今回取り上げるのは「来るもの拒まず、去るもの追わず」ということわざです。意味も難しくないし…と思ったあなた、本当のところを理解しているでしょうか? どんなシーンで使うものなのでしょうか? 由来や類語など、大人として知っておきたいあれこれを解説します。
【目次】
- 「来るもの拒まず、去るもの追わず」とは?「意味」や「由来」
- どんなシーンで使うのが適切?「正しい例文」「間違った例文」4選
- 「来るもの拒まず、去るもの追わず」の「類語」「対義語」
- 「英語」ではなんと言う?
【「来るもの拒まず、去るもの追わず」とは?「意味」や「由来」】
■読み方
「くるものこばまず、さるものおわず」と読みます。
■意味
「やって来るものは誰でも受け入れ、去って行くものは引き止めたり追いかけたりしない」と言うことを言っていますが、広義では「無理強いしない」「その人の心に任せる」という意味にも理解できます。
■由来
そもそもは中国戦国時代の思想家・孟子(もうし)の逸話集『孟子』に収録されているフレーズです。その原典には「往(い)くものは追わず来るものは拒まず」と記され、「去るものはあえて引き止めず、道を求めてくるものは誰でも受け入れる」と訳されます。孟子のような人物には多くの弟子が集まります。「自分を信じることができなくなって去るものを引き留めることはしないが、自分を頼ってくるものはどんな人物でも受け入れよう」と説いたことから生まれたフレーズだとか。弟子に向き合う師匠としての、心構えや価値観を示した言葉でもあります。また、「自分を信じるものなら、どんな背景をもつものでも受け入れる」という覚悟を示しているともいえるでしょう。
【どんなシーンで使うのが適切?「正しい例文」「間違った例文」4選】
■1:〇「来るもの拒まず去るもの追わず、そんな懐が深く、覚悟をもって接してくれる上司に恵まれて幸運だ」
■2:〇「来るもの拒まず、去るもの追わずということわざは、執着がないとか責任感がないといった意味で誤用されることが多い」
■3:×「来るもの拒まず、去るもの追わずでは、本当に戦力となる従業員が育たないのではないか?」
■4:×「来るもの拒まずとは逸話の大きさを感じるが、去るものも追わないとは執着がないだけだ」
【「来るもの拒まず、去るもの追わず」の「類語」「対義語」】
「来るもの拒まず」も「去るもの追わず」も、観念的には同じことを表しています。このことわざの類似フレーズとして挙げられるのは、「清濁併せ呑む(せいだくあわせのむ)」という慣用句。「心が広く、善でも悪でも分け隔てなく受け入れる。度量の大きいことのたとえ」です。
■類語
ほかにも、「多くのものを受け入れる心の広さ」を表す単語やフレーズはたくさんあるので一部をご紹介します。
・心の広い ・器の大きい ・度量の大きい ・懐が深い ・寛容 ・包容力がある
■対義語
このことわざを「心が広い」と捉えると、その対義語としては下記のような言葉が当てはまるでしょう。
・了見の狭い ・心の狭い ・器の小さい ・偏狭な
【「英語」ではなんと言う?】
「来るもの拒まず、去るもの追わず」を英訳すると〔those who come are welcome, those who leave are not regretted〕となります。また、〔tolerance〕(異なる意見や行動などを許容すること)や、〔magnanimity〕〔generosity〕(いずれも度量の大きいことを示す)という単語でも表せます。
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今回取り上げた「来るもの拒まず、去るもの追わず」ということわざは、中国の思想家・孟子に端を発するものでした。日本語のことわざには、この『孟子』や、孔子の『論語』からのものがたくさんありますね。語彙力を磨くためにも、そのような書籍に触れることもおすすめです。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)/『今日から役に立つ! 使える「語彙力」2726』(西東社)/ 『プログレッシブ英和中辞典』小学館 :