方に何かを「送ります」という意志を丁寧に伝えたいシーンで広く使われています。しかしながら本来「させていただく」が「相手の許可を得ての行為」に用いられるのが適切なフレーズであることを考慮すると、取引先などになんの前触れもなく「アンケートを送らせていただきます」などと送りつけるのは、マナー違反に当たるといえるでしょう。何らかのやり取りがあったあとに「送らせていただく」という流れが自然ですね。
■1:「お言葉に甘えて、アンケートを送らせていただきます。お手数ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
■2:「ご要望のあった商品を○日必着で送らせていただきます」
■3:「来週の会議で使用する資料を送らせていただきました」
■4:「会議修了後、御社まで車で送らせていただきます」
「送る」という語は、ある所まで人に付き添うときにも使われますが、この場合は「会議終了後、御社までお送りいたします」のほうが日本語として自然ですね。
■NG:「先日ご説明させていただいたサンプルを送らせていただきました」
ひとつの文中に「させていただく」が2度使われているのは、しつこい印象となります。「先日ご説明したサンプルを送らせていただきました」が適切です。
【洗練された印象をつくる「言い換え」表現】
「させていただく」は、どんな動詞にも付けられる便利な敬語表現ですが、自分では丁寧に表現しているつもりでも、使いすぎるとわずらわしく感じる人もいるようです。
相手の許可をとって行動するとき以外の謙譲語は、「お(ご)〜する」「〜いたす」で表現したほうが、すっきりとした印象になることも多いものです。ぜひ覚えておきましょう。
■「お送りします」 ■「お送りいたします」 ■「ご送付します」
■「ご送付いたします」 ■「発送いたします」 ■「ご郵送します」
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「送らせていただきます」は正しい敬語表現です。ただし「させていただく」の連発は、うわべだけの不誠実な印象を与えることもあるため控えましょう。また、「送らさせていただきます」は「さ入れ言葉」とされる誤った表現です。「丁寧な物言いを心掛けよう」とするあまり、間違った表現をしていないか、改めて確認することも大切ですね。
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- Precious.jp編集部
- 『敬語マニュアル』(南雲堂)/『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社)/『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社)) /『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書) /『印象が飛躍的にアップする大人の「言い方」練習帳』(総合法令出版) :