「禍福は糾える縄の如し」は広く知られた故事成語ですが、すらすらと読めたでしょうか?これは、「苦あれば楽あり」という意味をもち、座右の銘にしている人も多い言葉です。同じ意味でも「苦あれば楽あり」よりも知的に聞こえますよね。これぞ教養! 今回は「禍福は糾える縄の如し」の意味や使い方、例文・類語を紹介します。故事成語を知っていると、自分の発言に説得力をもたせたいときやスピーチを引き締めたいときに、効果的に用いることができますよ。一緒に学びましょう!
【目次】
- 「禍福は糾える縄の如し」を深く理解するための【基礎知識】
- 「禍福は糾える縄の如し」の理解を深める「例文」4選
- 似た意味をもつ「四字熟語」は?「類語」「言い換え」表現
- 「禍福は糾える縄の如し」の対義語は?
【「禍福は糾える縄の如し」を深く理解するための【基礎知識】 】
■「読み方」は?
「禍福は糾える縄の如し」の読み方は、「かふく は あざなえる なわ の ごとし」です。
■「意味」を端的にいうと「苦あれば楽あり」ってこと!
では語句を細かく見ていきましょう。「禍福」とは「災難と幸福。不運と幸運」を意味します。「コロナ禍」という言葉で「禍」の漢字を覚えた人も多かったのでは?「糾う」には「物と物を交差させる。組み合わせる。撚(よ)り合わす」という意味があり、「糾える縄」で「撚り合わせた縄」を示しています。「如し」は「〜のようだ。〜に似ている」という意味の比況の助動詞です。以上のことから「禍福は糾える縄の如し」は、「人の幸福と不幸は隣り合わせで、まるで撚り合わせた縄のように入れ替わりに訪れるものだ」という趣旨の故事成語です。
■「由来」と「語源」
「禍福は糾える縄の如し」の出典は「史記」という漢書です。前漢の武帝の時代に司馬遷によって編纂された歴史書「史記」の「南越列伝」には、「因禍為福、成敗之転、譬若糾纏(禍に因りて福を為す。成敗の転ずるは、例えば糾える縄の如し)」という記述があります。「成敗」は成功と失敗のことです。
■「故事成語」の定義をご存じですか?
ところで、「『ことわざ』と『故事成語』ってどう違うの?」と思ったことはありませんか?「ことわざ」とは、教訓や知識、風刺などが、時を経て言い伝えられた言葉のこと。気づきやためになる教えが、簡潔な言葉に集約されています。「故事成語」の「故事」とは、大昔に起きた出来事やかつて存在したもののこと。遙か昔のことでありながら、今でも由来がはっきりしている事件、事項、主に中国の古典にある逸話のことです。この故事を語源とする慣用語句のことを「故事成語」または「故事成句」と呼ぶのです。「故事成語」の代表的な出典は「史記」のほか、「論語」や「孫子」など多数あります。
また、「故事成語」のなかには、「矛盾」や「完璧」のように日本語の言葉として普通に使われるようになったものや、「虎の威を借る狐」や「井の中の蛙、大海を知らず」のように、日本語のことわざとなってすっかり定着しているものも少なくありません。ちなみに「慣用句」は2語以上の単語が結びついて意味を表現する語句のこと。「ことわざ」や「故事成語」がひとまとまりのフレーズとして固定されているのに対して、「慣用句」は使われる状況に応じて語尾などが変化します。例えば「なんとかして一矢報いましょう!」などと使われたら、それは「慣用句」です。
【「禍福は糾える縄の如し」の理解を深める「例文」4選】
ではビジネスシーンでは、実際に「禍福は糾える縄の如し」はどのように使われるのでしょうか。
■1:「一見華やかに思える業界であっても、実態を見ていると、禍福は糾える縄の如しという気がいたします」
■2:「予期せぬトラブルで絶体絶命の危機かと思われたが、結果的にはこのトラブルが幸いして以前より事態が好転した。まさに禍福は糾える縄の如し、だな」
■3:「幸いにも今回は自分の企画が採用されたけれども、禍福は糾える縄の如し。プランが実現するまで油断は禁物だ」
■4:「かなりの痛手ではあるけれど、禍福は糾える縄の如しというし、この失敗から得たものは多いはずだから、腐らずに頑張ろう」
例文の3は「好調のとき」、4は「トラブルに見舞われたとき」。調子がよいときは油断しないように自分を諫め、不調のときは希望を失わず気持ちを奮い立たせるために、「禍福は糾える縄の如し」という言葉は使われます。
【似た意味をもつ「四字熟語」は?「類語」「言い換え」表現】
「禍福は糾える縄の如し」には、言い換え可能な言葉が数多くあります。いくつかご紹介しましょう。
■「禍福糾纆」
四字熟語で表現すると「禍福糾纆」と書き、(かふくきゅうぼく)と読みます。「糾纆」は撚り合わせた縄を意味します。
■「(人間万事)塞翁が馬」
「淮南子』の「人間訓」を出典とする故事成語です。昔、中国の北辺の老人(塞翁)の飼っていた馬が逃げたあとに、立派な馬を連れて帰ってきました。老人の子はその馬から落ちて足を折ってしまいましたが、そのために戦争に行かずに済みました。このように、「人生の吉凶は簡単には定めがたい」ことを指して「塞翁が馬」といいます。
■「沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり」
「長い人生のうちには悪いときもあればよいときもある。悪いことばかりが続くものではない」という意味のことわざ。
■「苦あれば楽あり」
「苦しいことのあとには楽しいことがある。また、苦労は必ず報われて安楽となる」という意味。
■「明日は明日の風が吹く」
「今日はどんなことがあっても、明日はまた別のなりゆきになる。くよくよと心配しても始まらない」という考え方を示すことわざ。「禍福は糾える縄の如し」よりも楽観的なニュアンスを含んだ言葉で、「明日のことは明日案じよ」という示唆もあります。
【「禍福は糾える縄の如し」の対義語は?】
■順風満帆 ■諸行無常
「禍福は糾える縄の如し」の対義語を挙げるのは難しいのですが、吉凶など、好不調の波がないという意味では「物事が順調に思いどおりに運ぶこと」のたとえである「順風満帆」が挙げられます。また、「吉凶が代わる代わるに訪れる」とは反対の意味で、「万物は移り変わるもので、永遠・不変なものは何もない」という意味では「諸行無常」を挙げることができるかもしれません。
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「苦しいことばかりは続かないし、楽しいことばかりも続かない」という意味の「禍福は糾える縄の如し」は、人生の辛い局面では希望を見いだす励みとなり、幸運な時期には油断のないよう自分を戒めてくれる言葉です。ビジネスには、思わぬ失敗やトラブルなどの不運もつきもの。嫌な出来事が重なったときは、この言葉を思い出してみてはいかがでしょうか。
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社)) :