主に対面での会話で用いられる「ございますでしょうか」というフレーズ。二重敬語だという指摘を受けることも多い表現です。今回は「ございますでしょうか」が二重敬語と言われる理由を徹底解説。もしかしたら、あなたが日常使っている「あの言葉」も、二重敬語かもしれませんよ? 言い換え表現もご紹介します。

【目次】

「ございますか」で、十分丁寧な表現です。
「ございますか」で、十分丁寧な表現です。

【「ございますでしょうか」は「敬語」として正しい?】

■まずは「意味」から

それでは「ございますでしょうか」を文法的に考えてみましょう。

「ございますでしょうか」は、「ございます・でしょ・う・か」に分解できます。「ございます」は動詞「ある」の丁寧語です。非常に敬意が高く、「あります」よりも丁重度の高い表現なので、目上の方に対してよく用いられます。「でしょ」は丁寧な断定の助動詞「です」の未然形。これに推量の助動詞「う」と疑問の終助詞「か」で構成されています。つまり「ございますでしょうか」は、「あるだろうか」の丁重度を高めた敬語表現だと言うことができます。

■二重敬語では?

次に、しばしば指摘される「『ございますでしょうか』は二重敬語では?」という疑問について考えてみましょう。実際、ネットを検索すると、「『ございますでしょうか』は二重敬語である」と結論づけた記事が多くみつかります。理由は、「ございますでしょうか」には「ございます」と「です」というふたつの丁寧語が使われているからです。

ここで改めて「二重敬語」についてのおさらいを。二重敬語とは、「ひとつの語に同じ種類の敬語を二重に使ったもの」です。現在、敬語は「尊敬語 」と 「謙譲語I」、「謙譲語II(丁重語)」、「丁寧語」と「美化語」の5種類に分類されています。よく例として挙げられる「お読みになられる」は、「読む」という語を「お読みになる」と尊敬語にしたうえで、さらに尊敬の助動詞「(読ま)れる」を加えていますから、二重敬語です。

「ございますでしょうか」には確かに丁寧語がふたつ使われています。しかし厳密には「ございます」は「ある」の丁寧語であり、「です」は「だ」の丁寧語です。二重敬語の定義にあるように、ひとつの語に同じ種類の敬語を重ねているのではなく、「ある」と「だ」、それぞれを丁寧語にした表現であるため、二重敬語にはあたらない、という意見もあるのです。

仮に「『ございますでしょうか』は二重敬語のため誤り」だとすると、「ございますでしょうか」同様、ふたつの丁寧語を用いた以下の文章は、すべて誤った表現となります。

「恐縮ですが、今回の企画について改めてご説明いただけますでしょうか
・「そちらに弊社の○○は伺って
おりますでしょうか
・「恐れ入りますが、ご署名をお願いできますでしょうか
・「差し支えなければ、ご用件をお聞かせ願えますでしょうか
・「こちらに○○様はいらっしゃいますでしょうか

文化審議会答申の「敬語の指針」も、 「二重敬語は一般に適切ではないとされている」としながらも、「ただし、語によっては習慣として定着しているものもある」として、尊敬語の「お見えになる」や謙譲語Ⅰの「お伺いする」「お伺いいたす」を例として紹介しています。確かに「お伺いする」「お伺いいたす」は歴然とした二重敬語なのですが、「お伺いします」「お伺いいたします」などなど、現在では当たり前のように使われているため、「誤りである」とまでは言い切れないですね。

このように考えてみると、「ございますでしょうか」をはじめ「いただけますでしょうか」などについても、二重敬語では? という疑問は残るものの、習慣として定着した表現であり、基本的には許容の範囲なのでは?と言えるかもしれません。言葉は時代とともに変わっていくものですし、実際にこれだけ広く使われていると、「ご説明いただけますか」よりも「ご説明いただけますでしょうか」のほうが「丁寧な表現だと感じる」人の数は、決して少なくないでしょう。


【「ございますでしょうか」の正しい使い方がわかる「例文」2選】

以上のように、「ございますでしょうか」は習慣として定着した表現ではあるものの、実際には二重敬語では?という疑問を抱く人は多く、さらに少々まわりくどさを感じる表現であるのはたしかです。

接客業などでは丁寧に話そうと思うあまり、ついつい敬語を過剰に使ってしまう場面はあるものですし、相手もあえてそれをとがめることはないでしょう。でも、メールなどの文書では間違いは目立ちます。「敬語の知識が足りない」と思われるのも損ですから、この機会にクセになっている丁寧すぎる言い回しを改めて、「ございますでしょうか」はシンプルに、「ございますか」としてみては? 十分丁寧な表現ですから目上の方にも使えますし、何より印象がすっきりしますよ!

■1△:「お打ち合わせをお願いしたいのですが、お時間ございますでしょうか」
  ○:「お打ち合わせをお願いしたいのですが、お時間ございますか」

■2△:「ここまでの説明について、不明点やご質問はございますでしょうか」
  ○:「ここまでの説明について、不明点やご質問はございますか」


【「ございますでしょうか」の「類語」「言い換え」表現は?】

■ありますか

■あるでしょうか

「ございます」は動詞「ある」の丁寧語で、「あります」よりも丁重度は上。それだけに、社内の同僚やごく親しい上司などに対しては、少々よそよそしい印象です。少しカジュアルな「〜はありますか」という表現で十分です。「あるでしょうか」も同様の使い方ができます。

■おありですか

「ある」という動詞に接頭語「お」を付けて尊敬語とした「おありですか」は、「ありますか」や「ございますか」よりも丁重度の高い表現です。「もしもご不明点などおありでしたら…」などと使えます。


【「英語」で言うなら?】

■Do you have〜?

[Do you have〜?]を直訳すると「〜を持っていますか」となりますが、時間や質問があるかどうかの確認にも使うことが可能です。

・Do you have a minute?(今少々お時間はありますか?)
・Do you have any questions?(ご質問はありますか?)
・Do you have any opinions?(何かご意見はありますか?)
・Do you have an appointment?(事前のお約束はありますか?)

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「ございますでしょうか」は二重敬語だという指摘を受けるフレーズですが、接客業などを中心に、対面の会話では日常的に使用している職場も多いようです。上司をはじめ、周囲がごく普通に「ございますでしょうか」を使っている環境だと、「正しい」と言われる「ございますか」ではやや丁寧さに欠けるのでは? と感じてしまうかもしれませんね。とはいえ、過剰敬語の例としてよく取り上げられる「させていただく」同様、多用するとしつこく感じられる言葉であるのは事実。この機会に過剰敬語をやめ、敬語の整理整頓をするのも、大人の語彙力ではないでしょうか。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社))/『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社) /文化審議会答申「敬語の指針」 :