「ご苦労さまです」と「お疲れさまです」はどちらも「ねぎらいの気持ちを表す言葉」ですが、このふたつの違いをご存じですか? 現在では慣習として「ご苦労さまです」は目上の方へは使わないというルールが定着しています。言葉は時代とともにその意味合いを変えていくもの。敬語に対する感覚を常にアップデートさせるのも、大人のたしなみといえるかもしれません! 今回のテーマは「ご苦労さまです」。大人として適切な使い方を、一緒に考えましょう!

【目次】

「目上の人には使わない」ことが慣習として定着しています。
「目上の人には使わない」ことが慣習として定着しています。

【「ご苦労さまです」を深く知るたの「基礎知識」】

■「ご苦労さま」は「いたわり」と「ねぎらい」の言葉

「ご苦労」の「ご」は相手を立てる接頭語。「労」という字は、「ねぎらう(労う)」、「いたわる(労る)」と読みます。語尾に「さま」を付けてさらに丁寧な表現とした「ご苦労さま」は、「相手の労苦をねぎらう意」で用いる言葉です。

■「ご苦労さま」は目上の人には使わない

もともと「ご苦労さま」は目下の者から目上の者へかける言葉として使われていました。しかし、現在では「目上の者が目下の者に対して使う挨拶」として定着しており、目下の人から目上の人に向かっては使わないほうがいい表現とされています。からかいのニュアンスを含んだフレーズとして「ご苦労さま(笑)」と使われることもありますよね。

■「お疲れさま」とどう違う?

「お疲れ」の「お」は、相手を立てる接頭語。「お疲れさま」は相手を敬い、労苦をねぎらって言う挨拶の言葉です。職場では、先に帰る人への挨拶にも使われます。「ご苦労さま」が目上の人から目下の人に使う言葉であるのに対し、「お疲れさま」は相手の立場に関わらず、同僚、目上の人に対しても使用できます。丁重度を高めたいなら「お疲れさまです」「お疲れさまでございました」となります。

とはいえビジネスシーンでは、「こんにちは」や「おはようございます」と同じように、日常の挨拶表現として「お疲れさまです」を使うオフィスも多いですね。これらの表現は基本的に社内、いわば身内同士で使う言葉です。社外の人でも親しい人や関係が深い人に対しては使うこともありますが、業界によっては社外の人に「お疲れさまです」を使うのは失礼にあたると判断する人もいます。「本日はありがとうございました」など適切な言葉に言い換えましょう。


【「ご苦労さまでした」を目上の人に使うと「失礼」な理由は?】

現在、「ご苦労さま」は「目上の者が目下に対して使う挨拶」として一般に認識され、定着しています。文化庁が発表した平成17年度「国語に関する世論調査」ではすでに、自分より職階が上の人に「お疲れさま(でした)」を使う人は69.2パーセント、「ご苦労さま(でした)」を使う人が15.1パーセントという結果が出ています。現在ではこの数字の差はさらに広がっているのではないでしょうか。敬語表現において「相手を大切にするということは、相手を自分よりも上に扱うこと」。ですから一般的に「自分のほうが上であるかのように受け取られる表現」は、尊重すべき人に対しては使わないのがマナーです。ほかにも、「ごめんなさい」「すみません」「〜して差し上げましょう」など、礼儀をわきまえた大人であれば、目上の方に対しては使わない表現はいくつかあるものです。


【「ご苦労さまです」が使える場面と「例文」2選】

■上司と部下のやりとりの例文

・上司から部下へ:「1年以上を費やしたプロジェクトもいよいよ完成ですね。ご苦労さまです」

・部下:「お先に失礼します」 
 上司:「ご苦労さま!」

■会社に出入りする顔見知りの業者さんに対して

オフィスに出入りする業者に向かい「ご苦労さまです」を使っても間違いではありません。ただし、オフィスで「お疲れさまです」が多用されているのならその習慣に合わせるべきですし、たとえ周囲が「ご苦労さま」を使っていても、自分より年配の、お世話になっている業者さんに対して「ご苦労さまです」を使うことに抵抗を感じるのであれば、その感性に従って「お疲れさまです」を使ってはいかがでしょうか。


【「ご苦労さまです」を使うときの「注意点」まとめ】

・「ご苦労さまです」が使えるのは自分と同等か目下の人に対して

・「ご苦労さまです」は「お疲れさまです」「ありがとうございます」に変換可能

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「ご苦労さまです」は本来「誰に対しても使えるいたわりとねぎらい」の言葉ですが、現在では「目上の者が目下に対して使う挨拶」として広く定着しています。「この場面なら使ってOK」と正しく判断するのはもちろん大切ですが、「お疲れさまです」や「ありがとうございます」に言い換えることができるのですから、いっそ潔く「使わない」のも選択肢のひとつかもしれませんよ!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :