なぜカミラ夫人なのか? そこに手がかりは何もなかった
なぜダイアナ妃ではなく、カミラ夫人なのか? それは長い間、どうしても解けない謎として、世界中の人々を悩ませたはずだ。
当時のチャールズ皇太子とカミラ夫人との不倫が日本でも報道されるようになった頃、おそらくは本国よりももっと誇張された形で、ダイアナ妃は同情すべき悲劇の人、カミラ夫人は憎むべき悪女として語られていたから、私たちは余計に悩み苦しんだ。一体全体なぜカミラ夫人なの?と………。
正直、何の手がかりもなかった。なのに「カミラゲート」とも呼ばれる戦慄の盗聴事件……「君の下着の中に住みたい」とチャールズがカミラに言ったとされる、まるでテレフォンセックスのような生々しい会話の内容が明るみに出てしまうなど、それこそ嫌悪感を持たざるを得ないような情報はさらに積み重なって行った。
それでも2人の不倫関係は続き、ダイアナ元妃とは離婚、またあってはならないことだが、ダイアナ元妃が不慮の死を遂げる。結果として関係を阻む障害は完全になくなって、2人は晴れて結ばれることになるのだ。
もちろん国民の理解は全く得られず、カミラは“英国で最も嫌われた女”と言われ、英国民へのアンケートでは「王妃としては認められない」という声が、9割を超えたという。ただモノの道理で、時とともに次第に人々の心が軟化して行くのが、遠い国からも感じられた。
ご存知のように、エリザベス女王も逝去する直前に、カミラ夫人を王妃として認めてあげてほしいという言葉を残している。以前は「あの性悪女!」と忌嫌い、カミラ夫人が出席するイベントや会合には決して姿を見せなかったとさえと言われるのに。
だから尚更、なぜカミラ夫人なのか? これを冷静な目で分析したいと思ったわけである。
会話の中心になるほど、話題豊富で話し上手?
事実とは異なると王室が声明を出しながらも、状況からして多くがフィクションとは思えないNetflixの『ザ・クラウン』は、幸い多くのシーンでその謎を解く材料を提供してくれている。
例えば、チャールズがカミラとの会話を存分に楽しむシーン。仲間たちの会話でも、カミラは話題の中心になるほど話し上手であることがそこで描かれていた。子どもの頃から読書家で、博識。加えてウィットに富んだジョークを常に口にして周りを沸かせるようなタイプであり、とりわけチャールズ皇太子を笑わせるのが得意であるらしい。
逆にチャールズがダイアナとの会話を楽しむようなシーンはひとつもなく、2人になるといつも口喧嘩になることが描かれる。それどころか、「会話も価値観もこれほど合わない女といる苦痛が君に分かるか?」と、身近な人間に語るシーンまでが差し込まれるのだ。
まさしく価値観の相違、性格の不一致……なるほどそれは、謎を解く決定的な理由になるのだろう。
私たちはダイアナ妃の美しい容姿とチャーミングな言動に心を奪われてきたけれど、逆に言えば、国民の、いや世界中の人々の人気をすべて妻に持っていかれるチャールズにしてみれば、容姿も魅力も嫉妬を生むばかりで何の意味もなかったのかもしれないのだ。
決定的だったかもしれないのは、ロイヤル・オペラ・ハウスで、ダイアナ妃が自ら舞台に上がり、サプライズでプロのダンサーと“アップタウン・ガール”を踊ったこと。会場はどよめき、驚き、大喝采。しかしチャールズは、バルコニー席で隣にいたはずのダイアナ妃が、いつの間にか舞台で頭の上まで脚を上げて踊っている姿を見て、顔を引き攣らせている。ちなみにここはノンフィクション。
この後、王室の人間にあるまじき行動だとまた口喧嘩になったことが『ザ・クラウン』に描かれており、誰かが見ていたわけでは無いから、その部分はフィクションに他ならないが、事の顛末としては自然の成り行き。妻のそういう部分が我慢ならなかったということなのだ。
男性をアッという間に惹きつける特別な魅力とは?
それにしても、2人が出会った日、チャールズはカミラに一目惚れしたと伝えられているけれど、その理由は、ぜひ知りたいところ。イギリスのタブロイド紙はそんなふうに、カミラには男性をあっという間に引きつけてしまう特別な魅力があったと書いているが、そもそもその特別な魅力ってなんなのだろう。
いくつかの報道を見る限り、それは、相手が誰であろうと、媚びることもオドオドすることもなく、自然体でありながらアッという間に相手の懐に入っていく、言うならば“人たらし”であること。
特に皇太子のような立場では、多くの女性が顔色を見たり、かしづいたりしがち。そんな中でカミラは、ある意味堂々と人なつこく対等な口をきいたと言われる。確かに圧倒的な地位あるものほど、平然とタメ口を聞いてくる相手に魅力を感じたりするとはよく言われること。なるほどカミラはそのタイプだったのかもしれない。
加えて、人生を楽しむことが大好きな女性であるという証言もあり、共に生きていきたいと思わせる人であるのは確か。
最初の夫も社交界の人気者で、たくさんの女性を虜にしていたと言われるから、そういう求心力ある男性に愛され選ばれるのも、女性的な魅力以上に、人間的な魅力によるところが大きいのだろう。
ただ、それだけではない賢さを持った女性であったのは、チャールズと結婚してからの立ち回り方に明らか。決してでしゃばらず、常にチャールズの後を笑顔で歩いていくようなわきまえた女性であり続けた。それがエリザベス女王を始めとするロイヤルファミリーの信頼を徐々に獲得して行く要因になったと思われる。
カミラ夫人はなぜ突然、美しくなったのか?
そしてもう一つ、チャールズとの婚約が発表になり、静かな結婚式をしたあたりから、カミラが突然美しくなったこと。気づいた人は少なくないはずなのだ。相当に美容医療の力を借りたという噂もあるけれど、ダイエットにボトックス、レーザー治療、そして歯並びを整え、歯のホワイトニングをしたとか。
口元が美しくなったことで、以前よりも清潔感が増したのは紛れもない事実。しかも相当にお金をかけたのか、どこにも不自然さはなく、ともかくこの人、こんなに美しかっただろうかとハッとさせられる日が多かった。
そして見事にセンスの良いロイヤルファッション。凄腕のスタイリストがついているに違いないが、持ち前の人間力に加え、外見における好感度もみるみる上がっていった。それもカミラ夫人の好感度の低さは、将来の英王室存亡に関わる大問題だけに、惜しみなくそこにお金が使われたという見方がもっぱらなのだ。
そもそもチャールズはずっと乳母に預けられ、ひどく寂しい幼少時代を送った上に、寄宿舎時代は壮絶ないじめを受けていたと言われる。成人してからもテディベアを大切にし続けたほど、誰かに守られたいという思いが非常に強かったに違いない。それを大きな懐で包み込んできたのがカミラだったとしたら、その一途な愛も納得なのである。
だからと言って、ダイアナ妃の輝きが曇る事は決してない。やはりダイアナ元妃は世界中の人々にとって永遠のミューズ。ひたすらチャールズに愛されたいピュアな心の持ち主だったのを忘れることはないだろう。
でも、主役をチャールズにするならば、たった1人の女性をここまで深く愛し続けたことは、今振り返れば感動に値する。そして、過去に例がないほど嫌われ批判されながらも、強い心でチャールズを支え続けたカミラ妃には、感服せざるをえない。
人の評価は、その人が生きた人生の全てを見てからの総合点。であるならば、カミラ妃のこれからを見続け、さらに冷静に判断すべきなのかもしれない。
- TEXT :
- 齋藤 薫さん 美容ジャーナリスト
- PHOTO :
- Getty Images
- EDIT :
- 渋谷香菜子