いたるところで「~させていただきます」というフレーズを耳にするようになって久しい今、改めて「それって正しい敬語なの?」「させていただきますのオンパレードで、まったく敬意も誠意も感じない」と思うことはありませんか? 今回はこの「させていただきます」を使用した、ちょっと不安な敬語表現「お渡しさせていただきます」について、スッキリ解決させましょう。

【目次】

「お渡しさせていただきます」は二重敬語?
「お渡しさせていただきます」は二重敬語?

【「お渡しさせていただきます」ってどんなフレーズ?】

■意味

まずは、「お渡し」と「させていただきます」というふたつの語からなる「お渡しさせていただきます」を詳細に見てみましょう。

「お渡し」のもととなっている「渡す」という動詞は、ビジネスシーンでは、(1)書類や品物などなんらかの物品をこちらからあちらへ移動させる、(2)自分の持っているものや権利などをほかの人に与える、というケースで使われますね。「渡す」は「人や荷物を舟で向こう岸に運ぶ」ことをいったことから、「舟で人を渡す」「橋を渡す」「神仏の力で人々を救う」などの意味もあります。

その「渡す」という自身の行為を、ビジネスシーンにふさわしいように謙譲表現にしたのが「お渡しする」。会話やメールなどでは「お渡しします」や「お渡しいたします」などの丁寧語として使用します。

■もしかして誤用?まわりくどい?

「お渡しさせていただきます」というフレーズは正しい日本語ですが、実は注意が必要なケースも少なくありません。

イベント会場で「記念品をお渡しさせていただきますので、お帰りの際に出口で半券と引き換えてください」という案内があったらいかがですか? この連載で“大人の語彙力”を学んでいる人なら、「違和感あり?」と気づくのではないでしょうか。「~させていただく」という表現は、「相手の許可が必要なシーン」で「その行為によって自分側が恩恵を受ける場合」に主に使うフレーズです。この例の場合は「記念品を渡す」のはその時点でこちら側が恩恵を受けることではないので、「記念品をお渡ししますので、お帰りの際に出口で半券とお引き換えください」や、「記念品をご用意しましたので、よろしければお持ち帰りください」のほうがしっくりきます。

「お渡しさせていただきます」を使いたくなったら、(1)相手の許可を得る必要なケースかどうか、(2)相手に渡すことで恩恵や利益を受けられるか、ということを考えるべきということです。


【ビジネスシーンで使える「渡す」の「正しい敬語例文」5選】

ビジネスシーンでは、さまざまなものを相手に「渡す」という行為は日常的に行われています。ビジネス仕様にした例文を挙げてみましょう。

■1:「明日お伺いします際に、見積書をお渡しさせていただきますので、ご検討くださいますようお願い申し上げます」

■2:「先ほどお渡ししました資料をご覧になりながらお聞きください」

■3:「部長宛てに荷物が届いておりますので、帰社されましたらお渡しいたします」

相手の行為についての敬語例文もチェックしておきましょう。

■4:「先日部長がA社にお渡しになられましたサンプルについて、先方から大変好評をいただきました」

■5:「先日Bさんが参加者に渡された資料について、おうかがいしたいことがございます」


【「渡す」と同じ意味で使える「言い換え」】

最初に説明したように、「渡す」という言葉にはさまざまな意味があります。ビジネスシーンでは、品物や書類などを渡したり渡されたりといったケースが多いですね。また、実際に人の手から手へというケースだけでなく、郵送や宅配便を使ったり、メールなどでも…。「お渡しする」を別の言葉やフレーズを用い、上手に言い換えてください。

■お届けする  ■お送りする  ■お持ちする  ■お配りする

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自分の行為を丁寧に表現する際によく使われている「お渡しさせていただきます」の使用には、注意が必要と心得て。まわりくどい敬語表現や、二重敬語などが乱用されている今こそ、言い換え表現を用いたわかりやすい敬語を使いたいものですね。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』南雲社/『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』(角川新書)/『敬語ネイティブになろう!!』(くろしお出版) :