【目次】
- 「存じ上げる」の意味は?「存じる」との違い
- そのまま使える「例文」
- 「存じ上げております」「存じております」の違いと「使い分け」
- 「存じ上げておりません」は正しい敬語?「否定形」
- 「言い換え」「類語」表現
【「存じ上げる」の意味は?「存じる」との違い】
■「存じ上げる」の意味
「存じ上げる」は「知る」「思う」を意味する謙譲語の動詞です。「存じる」と「上げる」、ふたつの謙譲語から構成されているという説もありますが、「存じ上げる」でひとつの動詞と考えるのが一般的です。
■「存じる」との違い
まずは「敬語」のおさらいから。
現在、日本語の敬語表現は5種類に分けられています。これは2007年に文化審議会が答申した「敬語の指針」に沿って決められたため、1990年より以前に生まれた人の多くは、【敬語は「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」の3種類】と学習したはず。少しわかりにくいですが、知識のアップデートは大切です!
5種類の敬語とは、「尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ・丁寧語・美化語」。大きなポイントは、以前の学校教育ではひとつにまとめられていた謙譲語が「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ」に分けられたことです。「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ」は、どちらも自分側の動作をへりくだって表しますが、「謙譲語Ⅰ」は「動作の対象(行為が向かう先)を敬う」謙譲語で、敬意の対象が明確です。「存じ上げる」は「謙譲語Ⅰ」に属し、知っている相手に対する敬意を表現することができます。これに対し、「謙譲語Ⅱ」は動作の対象が特に何であるかを考慮しない表現です。例をあげてみましょう。
謙譲語Ⅰ 謙譲語Ⅱ
・知る 存じ上げる 存じる
・行く 参上する 伺う 参る
・言う 申し上げる 申す
「謙譲語Ⅰ」と「謙譲語Ⅱ」の違いを、例文でみてみましょう。
(1)御社のご評判は、かねがね存じ上げております。(謙譲語Ⅰ)
(2)一般常識の範囲で、ごく基本的な情報は存じております。(謙譲語Ⅱ)
(1)は明確に「御社」に対する敬意を表していますが、(2)は敬意の対象が何であるかを特に考慮しない表現です。例えば「知る」の謙譲語Ⅱの「存じる」は、言い方をより丁重にして、聞き手にいっそうの敬意を示すことを主な目的とする謙譲語と言えます。
【そのまま使える「例文」】
■1:「〇〇さまにつきましては、以前よりお名前を存じ上げておりました」
■2:「御清祥にてお過ごしのことと存じ上げます」
■3:「△△さんを存じ上げているのですが、御社の方ではありませんか?」
■4:「申し訳ございませんが、◇◇さまについては存じ上げておりません」
【「存じ上げております」「存じております」の違いと「使い分け」】
「存じ上げております」と「存じております」は、それぞれ、「存じ上げる」と「おります」、「存じる」と「おります」というふたつの敬語を接続助詞「て」でつなげた、「敬語連結」と呼ばれるものです。敬語の誤用としてたびたび例に挙げられる二重敬語ではなく、正しい敬語の使い方です。ほかにも「お読みになっていらっしゃる」「ご案内して差し上げる」なども「敬語連結」にあたります。
「存じ上げております」と「存じております」の意味の違いや使い分けは、先に述べた「存じ上げる」と「存じる」の使い方に準じますが、少しわかりにくいので、例文でご説明しましょう。
■OK:「御社のご評判は、かねがね存じ上げております」
■NG:「御社のご評判は、かねがね存じております」
敬意の対象が「御社」と明確な場合は、「謙譲語Ⅰ」である「存じ上げております」を使います。
■OK:「技術者として、この件に関する基本的な情報は存じております」
■NG:「技術者として、この件に関する基本的な情報は存じ上げております」
敬意の対象が明確ではなく、「聞き手」への敬意を示す場合は「謙譲語Ⅱ」の「存じております」を使います。
■OK:「一連の報道については、存じております」
■NG:「一連の報道については、存じ上げております」
こちらも同様に「謙譲語Ⅱ」の「存じております」が正解。
【「存じ上げておりません」は正しい敬語?「否定形」】
「知らない」「わからない」と否定を意味する「存じ上げない」という言葉。こちらも敬意の対象が明確な、正しい謙譲表現です。ただし、例えば相手からの「ご存じですか?」という問いかけに対し、「存じ上げません」や「存じ上げておりません」と対応すると、少々突き放した印象に…。相手によっては「突き放された」と感じてしまう恐れもあります。そういった場合には、[例文■4]のように、「申し訳ございませんが」や「恐縮ですが」などの“クッション言葉”を活用すると、ニュアンスが和らぐのでおすすめです。
【「言い換え」「類語」表現】
■「類語」「言い換え」を使った肯定例文
・〇〇さまのお名前は承知しております。
・〇〇さまのお名前はうかがっております。
・〇〇さまのお名前はお聞きしております。
■「類語」「言い換え」を使った否定例文
・〇〇さまというお名前は承知しておりません。
・〇〇さまという方についてはわかりかねます。
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時折、「存知上げる」や「ご存知」という表記を見かけます。どちらも「存ずる(存じる)」が変化した謙譲語ですから、それぞれ「存じ上げる」、「ご存じ」の表記が正解。間違いやすい「存じ上げる」と「存じる」の違いもしっかりと理解して、知識のアップデートを目指しましょう!
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『たったひと言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書) :