雑誌『Precious』では「My Action for SDGs 続ける未来のために、私がしていること」と題して、持続可能なよりよい世界を目指す人たちの活動に注目し、連載しています。

今回は、「Singular Perturbations」代表取締役CEO 梶田真実さんの活動をご紹介します。

梶田 真実さん
「Singular Perturbations」代表取締役CEO
(かじた まみ)高校2年修了後、千葉大学へ女性初となる飛び入学。東京大学大学院博士号取得。大阪大学、名古屋大学で研究に従事。イタリア滞在中に犯罪予測システムを開発、’17年に「Singular Perturbations」設立。

犯罪を予測するシステムを独自開発物理学の考え方で世の中の役に立ちたい

8年前、イタリア・ボローニャの目抜き通りで、梶田さんはスリの被害にあった。日曜の午後1時過ぎ、人通りもあるなかで、である。

「ところが、実は日曜の午後というのは、地元の人はほとんど自宅で過ごし、出歩いているのは観光客、という時間帯でした。スリにとっては成功率が高く、だからこそ繰り返し犯行が起こる。警察で『典型的なケース』だと言われました。しかし、典型的であるなら、逆に予測も可能だということ。それで、犯罪予測(※)の独自アルゴリズムの開発を思いついたんです」

元は、統計物理を専門にし、大学でガラス状態の研究をしていた研究者だ。犯罪予測とは異分野のようでいて、「複雑な現象を数値化し本質を見出すのが物理学」だから、通じているのだと語る。梶田さんは、それまで経験や勘で積み上げられてきた「犯罪予測」を可視化し、誰にでも、高精度で共有できるシステムを開発した。

「スリ被害に遭ったのは夫の転勤に伴ってイタリアに滞在していたときで、すぐに開発をスタートし、帰国後の’17年に起業しました。でも、起業そのものよりは、自分が専門とする物理の力で社会をよくすることができれば、という気持ちが大きかったんです」

犯罪予測システム「クライム・ナビ」によって犯罪が高確率で起こる日時と場所を絞り込み、そこを重点的にパトロールすれば、犯罪抑止効果も高まる。梶田さんのシステムを使って防犯パトロールを最適化するサービスは、国内の複数の自治体・警察・警備会社で検証され、成果を上げている。

「今後は、旅行者向けのシステムも整えていきたい。世界中で24時間365日起こっている犯罪を、少しでも減らすことができれば」

【SDGsの現場から】

●国の研究プロジェクトで開発した基礎研究をもとに社会実装

インタビュー_1
「IoT Lab Selection(先進的IoTプロジェクト選考会議)」で独自システムをプレゼン。

●ホンジュラスやブラジルなど中南米でも有効性を検証

インタビュー_2
ブラジル・ベロオリゾンテ市警団との会議の様子。犯罪件数の多い国では予測効果も大きい。

※犯罪予測とは…犯罪発生件数が日本とは桁違いの海外では、犯罪に関する研究にも力を入れている。北米ではAIの活用で事件が激減した例もある。

PHOTO :
望月みちか
EDIT&WRITING :
正木 爽(HATSU)、喜多容子(Precious)