旅先では日常の喧騒を離れて、静かなおこもり時間を過ごしたい。そんな人におすすめなのは秘湯の宿です。自然のなかにひっそりと佇む湯宿は、大地からの贈り物である温泉の恩恵をダイレクトに浴びられるスポット。それに加えて、息を呑むような日本の原風景、地元の食材を生かした心づくしの料理など、秘湯の宿はアクセスの不便さを補ってあまりまる魅力にあふれています。

行けば必ず感動する。わざわざ足を運びたくなる。そんな名宿を温泉ジャーナリストの植竹深雪さんにピックアップしてもらいました。今回ご紹介するのは、鹿児島県霧島市にある「忘れの里 雅叙苑」です。

植竹深雪さん
温泉ジャーナリスト
(うえたけ みゆき)全国各地の2500スポット以上を巡っている温泉愛好家。フリーアナウンサー、温泉ジャーナリストとして、テレビ番組をはじめ、さまざまなメディアで活躍中。著書に『からだがよろこぶ! ぬる湯温泉ナビ』(辰巳出版)がある。
公式サイト

日本の原風景を感じさせる高級宿で極上の「ラムネの湯」に癒される

日本の原風景の面影を残し秘湯感が漂う「忘れの里 雅叙苑」。
日本の原風景の面影を残し秘湯感が漂う「忘れの里 雅叙苑」。

鹿児島空港から車で約15分。天降川沿いに静かに佇む「忘れの里 雅叙苑」は、茅葺屋根の古民家を移築して造られた湯宿。敷地内に「この道 にわとり優先」の看板が立ち、放し飼いの鶏が闊歩する自然豊かな空間にて、名湯と滋味あふれる料理をたっぷり堪能できます。

敷地内で鶏を発見
敷地内で鶏を発見
おこもりステイが叶えられる離れの客室
おこもりステイが叶えられる離れの客室

「雅叙苑では全客室が離れにあり、おこもりステイを満喫するのに理想的。緑豊かな敷地内に茅葺屋根の古民家が点在しており、さながら昔話の世界を疑似体験できるテーマパークのよう。外観は日本の原風景を感じさせる素朴さがありつつ、客室内部は一転して優雅そのもの。今でこそ露天風呂付きの客室のある高級旅館は珍しくありませんが、雅叙苑はその先駆者だといわれており、部屋から一歩も出ずに極上の湯をとことん味わい尽くせる仕様です。

私が泊まった部屋では、湯舟のすぐそばにベッドが設置されており、温泉から出た直後にベッドにダイブできるという夢のような環境で、一種の放電状態といいますか、心を無にして日頃の疲れをリセットできました」(植竹さん)

湯舟のすぐそばにベッドが…。
湯舟のすぐそばにベッドが…。

「泉質は、ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉。さまざまな成分が複雑にブレンドされていることによって、肌の汚れを落としながら保湿効果も期待でき、ぽかぽかじわじわ温まり感もあるというマルチタスクな湯で、それを客室で独り占めできるのは贅沢の極みではないでしょうか」(植竹さん)

広い畳座敷と半露天の内湯を備えた和室スイート。
広い畳座敷と半露天の内湯を備えた和室スイート。
客室のお風呂。
客室のお風呂。

「そして、雅叙苑を語るうえでもうひとつ外せないのは貸切風呂『ラムネの湯』。ここだけほかとは源泉が異なり、泉質は二酸化炭素泉です。日帰り利用は不可で、宿泊者しか入ることができません。

湯舟の真下から温泉が湧いてくる希少な足元湧出の湯で、シュワシュワ泡付きのぬる湯が極上! 炭酸ガスの気泡で血流が促進され、疲労回復効果が期待できます。自然の静寂に包まれて、鳥のさえずりと川のせせらぎしか聞こえない…。そんな秘湯感もあいまって、鮮度抜群の湯に身も心も癒されました」(植竹さん)

男女別大浴場「建湯」。
男女別大浴場「建湯」。
シュワシュワの泡付きがたまらない「ラムネの湯」。
シュワシュワの泡付きがたまらない「ラムネの湯」。

直営農場で採れたての食材を使った料理は体が喜ぶヘルシーな味わい

直営工場で採れたての新鮮な野菜が自慢。
直営農場で採れたての新鮮な野菜が自慢。

「忘れの里 雅叙苑」では、薩摩の郷土料理も自慢です。

「直営の養鶏場や自家菜園の採れたての食材を用いており、肉も卵も野菜も新鮮そのもの。味付けは控えめで、素材本来の香りや旨味に感動させられます。

特に、地鶏の衝撃なおいしさは従来の鶏肉観を覆すほど。軽く炙った状態で甘醤油をつけていただいたのですが、旨味といい歯ごたえといい、言葉に尽くすことができません。それもそのはず。広々としたノンストレスな環境で元気に走り回り、独自に開発された発酵飼料を食べて育った地鶏だそうで、素材のポテンシャルが違います。また、無農薬野菜はどれもみずみずしく、自家製の豚味噌をつけるだけでごちそう!」(植竹さん)

自家農場で育った地鶏の刺身が絶品。
自家農場で育った地鶏が絶品。

「朝食では、薪から火を起こして丁寧に炊いたご飯はふっくら。目の前で焼いてくれる有精卵の目玉焼きは濃厚。夕食も朝食も決して奇をてらわないメニューばかりだけれど、シンプルだからこそ素材勝負で真に贅沢な日本の食卓はここにあり!…と、しみじみ感じ入りました」(植竹さん)

朝食は好きな魚を好みの焼き加減で…。
朝食は好きな魚を好みの焼き加減で…。

以上、「忘れの里 雅叙苑」をご紹介しました。ノスタルジーとラグジュアリーの融合したお宿で極上の湯に浸かり、新鮮な食材を使った料理を堪能すれば、身も心もリフレッシュできるはず! 次の旅先候補のひとつに加えてみてはいかがでしょうか?

※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

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PHOTO :
深尾大樹(日本デザインセンター)
WRITING :
中田綾美
EDIT :
谷 花生